外
あれ以降慎也は再び、見せつけては立ち去るという通り魔的な痴漢へとなったのだった。だが、恐ろしいことに優佳にも多少の慣れというものが出てきたのか、慎也の望む表情もなかなか顔を出さなくなったのだった。人間は一度最高の快楽の味を覚えると、それ以下のものでは満足しなくなってしまうもので、慎也も例に漏れず、再びあの色を出すにはどうすればよいのだろうかと頭を捻っていた。
そこで思いついたのは優佳にこだわらないことであった。確かに優佳は美しい。呆れ果てるほど美しい。だが街に出れば、それに負けず劣らずの女性だっているだろう。そんな女性が醜い顔の男の醜いものを見せつけられたらどんな色を浮かべるだろうと思うと、慎也は早速興奮がこみ上げてくるのだった。決行は明日の夜だ。慎也はすっかりやる気になっていたのだった。
今や慎也は、街ゆく人に顔を笑われることなんか気にならず、自分の欲求を満たすことだけを考えていた。優佳の積極的な接触のおかげで、彼の人嫌いは多少やわらいでいたのだった。優佳と言えば、彼女は慎也が牙を剥いた時でさえも、翌日にはケロッと何もかも忘れたかのように輝かしい笑顔で慎也に仕えていたのである。優佳という女性は、最早この鬼の巣窟から抜け出して一刻も早くあの温かい家族のもとへ帰ればよいものを、何をいつまでグズグズとこのような飯事を続けるのであろうか。慎也に何か未練でもあるというのか。
そんな本性の知れぬ彼女であったが、慎也が外出すると言った時には当然のことながら驚いた。今までそんな素振りも見せなかったのだから、むしろ驚かないほうが不思議である。純粋な優佳は慎也も人生をやり直すために一歩ずつ前進しているのだろうという前向きな考えで、フラフラしながら靴を履くジャージ姿のご主人様の背中を見ていた。慎也は、かなり遅くなってしまうかもしれないから、先に寝ててもいい、というようなことを回り道しながら言い残して夜の闇の中へ消えてゆくのであった。ここで断わっておくが、彼女は先にも書いたように純粋に慎也を信じているのである。彼の例の奇行から逃れられることを期待してすんなりと送りだしたのではない。それだけは理解しておいてほしい。
久しぶりに娑婆の空気を吸った犯罪人は、自分の体力はこんなにも衰えていたのかと再認識させられていたのだった。家に籠る以前は標準、少なくともそれに若干劣る程度の体力は備わっていたのだが、どうやら今は5分も歩けばハアハアと肩を揺らして汗だくになってしまうのだった。歩き回るのは得策ではないと思った慎也は、人通りの少なそうな、かつ電灯が不調のせいか薄暗い道を選んで、獲物が巣にかかるのを待つ蜘蛛のように待つことにしたのであった。
しかし、男がポツポツと通るだけで、うら若き女性は全く通る気配もないことに慎也はひどく憤慨した。今の時代、こんな道は避けるのだろうか。落ち着いてきた慎也の脳髄は冷静な見解を示した。確かにその通りである。慎也のような男がほっつき歩く時代だ。わざわざこのようないかにもな道を歩く女性はいないであろう。だが立地上、どうしても通らなければいけない女性もいるわけである。醜い顔面の蜘蛛男の餌食になったのは、そんな女性であった。
整って美しい優佳とは違って、童顔で可愛らしい顔を持つ娘は、これまたどうもウブそうで、慎也はひどく興奮したのだった。弱い光に照らされた娘の顔はまるで中学生のようであったが、スーツを着ている以上は成人なのだろう。そんな娘は、わけもわからず電灯によって陰影の強調された汚らわしい物体を見ていた。その顔には、照れ、困惑、好奇心、そして優佳にはなかった軽蔑とさまざまな色が混ざり合っていた。また、調子の悪い電灯のおかげで、少しだけ照らされる顔は余計に色っぽく見えるのであった。慎也はこの娘が優佳とはまた違った表情であるのに大変興奮した。だが慎也がニタニタとしていると、想定外の出来事が起こった。急にキャアアアアアアアアと娘が叫んだのだ。普通に考えれば、このような行動も頭に入っているはずだが、優佳の行動が全てと思っていた慎也は心臓が飛び出るほどに驚いて、スボンを上げるのも忘れて逃げ出すのだった。だがすぐに走りにくい原因に気付いて、みっともなくズボンを上げてまた走り出すのであった。
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