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最強公女は微笑まない 〜伝説の黒竜は公爵令嬢に生まれ変わった〜  作者: 翠蓮
ヴァイオレット=ホルシュタイン、0歳。
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2.生まれ変わってしまった黒いりゅう

「…と、いうわけで、こうやって我がノルト王国が出来たわけですよ、ヴァイオレットお嬢さま!」


読み聞かせを終えた侍女・マーシャはパンッと本を閉じて、向かい合って座る小さな女の子に対してニッコリ微笑んだ。


ヴァイオレットと呼ばれたその子は、歩くこともまだできず、たいそう分厚いシルクのクッションにただ乗せられて、そして生まれたてのふわふわの髪の毛は申し訳程度に前髪を作っているぐらいの、つまりは言葉などわかるはずもない赤子であった。


わからなくても、エイサイ教育ってものが大事なのよ!


侍女マーシャはそこまで学が高いわけではないけれど、その愛情は海より深かった。

だからこうして、ヴァイオレットが賢く育つように祈って、本来3歳児が読むような本を読み聞かせたのである。


マーシャの手の中にある赤い本のタイトルは、「ノルトおうこくけんこくのものがたり」。

つまりはこの国の建国神話を子供向けにやさしく書いたものである。


もちろん喋ることのできないヴァイオレットは、わかったともわからないとも言わない。


でも、わたしがニコニコ笑いかけてやれば、きっと喜んで笑ってくれるだろう。

妹・弟が4人いるマーシャにとって、それは朝日が昇ることと同じぐらい常識であった。


しかし、目の前の赤子・ヴァイオレットは笑いもしなければ泣きもしない。


まったく色のない表情のヴァイオレットは、ただ黄金の瞳をじっと、目を糸にして笑うマーシャに向けているだけであった。


それは経験則だけで人生を生きるマーシャの常識を覆すものであった。

けれどマーシャは、何度も言うが、愛情が海より深いのである。


「か…可愛いー!!!!!」


赤子らしからぬヴァイオレットを少しも気味悪がることなく、むしろマーシャは手に持っていた本をポイっと投げ捨て、己の身を抱きしめた。

本当はヴァイオレットを抱きしめたいくらいの衝動であるが、何せ身分の高い赤子である。


マーシャは溢れる愛情を、身をよじらせることでしか発散できないのであった。


「なんてクールで知的なの!?ヴィンセント様譲りなのだわ!!

ああ、アンナ。見てよこのお美しい黄金の瞳を!!このふさふさのまつげを!!

お口元も見て!?まだ赤ん坊でいらっしゃるのに、こんなにお淑やかに口をつむっていらっしゃるなんて!

ヴァイオレットお嬢様は領内一…いいえ国一…あぁ、世界一賢い赤子様だわ!」


うっとり悦に入るマーシャに対し、ヴァイオレットに与えられた子供用おもちゃを布で磨いていた同僚のアンナは、呆れ返った目をしていた。


「はいはい、マーシャ。口ばっかり動かさないで。そろそろお嬢様はお昼寝の時間でしょ、早くゆりかごまで運んで差し上げて」


アンナは現実主義者で、すぐ「世界一」と使いたがるこのちょっとお馬鹿な同僚・マーシャには何かと世話を焼かされることが多かった。

とはいえ、上機嫌に貴族の赤子を愛するマーシャの寛容さ・愛情深さには感服するものがあり、アンナはマーシャをかなり好ましく思っているのも事実であった。


はぁい、とマーシャは気の抜けた返事をして、ヴァイオレットを抱え上げようとする。


ヴァイオレットは抵抗するわけでもなく、ただこくりと頷いた。

抱きやすいように両手を軽く上げて、抱かれるのをじっと待っているような感じだった。


お嬢様は、言葉を理解していらっしゃるのではないかしら?

どうしてこんなに物分かりが良くていらっしゃるの?


小さく尊い赤子の温もりを感じながら、マーシャは独りごつ。



ー何にせよ、ヴァイオレットお嬢様は世界一最高で賢い公爵令嬢になるに違いないわ!



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