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もみじと満月、そして秘密

宮元さんから電話があったのはそれから二日後の夜だった。着信表示に僕が少し躊躇しながら携帯の受信ボタンを押すといつもとなにも変わらない適当な感じの宮元さんの声が聞こえた。

「うっす。お前明日暇か?ちょっと紅葉でも撮りにいかないか?」

「うん。学校が終わってからならいいよ。どこまで行くの?」

僕もいつもと変わらない感じで返事をした。それから目的地と時間を決めるとじゃあ明日。と言って電話を切った。いつもと何も変わらなかった。少しほっとした。あれからずっとあの日のことで落ち込んでばかりいた。あの望月さんって言う人に一方的に目障りって言われたこともその理由の一つではあるけれど、それよりも自分の感情を押さえられずに宮元さんにあたってしまったこと、仕事を途中で投げ出して迷惑をかけてしまったことで自己嫌悪ばかりしていた。明日宮元さんにちゃんと謝ろう。そう決めると僕は学校から帰ったらすぐ出られるようにカメラ用のバックに荷物を詰め込んだ。


学校から帰って着替えるために急いで二階の自分の部屋に向かおうとすると居間のほうからケラケラ笑う母の声が聞こえてきた。

「それでねその店員がほんとにしつこくて私ほんとに頭にきて言っちゃったの。なんていったか分かる?」

はははっと男の笑い声が聞こえて僕はのぼりかけた階段を駆け下りて居間に向かう。

「才能ないんじゃない。」

「いやだー。さすがショウちゃん!」

居間の扉を開くと笑い転げてた母と宮元さんが一斉に僕の方を見た。

「おかえり。悠もシュークリーム食べる?ケーニヒスクローネの新作よ。久しぶりにショウちゃんが来るって言うから三越まで買いにいっちゃった。」

クスクスと笑いの余韻を残しながら母はソファーを立ってキッチンに向かった。

僕は宮元さんの隣に座った。宮元さんはまだくっくっと笑い続けていた。

「お前の母ちゃんはいつまでたってもきっついなあ。」

僕はそんなに明るい気分にもなれず、またシュークリームだねとも言えずただ黙っていた。宮元さんも黙って紅茶を飲んだ。

「今日は事務所じゃなかったの?」

自分の声が少し緊張しているのが分かった。

「んっ。仕事で近くに寄る予定があったからついでに華絵さんに会いにこようとおもってさ。」

宮元さんの声も少し硬い感じがした。

ふーん。というと会話が止まってしまった。僕は謝るタイミングをはかっていたけどなんとなく切り出すことができずにいた。気まずい雰囲気を破るように母が紅茶とシュークリームを持って現れ

「なになに。どーしたの?ケンカでもしたのー?」

とまたクスクスと笑う。

「そんなんじゃないよ。」

僕が怒ったようにぼそっとつぶやくと

「あらやだー。生意気になっちゃって。」

とまたケラケラ笑った。母にとっては何でもおかしいことみたいだった。そういえば昔ね。と言って宮元さんと仕事でケンカをしたことを話だす。宮元さんも笑いながら話を聞く。僕は黙ってシュークリームを食べて紅茶を飲んだ。そして

「じゃあ。着替えてくる。」

と言って居間をでた。部屋を出るときに宮元さんが。家の前に車つけとくからなー。と言って僕がわかった。と言った。

宮元さんは黒のサーフに乗っている。後部座席は全部倒して三脚とかカメラを積み込んでいる。僕は自分のカバンを後ろに乗せると助手席のドアを開けて宮元さんの隣に座った。宮元さんは窓を開けると母にひらひらと手を振った。

「じゃまたね。卓哉さんによろしく。」

「おっけー。今度は鍋でもさそうわ。」

母が手を振るとアクセルを踏んで車を出した。日が沈みはじめて空は茜色になっていた。僕は宮元さんが窓を閉めるとすぐずっと頭の中で繰り返していた言葉を言った。

「このあいだはごめんなさい。」

宮元さんは何も言わずにまっすぐ前を向いていた。

「あんなふうに仕事の途中で迷惑かけることもうしません。」

宮元さんは前を向いたままで

よろしい。

と軽くいった。そしておまえビートルズ好きか?と聴くとビートルズのCDをかけて自分も歌った。

信号で止まると

「くそっ。お前も歌え。俺だけばかみたいじゃんか。」

と言って僕の頭をぐちゃぐちゃにかき回す。

「やめてよー。知ってる曲少ししかないよ。」

僕が抵抗すると、しょうがねえなぁ。って言って僕が知ってるLet it beをオールリピートにして目的地につくまで二人で10回も歌った。宮元さんは7回目くらいからのりのりに体を揺らしながら歌ってて、僕は事故るんじゃないかって心配してしっかり前をみてた。


大きな池のある公園についたとき日はすっかり沈んで月がでていた。今日は満月だった。

宮元さんは三脚をセットして池と紅葉と月のバランスを変えたりしながら何枚も写真を撮った。僕も紅葉をとったり紅葉をみに来てる人を撮ったりした。満月の強い光に照らされた紅葉はすごくきれいだった。月の光はライトアップの光より少し柔らかくて紅葉の上に降ってくるみたいにしてその赤さに強弱をつけていた。

「満月の夜は紅葉がいっそう赤くみえねえか。」

宮元さんは三脚を片付けてバックにしまい、カメラを肩にかけて空を見ていた。

「うん。綺麗な色だね。」

僕も空を見た。宮元さんは紅葉を撮るために今日を待っていたんだ。きっと毎年満月の夜を選んで紅葉を撮りにきているんだ。僕はそう思った。

「満月ってのはなんか誘われるんだよ。紅葉だって海だって満月の夜が一番綺麗だ。」

宮元さんは空を見ながらふっと酔ったように笑い独り言みたいに言った。

「色気がある。」

僕はクスクスと笑った。宮元さんらしいや。僕の方をみると宮元さんも同じように笑った。

「犬も猫も女も男も。」

カメラを構えると僕に向けた。僕はあんまり撮られるのが好きじゃなかったからふっと横を向いた。カシャっというシャッターの音がする。

「おまえも俺も。」

もう。って言いながら振り向くと宮元さんはカメラを下ろしてにやっと笑った。月の光の中でそうして立っている宮元さんには少し憂いがあって確かにいつもより“色気がある”気がした。

「ねえ宮元さん。望月さんとはどういう関係なの?」

僕はすごく素直な気持ちになって聞いた。あの日からのもやもやとした気持ちはすっかりなくなっていた。

宮元さんは一瞬真顔になるとまたふっと色気のある顔をする。

「お前あの子に惚れたのか?」

僕は月をみて考えた。

「そんなんじゃないけど・・・。」

何なんだろう。自分でも良く分からない。失礼なことをいちゃって悪かったな、とかなんであんなことを言われたんだろう、とかじゃなくてただ単純にあの人の目が忘れられなかった。

「興味はあるな。」

思ったままに言うと宮元さんはふふっと笑った。

「色っぽいこというじゃねえか。」

そして僕の隣に来ると腕をくんでさっきの僕と同じように月をみて少し考えてから言った。

「おれ昔華絵さんのことを最高の女っていったろ。」

月の光は宮元さんの顔にゆらゆらと強弱をつける。

「望月由莉華は俺にとって最悪の女だ。」

宮元さんはそういって僕の顔を見る。

「わかる?」

「わかんない。」

僕は首を横に振りながら言った。

「色々難しいんだよ。あとで事務所によろう。」

よし、かえるぞ。って言って一人で駐車場に向かっていく。僕はその後を慌てて追いかける。宮元さんの身長は188cm,僕の身長は165cm、コンパスの差は歴然だった。

駐車場までなんとか追いついて車に乗り込むと、ぐーと宮元さんのおなかの音がする。

「事務所の前におでんやでもよらない?」

僕は笑っていいよ。て答えた。もう色気もなにもありゃしない。


おでんやでは望月さんの話はしなかった。いつもみたいに母の話や宮元さんがシベリアでオーロラを撮ったときの話をしながら僕も宮元さんもすごくたくさんおでんを食べた。宮元さんは途中で3回、ビール飲んでいい?って聞いて僕は3回絶対だめ。って答えた。あと宮元さんは

「紅葉っていうのはな、寒くなるとあかくなるんだぞー。お前もはやく苦労して赤くなれよ。」

っていった。

二人ともおなかいっぱいになって店をでて

「ごちそうさまです。」

僕がおごってもらったお礼をすると宮元さんは

「いいよ。今日は給料なしだからな。」

と言って笑った。

「今日は仕事じゃないんでしょ?」

「うんまあな。」

僕は今日宮元さんが誘ってくれたことをすごくうれしく思った。


事務所につくと宮元さんはちょっとまってろ。と言って奥のほうにある物置に入っていった。僕はいつものようにキッチンでコーヒーを入れながら、宮元さんはビールの方がいいかなぁ。と思った。事務所っていってもここには宮元さんが寝泊りしてる部屋もあって普通にいったら宮元さんの家なんだけど2LDKのうち6畳の寝室とキッチン、お風呂、トイレ以外すべて仕事用に使われているから僕達はここを事務所って呼んでいる。10畳くらいあるLDには打ち合わせ用のテーブルとソファー、テレビ、オーディオ類、写真関係の書籍やカタログの入った本棚、仕事用のデスク、パソコンとかが置いてあってお客さんが来るところだからいつも結構きれいにしている。宮元さんが入っていった8畳の物置には昔の仕事の資料やカメラの機材とかがしまわれている学校にあるみたいなスチール棚が6つあってすべてにカギが掛けられている。あと入ってすぐ右の二畳くらいのスペースを改造して現像室にしている。そこも比較的整頓されている。宮元さんの部屋にはセミダブルのベッドとタンス、あとCDと本くらいしかないのになぜかいつも散らかっている。洗濯物は大体クリーニングで、クリーニングから帰ってくるとそれらは部屋に投げ捨てられる。宮元さんは寝室は寝れればいいんだ。と言ってめったに掃除しない。

「これだよ。」

宮元さんはファイルを二冊もって物置から出てきた。僕はテーブルにコーヒーを並べてソファーに座っていた。宮元さん、ビールのがいい?と聞くと後でいい。と言ってファイルをテーブルの真ん中に置いた。そして僕を見て

「いいか。これは仕事の話だから秘密厳守だぞ。」

と真剣な顔をして言った。僕はこのファイルの中に何かすごい秘密があるのかと思いどきどきした。

「じゃあ、いきまーす。」

宮元さんがめくった一冊目の1ページ目には小学生くらいの女の子がピンク色のドレスを着て立っていた。言って2ページ、3ページとめくっていく。どの写真も同じ女の子でページをめくる度にだんだん成長していった。服装はドレスだったり着物だったりした。そしてどの写真でも女の子はきっと前をにらんでいた。その瞳は深い緑色で僕が忘れられずにいた望月由莉華の瞳だった。

「正解はこういうことでした。」

ほとんど3日前の彼女と変わらない感じの最後の12ページ目を閉じると宮元さんはおどけていった。そして閉じられたファイルを食い入るようにみつめる僕に言い訳するみたいに言った。

「俺は結構頑張ったんだけどな。最新のギャグを覚えたり、半分色仕掛けめいたこともしたこともあった。大サービスしたんだよ。」

僕が何もいえずに視線を上げると宮元さんはあー。って小さく叫ぶみたいにしてソファに仰向けになって長い足を組んだ。

「だけど結局12年間笑った顔は撮れなかったー。」

言い方はふざけた感じだったけど顔は真剣で少し悲しそうだった。

「もう一冊のほう、見てもいい?」

僕が聞くと宮元さんは目を閉じて言った。

「どうぞ。」

僕は二冊目のアルバムを取るとそうっと表紙をひらいた。

「うそっ!」

びっくりしてファイルを落としそうになった。

なぜかっていうとそこにファイルされていた写真には組んだ指のうえにあごをのせ少し顔を傾けて目を細め誘惑するみたいに微笑む彼女が写っていたから。

続けてページをめくると今度は毛の長いペルシャ猫を抱いて白い歯をみせて優しそうに笑っていた。そして最後の写真では豪華な内掛け姿で目は伏目がちだったけど口もとは静かに微笑んでいた。そこにファイルされていたのは3枚の写真だけだった。

「笑ってるよ!」

僕は宮元さんに向かって写真が見えるようにファイルを開いた。それは宮元さんのファイルで彼がそれを知らないわけがないのに。宮元さんは目を閉じたままで言った。

「よく見ろ。それはあの子じゃないし俺が撮った写真でもねえ。」

もう一度よくみるとその写真達はすべてセピア色だったし画像も今のものより荒かった。そして右下に印字されている日付はすべて23年以上前のものだった。

「それはあの子の母親だ。」

僕はもう一回写真を見直す。言われると鼻の高さとか目の形が少しだけ彼女と違う気がした。宮元さんは、よっ。と起き上がるとコーヒーを飲んだ。

「2、3年もすれば誰だって変におもうさ。カメラに対してこれだけ笑わない子供は普通じゃない。ましてや金持ちのご令嬢でこれだけの美人だぜ。自分が世界の中心っておもってても不思議じゃない。」

視線を感じて僕がそおっと写真から顔をあげると宮元さんは開いた足の上に手を組んでおき真剣な顔で僕をじっと見ていた。

「俺も調べちゃったわけよ。」

そして望月由莉華の生い立ちについて語り始めた。


望月由莉華の父親、望月真樹はセントラルトレードっていう商社の会長をしている。僕はあんまりそういうことに詳しくないけど、宮元さんの話によるとそれは日本で一番古い貿易会社でそこからセントラルトラベルとかセントラル鉄鋼とか8つの会社ができて、つまり望月真樹はそれらすべてを束ねるグループの代表を兼任している。僕も一応母親はもと売れっ子アイドルだし、父親は小さいけど安定してる会社の社長だからそこそこ裕福な家庭に育ったわけだけど、それでも月とすっぽんらしい。

話はその望月真樹がまだ会長にも社長にもなっていない頃から始まる。まだ部長で32歳のとき彼は修行のために海外を飛び回っていた。望月家では専務になる前に関係しているすべての国との貿易をチームリーダーとしてまとめることが必要条件で、また社長になる前には最低2個の海外にある子会社の社長として3年間ずつ会社をまとめることが必要条件だった。彼がフランスと日本を往復していたとき、専務になるための必要条件をクリアする直前だった。そしてその最後の国で彼は望月由莉華の母親と出会った。彼女はフランスで芙蓉という芸名でモデルをしていた。国籍はフランスだったけど生粋のフランス人じゃないのは一目両全だった。どんな血が混じっているのか分からなかった。芙蓉の母親、つまり望月由莉華の祖母は娼婦だった。芙蓉の目は綺麗なブルーで肌は白かった。だけど髪はほとんど黒の濃いブラウンだった。その容姿の珍しさと美しさはすぐプロの目に止まり彼女は16の時モデルとしてデビューした。芙蓉の母は彼女を日本人とのハーフだと言った。なぜなら知っている黒髪の外人の中で日本人が一番お金持ちで、優しくて、質のいい客だったから。そして日本の花の名前を芸名としてつけた。今ではその名前しか残っていなくて16までの間彼女が母からなんとよばれていたのかは分からない。芙蓉はフランスが嫌いだった。彼女はその髪の色と娼婦の娘であることによってずっとフランス人じゃないといじめられ続けてきた。芙蓉はその意外性がうけてモデルとして成功し普通に生活できるようになると日本語を勉強し始めた。いつか日本にいき本当の日本人になりたいと願った。そして20のときなにかのパーティーで望月真樹とであった。芙蓉はそのパーティーに日本人がいると聞くとすぐに望月を探して日本語で声をかけた。望月は英語はできたけどフランス語は少し苦手で久しぶりに聞く母国語にすごく安心感をもった。二人はすぐ恋人になり深く愛し合った。望月は芙蓉の美しい容姿と日本語や日本のことを一生懸命知ろうとする一途さに強くひかれた。芙蓉は望月の背後にある日本を愛した。そして望月がフランスで仕事をした8ヶ月間ずっと夫婦のように暮らし、期間の終わりに一緒に日本に帰った。そのとき芙蓉は妊娠4ヶ月の身重の体だった。

芙蓉を連れ帰った望月にそのときの社長だった望月の父は激怒した。望月には婚約者がいた。望月が32になっても結婚していなかったのはその婚約者が当時15歳だったからである。婚約者が16歳になる次の年、二人は結婚、望月は専務に昇格、そしてセントラルグループは経営をさらに拡大する予定だった。セントラルグループにとって望月の結婚は絶対だった。芙蓉は結婚はなくてもいい、子供の認知もいらない、ただ日本にいさせてください。と頼み続けた。望月の家の中で芙蓉は使用人として扱われ、その娘由莉華は使用人の娘として育てられた。由莉華に真実を伝えることは許されなかった。次の年、父の計画通りに望月は結婚し、専務になりアメリカにある子会社の社長として出向した。望月は芙蓉を連れて行こうとしたが、父はそれを絶対に許さず、芙蓉自体も日本に残ることを強く希望した。芙蓉の愛が自分にではなく日本にあることに気がついて失望した望月は16歳になったばかりの妻を連れてアメリカに渡った。その3年間は芙蓉にとっても由莉華にとっても幸せな日々だった。使用人といっても望月家は大きな家だったので普通に生活できる給料はもらえたし、未婚の母でも子供はすくすくと育った。でもそれは3年間だけだった。3年後アメリカから帰ってきた望月の妻、彩香は次の3年間は日本に残るといいはり、望月が一人イギリスにいる間、芙蓉を執拗にいびり続けた。アメリカでの3年間、望月は彩香のことを一度も愛さなかった。彩香は望月を問いただしすべてを聞いた。その事実はいままで愛され続けて育った彩香に対しての侮辱行為だった。彩香はまだ4歳の由莉華をも標的にし、服を脱がせ真っ暗なへやに24時間閉じ込めた。芙蓉にはそれ以上の行為をした。でも体に傷をつけることはしなかった。望月にばれてはいけなかった。望月の正妻であること、それがそのときの彩香のただひとつの砦だった。そして望月が帰った3年後、芙蓉は病に伏し、由莉華は笑うことのない暗闇を以上に恐がる子供になっていた。そのまま芙蓉は亡くなり、由莉華はたった一人望月家に残された。一年後、社長になった望月は父に由莉華を実の娘として認知し望月家の後継者とすることを申し出た。7年の結婚生活で孫をもてなかった父は自分の年も考えそれを承諾しようとした。しかし彩香がものすごい反抗をした。望月が40であろうと、その父が70であろうと彩香はまだ24だった。私が望月家の後継者を生むんだ、そう決心するとあらゆる手を使い一年後望月との間に子供を作った。父はよろこんで由莉華の認知はしない、後継者は彩香の子だと断言した。彩香の子供が生まれて一年後望月の父は満足そうにいきを引き取った。望月は父の存在がなくなると彩香やその他の人間の反対を押し切り由莉華を実子として認知した。しかしそれは由莉華にとって母と自分の苦しみの理由を知るための辛いだけの真実だった。由莉華は誰にも心を開かないまま冷たい目の女性になった。


「俺は望月さんがあの子を実子と認知して公に公表してから毎年あの子の写真を撮ってるんだ。望月さんにとってあの子はたった一人本気で愛した女との大切な愛娘なんだよ。母にも娘にも結局片思いだったとしても。泣かせるだろ。」

すべて話し終わってずっと下を向いていた宮元さんは僕の顔を見た。

僕は呆然とした。そんなめちゃくちゃな現実ってあるんだろうか?

静かな、冷たい、悲しい、緑の瞳。

冷たい言葉。

胸が苦しかった。

「家まで送ろうか?」

すごく優しい声だった。

僕は首を横にふるとできるだけ笑顔を作った。ものすごく引きつっているのが自分でも分かった。

「電車で帰る。・・・早くビール飲みなよ。」

僕は部屋を出て宮元さんはマンションの出入口まで見送りにきてくれた。僕は出入口のところで背の高い宮元さんの顔を見上げるようにして聞いた。

「なんで彼女は最悪の女なの?」

宮元さんは僕の肩にぽんっと手を置いた。

「俺は人でも動物でも一番パワーある瞬間を撮りたいんだよ。泣いてもいい、笑ってもいい、その感情がカメラまで伝わってきたとき、シャッターを切る。・・・・あの子は写真を撮るとき全身全霊で憎しみを現すんだ。だけど俺にはそれがひどく悲しげでに見えて、助けてって、言ってるみたいに見えて・・・俺は・・それが受け止められなくて。」

宮元さんの手は痛いくらいに僕の肩をぎゅっと強くつかんだ。少し震えていたかもしれない。

「シャッターを切る前にいつも目をつぶっちまう。・・・・俺にはとれねえ、最悪の被写体だよ。」


今、本業が忙しくてこれ以上続きを書く時間がありません。もし、万が一、続きを早く読みたいと思われる方がいらっしゃいましたら本当に、本当に申し訳ありません。

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