2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
高校一年の時、道路の陥没に巻き込まれて、奇跡的な生還を果たした俺。
後遺症もなく、一時は奇跡だと持て囃された。
俺はそんなの関係ないし、記憶なんてないし。
陥没で地表からかなり下に落ちて動けなかった時、ずっと気を失っていたらしくて、何も覚えていない。
ただ夢を見たことは覚えている。
夢の中で俺は異世界転移をしていた。
だけど、なんていうかチートがない。
物語にしたら、絶対売れなさそうな話だ。
ああ、でも、俺の話は売れないだろうけど、あいつ、ノルの話は売れるかもな。
ノルっていうのは、夢の中であった少年で、魔族と聖女の間に生まれた子だ。
魔族にも人間にも迫害されて、逃げ続けた両親だったがとうとう殺され、ノルだけが生き残った。
ノルは白髪に赤い目の子だった。
顔はめっちゃ綺麗だった。
女の子みたいな。
ああ、俺はゲイでもないし、ショタでもないから、そういう気はまったく起きなかった。
俺は親に恵まれていて、キャンプとか結構連れて行ってもらっていたから、火も起こせたし、魚もさばけた。
だから、やせ細ったノルを見た時、自分が育てないとって使命感に燃えてしまった。
彼と過ごしたのは1か月くらいだったかな。
魔族に見つかって、ノルを庇った俺は殺されかけた。
しかしノルが魔力を爆発させて、魔族を撃退。
俺は死ななかった。
瀕死の俺をノルが魔力を使って癒してくれた。
ノルはその時まで魔法なんて使えなかったから、びっくりしたなあ。
これでノルは強く生きていけるって思ったら、急にノルの髪が黒色になったんだよなあ。
そして、俺はそこで目が覚めた。
病院でだ。
最初は混乱していた俺だけど、夢だと自覚した。
異世界移転なんて現実にありえないし、俺は事故現場で見つかった。異世界から何かもってきていたら、証明できたんだけど、何もない。
俺が地下にいたのはたった三日間だったらしい。
異世界で過ごした日は一か月くらいだったから、あり得ない。
ノルのこともそのうち、思い出さなくなっていた。
だから、俺は今とても困っている。
目の前の、真っ黒の髪で真っ赤な瞳の男が殺気を放ちながら俺を見ている。
殺気なんて、普段まったく感じたことなかったけど、今はひしひしと感じている。動いたら殺される、全身の毛が逆立っている感じだ。
男は黒い服を着ている。
なんていうか中世っぽい。
その周りにいるのは、人間じゃない。
えっとオークって生き物っぽい。
アニメや映画の知識だけど。
どうやら、俺、異世界転移をしたらしい。
そして二年前、俺はやはり異世界転生していたらしい。
「私は、タツローのことを忘れない日はなかった。しかし、お前は違ったんだな。私のことなんて、すっかり忘れていた」
男は俺を睨んだまま、詰る。
男はノルらしい。
え?少年って言ってなかった。
うん。
俺が会ったのは少年だった。
十歳くらいの女の子みたいな。
けど、今目の前にいるのは、大人だ。うちの親よりはかなり若いけど、俺よりは絶対年上。しかもかなり上だ。
顔が同じ、よく見ればノルが成長したらこういう顔になるかもなあ、とは予想できる。
だけど、ノルと会ってから二年しか立っていない。
俺は今十八歳。
ノルも二年後であれば、十二歳くらいのはずだ。
だが、目の前の怖い綺麗なお兄さんは、自分をノルだという。
いや、わかるわけないよね?
だって、俺、あれは夢だと思ってたし、ノル、変わりすぎだろう。
俺よりかなり年上なんて、ありえない。
「タツロー。私は二十年、お前を待ち続けた」
「に、二十年!?」
「なんだ、その驚きは?」
「いや、俺は、小さいノルと会ってからまだ二年しかたっていないし」
「二、二年?!時間の流れが違うのか?私はこの二十年間で、お前が別世界からきたことを悟った。そういう魔法がないか探して、やっと召喚魔法を身に着けた」
召喚魔法、そうか、俺は召喚されたのか。
ノルに……
じゃあ、帰る方法はあるってことか。
「ノル。お前の用事が済んだら、俺を元の世界に戻してくれないか?」
「はん?何を言っている。元の世界に戻すわけないだろう。やっとタツローに会えたんだ。お前はずっとこっちにいろ」
「はあ?なんで?」
「私はお前を癒したせいで、光の魔法を失い、完全に魔族になった。おかげで、魔族には歓迎されるようになったがな。だけど、人間じゃなくなったから、昼は動けなくなった。光を浴びると魔族は死ぬからな。私は人間の生活に未練がある。だけど、私は人間に戻れない。光を浴びれないんだ」
俺は死にかけた。
それをノルが癒してくれた。
あの時、髪色が黒色に染まったのは、光の魔法を失ったからか。
俺のせいで。
「……わかった」
借りは返すのが筋だ。
もし、ノルが俺といるのが嫌になったり、飽きたら、その時元の世界に戻してもらおう。時間の流れが違うみたいだから、元の世界に戻ったとしても前みたいに誤魔化しがきくかもしれないし。
「タツロー。お前の考えていることは予想できる。残念だが、私がお前に飽きることはない。この二十年、ずっとお前のことを考えてきたからな」
ずっとって。
なんで、そんなに。
俺はこの時、まったくノルの気持ちが理解していなかった。
というか、二年前、いや、この世界では二十年前か。
その時の小さいノルの気持ちも理解していなかったみたいだ。
ノルは俺に構い、あの時の料理をつくってくれとせがんだ。
子供みたいだ。
二十年って言っていたから、おっさんのはずなんだけど。
魔族たちは、俺のことが嫌いみたいだけど、ノルの手前何もしてこない。だけど、ノルがいないと大変だ。それを知っていたみたいで、ノルは俺の傍にずっといた。
俺はノルに、親だと思われているんだ。
そう想像していた。
だけど、実際は違った。
魔族は寿命がない。
だから子孫を残すなどと考えない。
同性でもそういうことをする。快楽のために。
「嫌だ。絶対に。しかも、なんで俺は女役なんだよ。男役ならしてやる!」
「本当か?」
「いや、違う。しない。絶対に。ノルは何か勘違いしている。親とそういうことはしないだろう?」
「親?何を言っているんだ。タツローは。親がこんなに若くて、小さいわけがない」
「は?いやいや、本当は俺の方が年上だろ?」
「タツローは嘘つきだな。男役ならするっていったぞ」
ノルは俺の扱いがうまい。
おっさんなのに、小さい時のノルを沸騰させる表情をされると俺は弱い。
男役だし、入れる方ならいたくないはずだ!
「わかった。やってやる」
「タツロー。愛してるぞ」
本当、ノルはこういうことをよく言う。
そうして、俺はまんまとノルの口車に乗せられ、処女を失うことになった。
ええ、処女。
童貞ではない。
あいつは騙しやがった。
しかも、あいつはこの二十年、なんやかんや経験を積んでいて、いや……。これ以上言うのはやめよう。
ノルの重い愛は俺の帰りたい気持ちをどんどん浸食していった。ノルといるのが普通になり、彼が傍にいないと不安になる。
最悪だ。俺、乙女か。
魔族たちも俺とノルがそう言う関係になると、友好的になった。
なんていうか、ノル、実は魔王にまで昇りつめていて、逆らった奴には容赦しないんだよね。
いわゆる俺は伴侶になってしまい、魔王の嫁には危害を加えられないとか。
うーん。
微妙な気持ちだ。
とりあえず、ノルは人間には戻れないけど、魔族としてうまく生きれているようだ。
ノルの親殺しは魔族の仕業だった。だけど、すでに仇は討っている。
魔族も友好関係を作れば、そんなに悪い存在でもない。
俺は、ノルの傍でせっせと料理を作ったり、甲斐甲斐しい嫁になってしまった。
異世界転生、BL版という奴だろうか。
親のことを思い出したりするけど、俺は幸せなので心配しないでほしい。
願わくば、俺が幸せに暮らしていることを知ってもらえれば、と思っている。
(おしまい)