もう一つの小さな目
心地よい時間は何時間にも感じられたのだが、唐突にインターフォンの音が響いた。メイド優佳は申しなさげに慎也の頬から手を離し、玄関へと急いだ。慎也は母親から離れた赤子のように不満そうな顔を見せたが、今我が家にやってきたものを考えると、例の恐ろしい笑みを浮かべるのであった。
「慎ちゃ…慎也様にお届けものですよ」
そう言いながら優佳は小さなダンボールを抱えて戻ってきた。中身を知らない優佳は何の疑いも持たず、どうぞ、とご主人様へと荷物を手渡すのであった。
「どうも」
そう呟くなり、尚更に大きく口を歪ましてはにかむのであった。
前話の出来事以来、慎也の欲望は一気に成長してきたのだが、それをいちいち書くと長くなってしまうので省略する。
そして慎也の待ちに待った月曜日が来た。休日には引っ張り起こされたとはいえ、いつもは昼過ぎになっても起きる気配のない慎也だったが、今日は違った。丁度優佳が大学のために家を出たのと同じぐらいにムックリと起きて、優佳が家にいないのを何回も何回も家の中を回って確認してから、自分の部屋に戻り、例のダンボールを封しているガムテープを乱暴に引きはがし、中身を取り出した。それは掌で十分に収まるほどの小型の箱のようなものであった。慎也はその箱のようなものを大事そうに小脇に抱えて、見られるはずもないのにやたらとキョロキョロとあたりを見渡しては着実に優佳の部屋へと向かうのであった。
数日ぶりに優佳の部屋に入った慎也は、どこから持ってきたのか、部屋の中にも関わらず金属の脚立を立てて、上っていた。そして例の物体をドア側の天井に取り付けた。慎也はそれで満足して脚立から降り、下からその物体を見上げた。すると一瞬反射か何かでキラリと光ったように見えた。もしや光ったあれはレンズじゃあるまいか。となると、あの物体はまさかカメラなのではないか。なんということか。この男はあの美女の部屋に小型カメラを仕掛けたのか。成程。慎也が以前優佳の部屋に立ち入った時はどこに取り付けるべきかを調査していたのだ。そして小型カメラをインターネットを使って購入し、今か今かと配達の日を待っていたのだ。
しかし、目に入りにくいことは確かだが、剥き出しのままである。さすがにこれでは見つかるのも時間の問題ではないか。まさかそこまで思慮が及ばなかったのか?
実は、先日侵入した時点ではもう少し巧妙に隠そうと思っていたのだが、つい最近の例の出来事のせいで、これぐらいならバレても許してくれるだろう、という変に高を括っていたのであった。
上機嫌で優佳手作りの昼食―朝食はいらないと慎也が押し切ったのであった―をペロリと平らげた。気の早い蚊が身体の周りを飛び回るのにイライラしながら今か今かとメイドの帰宅を待ちわびていた主人はいつのまにか眠り込んでいた。慎也の体は“早起き”に耐えられなかったようである。そんな慎也の身体を揺すり起したのは、これまた上機嫌そうな笑顔の優佳であった。
「夜ごはんできましたよ」
慎也はウーンと唸りながら目をこすり、優佳の帰宅を不揃いの目で確認すると、気持ち悪い笑顔で彼女に返事するのだった。
「やっとだ」
このペースだとまだまだかかりそうです。
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