君のためにできること1
2ヶ月ぶりくらいに書きました。3章すべて書くには時間がたりないので分けながら投稿することにしました。
「わりい。ちと熱くなっちまった。」
宮元さんはちょっと照れて両手で自分の顔を覆った。そしてそのまま大きく一息ついて言った。
「おまえ、来週の日曜仕事できる?あの子のとこにいくんだけどさ。」
シゴト、アノコ・・・。
最初、頭が混乱して宮元さんが何を言っているのか理解できなかった。
シゴト;写真、アノコ;望月由莉華。日曜日に望月さんの写真を撮りにいく。
内容を理解しても何て答えるべきなのか考えられなかった。
彼女の綺麗な緑色の瞳、冷たい声が脳裏に蘇る。
・・・アナタノコトガ、メザワリダッタンジャナイカシラ・・・
「やめとくか・・?」
何も言えず俯く僕をみて宮元さんは優しく笑った。
「あの子が冷たいのはお前に対してだけじゃねえよ。別に本気で嫌われてるわけじゃないから心配すんな。」
そうかもしれない。あの言葉は僕がしつこかったからはずみででてしまった言葉だったのかもしれない。
それでも・・・もう一度彼女に会うっていうことが想像できなかった。それは僕の肩に大きな重圧を与えた。
宮元さんはいつものように僕の頭をぐちゃぐちゃにかき回し,そしてあきらめたように言った。
「わるいな。あんな話聞かせたあとで仕事頼むなんてさ。ごめん。日曜は俺だけでいくよ。」
その手は優しくて、僕は自分を情けなく思った。
「でもちょっとだけ聞いてくれよ。」
顔をあげると、宮元さんはいつもより少し真剣な表情でマンションの外の暗い道をみつめていた。それは細い通りで人通りはなく小さな街灯の明かりだけが暗いアスファルトを照らしていた。
「俺には無理なんだよ。きっとこれからもちゃんとあのコを撮ってやることはできない。あのコの感情を受け入れてやるほどの器は俺にはない。もうわかってるんだ。」
いつも自信たっぷりな宮元さんからは信じられない言葉だった。
「悠。」
僕は自分の名前を呼ばれてどきっとした。
宮元さんの声は静かな夜の空間に低く響く。
「俺はおまえならできるかな。って思うんだ。」
思ってもなかったことを言われて僕は場違いに間抜けな声をあげた。
「えっ!なんで?!」
僕のあまりの驚きに宮元さんも少し驚いて、そしてくすくすと笑った。
「なんでだろうなぁ?わかんねえ。ただの感だよ。」
「そんな無責任な・・・。」
宮元さんの適当な言葉で僕は今までの緊張がとけて気が抜けてしまった。
宮元さんはそんな僕をみて小さく笑い続ける。
「俺はおまえの写真、結構好きだよ。まあ技術はまだまだだけどな。なんていうかなぁ。俺は難しいこといえないけどおまえはいいレンズ持ってるよ。カメラじゃなくてこっちな。」
言いながら人差し指で自分の右目を指した。
「おまえはまっすぐに物を見れてると思うよ。多分屈折したところがないんだろうな。」
宮元さんがそんな風に僕をほめることなんてなかったからすごくうれしく思いながら、少し気恥ずかった。
「なんか宮元さんらしくないや。」
宮元さんも少し照れていたのか、まあまあと言いながら僕の肩をポンポンっと叩いた。
「俺がおまえをあのコのとこに連れてこうとしたのは、おまえのためじゃない。あのコのためだ。おまえならあのコの何かを変えられるんじゃないかと思ったんだよ。目をそらさずにな。・・・・あとは俺のためだな。はっきり言ってあのコのこと撮るのが俺は辛いんだよ。」
そして僕をみてまたくすっと笑った。
「ごめん。全部俺の勝手だよ。おまえには関係ない。」
「じゃあな。遅くまでわるかったな。華絵さん心配するから早く帰れよ。」
そう言うと宮元さんはマンションのエレベーターで部屋に戻っていった。僕はそれを複雑な気持ちでただ見ていることしかできなかった。
帰り道の間も家に帰ってからも、望月さんのこと、いつになく自信なさそうな宮元さんの様子、そして宮元さんの言葉のことをずっと考えた。
日曜の仕事に行くことを決心して宮元さんに電話したときには深夜2時を過ぎていた。
宮元さんは、わかった、ありがとう。とだけ言った。
読んでくださってありがとうございます☆