あの時
「誠…」
震えるような声で親友の翼が俺の名前を呼んでいる。
「心配すんな俺がこの爆弾を止めて見せる」
ケータイから爆発物処理班の斎藤さんの声が聞こえた。
「おい!応答しろ!愛川誠!愛川」
「すいません。それでこの後はどうすればいいのですか?」
「後、もう少しで終わるよ。赤いコードと青いコードがあるだろ?」
「はい。それに後、黒いコードがあります」
「黒いコードだと⁉︎」
その後の返事がなかった。
「あのすいませんすいませんどうしたんですか?もしもし?」
爆弾のタイムリミットは3分を切っている。ここまでかなり繊細な作業をしてきたせいか集中力が切れてきている。
「どうした?」
翼が不安そうな声で聞いてきた。
「なんでもないよ。もう解除出来た」
本当は解除なんか出来てなかった。だがもうタイムリミットまで1分を切っている。もう解除なんか出来ない。
「そうか。やったな。さすが誠!」
「おう」
斎藤さんはどうしたんだろう。耳を当てても何かゴチャゴチャ言っているだけで、内容は全く理解出来なかった。ただ理解出来た言葉は信じたくはないが…
「手順を間違えただと‼︎」
斎藤さん以外の人の声で明らかにそれは《手順を間違えた》と言っていたんだ…