マンション住人篇2 23時0分の過ごし方
--魔女篇
「いやぁ、やっと外に出れたわぁ!」
「そうね。あなたといると頭が腐りそうだから良い気分転換ですわ」
「ちょ……お前!言い過ぎだぞ!」
一番目に言葉を発したのは、怪力系の女。
二番目はおしとやか風に見えるも言葉にはトゲだらけの女。
三番目はツッコミ担当の眼鏡を掛けた知的系女。
三人の共通点は 魔女 であること。
「でもホントにオーヤはこんなとこにいんのかね。あいつが何でマンションなんてやってんだぁ」
「お菓子稼ぎらしいな。金は魔法でなんともなるが、お菓子は魔法で上手くいかないらしい」
「クソガキですこと。ねぇリリー」
「うるせーぞメイデン」
リリーは怪力女。メイデンは腹黒女。知的女の名前はマーヤ。三人共オーヤとは親友とも呼べる仲間である。
マンションに部屋を借りていない三人は、現在マンション屋上にて町を眺めながら話している。端からみればただのコスプレ女達なのだが、彼女らにとっては何もおかしくはないので気にしている様子はない。
「っていうかマーヤ」
「なんだ」
「出入り口んとこ、誰かいるよな」
「そうだな」
「あらあら、殺してしまいましょうか」
「早いわっ!ただの人間だな。殺すにも色々面倒なことになりそうだわ」
「んだなぁ。魔法もそんなに使えねーからなぁ。とりあえず、オーヤに会いに行こうぜ!」
三人はあえて出入り口は使わず、屋上から飛び降りた。唯一の幸福は周囲に人がいなかったということ。いたとしても彼女らに関係はない。
--チンピラ篇
「あぁん、なんだありゃあ……」
出入り口にいたのは金髪で革ジャンを着ている、いわゆるチャラい男。名前は旭岡大樹。
「黒服のヤローが来てないか見に来たが……別のモン見ちまった。あれも魔女とかいう輩か?」
屋上に出て煙草に火を点けながら、魔女達が飛び降りた地上を見る。しかし、そこには誰もいない。飛び降りた痕跡すらない。
「ふー……。とりあえずあいつのことはどうでも良い。黒服のヤロー共をどう全滅させるかだ」
--黒服篇
「長が寝たか。見張り替わるぜ」
「おー。悪いな島川」
自分達が部屋を借りている305号室で、夜中は組員が代わる代わる待機することになっている黒服集団。長と呼ばれるリーダーが就寝したため、現在は沈黙から解きはなたれている。島川と呼ばれた組員はメンバー10人の中で最も体格の良い男であり、その力ははかり知れない。
「気を付けろよ。このマンションには警察もいるからな」
「知ってらぁ。別に気を付けることもねぇ。俺らは何もしていないんだしよ」
島川は笑いながら言う。
「それより、例のターゲット。アイツ殺せんのか?」
「殺すか殺さないかではない。やるかやらないかだ」
「……それ、同じじゃね?」
--刑事篇
「大体お前はいつも……」
筋肉刑事こと支倉の説教はまだ続く。白川にしてみれば、部屋に戻った午後5時から説教されているので慣れてしまい、今はラジオを聞くかの如く平然としている。
「聞いてんのか白川ぁ!」
「はいはい聞いてますとも」
それよりも、白川は新しくこのマンションに入って来た以々島という男のことを考えている。奴は何か隠している。頭を掻きながら支倉の説教を他所に今後の計画を練る。
--??篇
この廊下のカビ臭さには参る。
俺は今まで人を食べていた。女だ。
まずかった。あいつはまずい。
きっとロクな生活をしていなかったのだろう。
男みたいな味がした。
まぁいい、その内食べる魔女のために、今は腹を空かせておこう。
そうだ、新入りがいたな。
あいつに任せてもいいな。
とりあえず、次はあの白川とかいう刑事。
何か探ってるあいつから殺す「おい」!?
「お前、何してんだ。」
「……」
「隠すなよ。血ぃ、ついてるぜ」
「嘘だろ」
「嘘だよ」
なんだ、金髪ヤンキーかよ。
面倒くさいに会った。屋上行こうとして、階段を上がっていたらちょうど階段を下って来たこいつに出会ってしまった。
距離が近づく。
反射的に(何の反射かはわからない)顔面に拳を入れる。
と、同時に俺の腹にも拳が入った。
「ぐ……」こいつはなかなかの力があるため、思わず唸り声が漏れる。
奴は平然とした顔で鼻血を滴ながら笑う。
「これで何回目だ。嫌いすぎんだろ俺のこと」
「そっちこそ。この力の入れ具合だとわかっていただろ」
「まぁな、お前みたいな怪しい野郎に油断はしねーよ」
そう言い残し、金髪ヤンキーは消えた。
何なんだあいつは。次はあいつにしようか。
とりあえず、この高ぶりを治めるため、風に当たりに屋上へ向かう。
--チンピラ篇
「ちっ、鼻血出てるじゃねーか」
屋上と5階をつなぐ階段で拳を交わした旭岡は、舌打ちしながら鼻血を拭う。かれこれ6回目くらいになるので、最早慣れているのだ。初めて出会ったときは旭岡から。気にくわないと感じた旭岡はふいに腹に拳を入れた。
それからは会うたびの行事となっている。一部の人間しかこのことは知らないのだが、その一部も面倒防止のために口を出さないようにしている。
「しかしホントに気に食わねぇ。次はもう少しやってやるか」
決意も新たに、金髪ヤンキーは部屋に戻る。
--引きこもり篇
「オーヤ……今日……遊べない」
引きこもりであり、102号室に住んでいる目無 夢。
彼女は毎晩、唯一の理解者であるオーヤと遊ぶことを日課としている。
学生時代のトラウマから、現在は完全に部屋から出てこなくなってしまった目無にとってオーヤは親のように感じている。
しかし、今日は友達が来るからということで日課はなくなってしまった。
この場合はネットの世界に飛び込む。
オーヤにオススメしてもらったゲームに浸かるのだ。
「オーヤの……友達……魔女かな」