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紡ぐ希望

「もう限界だ!」

 ジンは大分疲弊していた。

 結構なやり手のジンをもってしてそう言わせるとは。

「奴さん、そんな強いのか?」

「ああ、体が硬いだけにまったくダメージが通らねえ。このままじゃ一方的な消耗戦だ。回復しながら戦えばいざ知らず、こんな状況じゃ一旦退くしかないな」

「分かった、目的は達成したんだ。逃げるぞ」

「――ディアル!」

「え?」

 俺たちが逃げようとするよりも先に、ノーラが回復の呪文を唱えた。

 光はジンを包み、傷が消えていく。

「私が後方援護します。倒せるなら今倒してしまいましょう 」

「無理することはない。俺の目的はあくまで時間を稼ぐことだ」

「心配せずともまだ魔力は残ってます。今ここで取りこぼしたらまた被害が出ます。なら倒せるうちに」

「……そうかい。シュウ! 今のうちに行商人どもを逃がしといてくれ!」

「はいよ!」


 ジンとノーラがゴーレムと奮戦する間、俺は行商人の避難誘導に尽力した。

「今俺の仲間が魔物と戦っています! 今のうちに避難してください! 少しすれば村がありますから」

「すまねえ……この礼は必ずするから生きて帰ってくれ」

「ジンはあんな岩野郎に負けるほど弱くはありませんよ」

「はは、頼もしいな」

「おしゃべりはいいから、早く逃げて」

「ああ」

 俺は誘導しながらも、横目でジンを見る。

 回復しながらなら勝てるとは言うが、未だ事態が好転している訳ではなさそうだった。

「くっそ、やっぱダメージが通らねえ」

「ジン、こっちはあらかた終わったが、行けそうか?」

「分からねえ。動きが鈍いおかげで脅威では無いが、こいつがぶっ倒れるイメージも湧かねえ」

「正攻法じゃダメかもしれない。何か弱点を探すんだ」

「弱点って……簡単に言うぜ」

 ジンはゴーレムに絶え間ない斬撃を浴びせる。

 しかし、剣は岩の体に弾かれるばかりである。

 ゴーレムはジンを振り払おうと腕を振り回すが、鈍重な動作はジンが避けるのを容易にしている。

 時には回避が間に合わず、攻撃を受けることもあったが、その都度ノーラが回復するので大事には至らない。

 ノーラはさっきまであんなに魔力を消費していたというのに、まだ余力があるのか。

 まるで一回、魔力を全回復でもしたような――

「ゴーレムの動きが止まった?」

 俺が考え込んでいるうちに、何か進展があったようだ。

「どうした、ジン」

「今、こいつの動きが……しまった」

 ジンは油断したのか、ゴーレムの拳をもろに受けた。

「ぐはっ!」

「ディアル! 負けないで!」

「ぐ、すまねえ」

「ジン、今止まったって言ったな」

「ああ。確かに一度こいつは完全に停止した」

 俺の記憶が正しければ、あの時ゴーレムはジンを掴みかかろうとして、それにジンが攻撃したはず。

「掌だ! 掌を狙え!」

「分かった」

 ジンはゴーレムの攻撃を避け続け、ゴーレムが再び手を開いた瞬間、そこに強烈な一撃を与えた。

「動きが止まった!」

「掌を見ろ! そこに弱点があるはずだ」

「赤い珠だ……これだな」

 ジンはさらに剣を叩き込み、ゴーレムの掌の赤い珠は砕け散った。

 あれが核のようもので、ゴーレムの心臓なのだろう。

 しかし、まだ安心はできない。

「……勝ったのか?」

「ジン! 気を抜くな!」

「な――があっ!」

 ジンは再度動き出したゴーレムに殴り飛ばされた。

「くそっ、手は二つある! もう片方の手にも同じような核があるはずだ!」

「分かった!」

 また機を見出だそうと、ジンは回避に専念する。

「くっ、さっきのは右手だったが利き手だったのか。中々左手を開きやしねえ」

 それもあるだろうが、相手も馬鹿じゃない。

 片方の核を破壊されたことで警戒しているのだ。

 その証拠にまったくといっていいほど左手を動かさない。

「これじゃあ、さっきまでに逆戻りだ。何かねえのか」

 何か、と言われても、俺には到底思い浮かびそうもない。

 いや、あるにはあるのだが、いくらなんでも危険過ぎる。

「こっちです!」

「な!? 馬鹿な真似はよせ! 死ぬぞ!」

 そう、危険過ぎるんだ。囮としてゴーレムの左手側に立つなど。

 それをノーラがやった。

 何の攻撃手段も防御手段も持たないノーラが。

「きゃあ!」

 ゴーレムは反射的に左手でノーラをはたいた。

 殴った、じゃなかっただけまだマシだが、その痛みは計り知れない。

「貴様!」

 ジンはさっきの攻撃で開かれた左手を思いっきり叩いた。

 もう一つの核も砕け、ゴーレムの体はぼろぼろと崩れ落ちていった。

「おい、大丈夫か!」

 ジンが駆け寄るよりも先に、ノーラの体は光に包まれ、怪我は回復していく。

 普通は痛みで呪文を唱えるどころじゃないはずだが……、

「……遅延詠唱(ディレイスペル)

 詠唱した魔法を未来に発動する技術。

 母さんの話じゃあ、かなりの高等技術だったと思うが……、これがあったから迷いなく囮になったのか。

「馬鹿野郎! 一歩間違えば死んでいたかもしれないだぞ! なんて無茶するんだ!」

 ジンの言う通りだ。

 いくら遅延詠唱で回復できるからって、死んでしまっては元も子もないんだ。

 こればかりは擁護することはできない。

「だって、神様が私を守ってくれるから」

「またそれか! 神も仏も聞き飽きた!」

 ジンは腕を振り上げた。

「それに、シュウさんがやる前から諦めるなって。やるだけやってみろって」

 ジンの掌はノーラの顔の前で止まった。

「……シュウ」

 ジンは呆れたという顔でこちらを見てきた。

 おいおい、俺のせいかよ。

 やるだけやってみろとは言ったけど、命張れとまでは言ってねーぞ。

「あーっ! 俺はもう疲れた! 早く帰って寝るぞ!」

「じゃあ寝る前に神の教えを説いてあげます。感動で疲れも吹き飛びますよ」

「うるせえっ! 神なんかいねーよ!」


「もう行くのかい? ノーラも世話になったし、もう少しゆっくりしてってもいいんだよ」

 翌朝、俺たちは早速身支度を整え、村を出ようとしたが、それを引き留められていた。

「いえ、お気持ちはありがたいですが、急ぎの旅なので」

「シュウさんたちはどうして旅を?」

「ああ。国王からの命で魔王討伐に行くんだ」

「……私も付いていきたい! いいよね、おばさん!」

「私はかまわないけど……いいのかい? 危険な旅なんだろ。ノーラが付いていったところで足手まといにしかならないじゃないかい」

「いや、回復役がいるのはありがたいです。むしろこちらからお願いしたいくらいでした」

「そうかい。この子も年頃だからね。少しは世界を見て回った方がいいだろう。それじゃあ頼んだよ」

「はい!」

「よろしくお願いします! シュウさん、ジンさん!」

 こうして、ノーラが魔王討伐の仲間に加わった。

 ジンが露骨に嫌そうな顔をしていたのは、見なかったことにしておこう。

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