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最強公女は微笑まない 〜伝説の黒竜は公爵令嬢に生まれ変わった〜  作者: 翠蓮
ヴァイオレット=ホルシュタイン、10歳。
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7.王都からのお客様


ホルシュタイン公爵領・リエンの厳しい冬と肌寒い夏を幾度か越えて、10年の月日が経った。


雪が降り積もるほど寒さが進んだ時期——王都で言えば晩秋にあたる季節のある日、1台の馬車と、それを取り囲む15人ほどの騎士と馬が、王都からリエンに向かって走っていた。


馬車の車体に描かれし紋様は、黒い鷹。

ホルシュタイン家の家紋である。

騎士たちの防寒用にファーがあしらわれたマントにも、翼を広げた黒い鷹が刺繍され、寒空にはためいていた。


はらり、はらりと降り始めた柔らかな雪の粒に気づいた馬車の中の子どもは、ひょっこり、窓から顔を出した。



「雪だ!すごいな、リエンはもう雪が見れるんだ!」


あたりは薄く雪が積もり、泥と混じって白と茶のまだら模様だし、空は冬らしいどんよりとした灰色であるが、子どもの声は弾んでいた。


「いけません、ギルベルトぼっちゃま。窓から身を乗り出されては、危険にございます」


馬車の横を伴走する騎士・マシューは、静かに子供を諭す。


ちぇっ、と呟き、ギルベルトは大人しく馬車のソファ席に掛け直し、そっと窓を閉じた。



やんちゃそうでいて、意外に従順なこの少年は、ギルベルト=ホルシュタイン、11歳。


「ギル、いい子だね」


ソファにぺったりと背中をつけ、頬を膨らませるギルベルトの隣に座っていて、彼の頭を優しく撫でるのは、ギルベルトの兄・アシュリー=ホルシュタイン、14歳。


2人の父親であり、ホルシュタイン家の次期当主であるべネディクト=ホルシュタインは、2人の向かいの席に座って、窓の柵に片肘をつきながら、優雅に微笑んだ。


彼の息子たちは兄弟揃って、よく似た容姿をしている。

白にほんの少しの鈍色を混ぜたようなシルバーの髪、少し暗めのアイスブルーの瞳。

兄はいつも柔和にその瞳を細める一方で、弟は利発そうにその瞳をカッと見開くことが多い。

そして、兄に比べて弟は幾分あどけない顔つきだ。

そんな違いはあれど、おおよそはやはり似ていると言えて、これらは彼らの父親、すなわちベネディクトから受け継いだものであった。


要するにそっくり親子3人が、1つの馬車に乗って仲良くリエンの公爵城に向かっている、そんな状況であった。


「ねえ、あと何日ぐらいでリエンに着くの?」


6日ほどの旅程にも不満を言わず、それでもそれなりの退屈を感じていた次男ギルベルトは、毎日この質問をする。


「今日中には着くよ。ギル、よく頑張ったな」


父ベネディクトがそう答えると、ギルベルトはゆるむ口をきっと縛って、でも足をプラプラと揺らした。


「うん、大人しく、お兄さんらしくいるって、約束だからね」


えっへん、とでも言い出しかねない健気な頑張りに、ギルベルトの兄、アシュリーはクスクスと微笑みが止まらない。

概ね、ベネディクトも同じ顔をしていた。


ギルベルトは普段はもう少し年相応の我儘さがある少年だが、大人しくしていることを条件に、ホルシュタイン家の年に1度の領地視察への随行を許されたのである。


そう、次期当主ベネディクトは、家族もろとも普段は王都のタウンハウスで生活をしているが、こうして1年に1度、2週間ほど公爵領リエンに滞在するのだ。


単身で行くことが多かったが、長男アシュリーを連れ始めたのが2年前から。

そして今年は、次男ギルベルトも随行することとなったのである。


それは、ギルベルトの強い希望からであった。

理由はおそらく単純で、今年は10年に一度の『黒竜参り』という儀式と祭事が、リエン領内にある始まりの森で行われるからである。

それを見てみたいのであろう。


大人しく穏やかな兄アシュリーに比べ、ギルベルトはまだやんちゃ盛りなので、タウンハウスで留守番をさせようと思っていたが、ベネディクトの妻・マリアベルの「何事も経験させればいいのよ」の一言で、ギルベルトの領地行きが決まった。


ちなみにマリアベルは現在、第三子を出産して間もないため、王都に残っている。



しかしそれにしても、こうして大人でも疲れる6日の旅路を、健気に大人しく過ごそうと努める幼い息子の姿を見て、ベネディクトは成長を実感し、感激せざるを得なかった。



「ねえ兄さん、リエンの領主をやっているっていう叔父さんって、どんな人?」

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