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最強公女は微笑まない 〜伝説の黒竜は公爵令嬢に生まれ変わった〜  作者: 翠蓮
ヴァイオレット=ホルシュタイン、10歳。
14/17

14. 黒竜の祝福③

ベネディクトは、なかなかに勘の鋭い息子たちの答えに、その通りだと頷いた。


「ヴァイオレットはこのままいくと、派閥争いに確実に巻き込まれる。各々の貴族が、自分の陣営に祝福持ちを引き込もうとするだろう。下手をすれば、火種になる前にと、命を狙われてしまうことだって、ありうる」


しん、と場の空気が重たく、2人の令息とマシューの体にのしかかった。


ヴィンセントもついに、深い溜息をつく。


「王室以外から祝福持ちが出たことさえ、前代未聞なのに。あの子ほど完全な形の黒竜の祝福を持った者も、これまでにいない」


1番の問題は、彼女が巻き込まれうる未来の予測が、出来ないことだった。

いっそ王室生まれであれば、祝福は有利に働くだけで、無関係の闘争に巻き込まれるという形は取らなかっただろう。

いっそ些細な祝福であれば、誰もが彼女をそこまで特別視することはなかっただろう。


赤子の頃から妻アマリアの面影が濃かったヴァイオレット。

彼女は成長するほど、ますますアマリアに似ていった。

丸くて大きな瞳も、ツンと小さな鼻も。

それなのに、髪と瞳の色だけは、疑いようもなく、アマリアにも、ヴィンセントにでさえ似なかった。


ヴィンセントは、ヴァイオレットという娘が、自分の元に生まれてきてくれたことを、人生の至上の喜びと考えていた。しかし同時にヴァイオレットにとっては、自分のような父親の元に生まれてきたことが、人生のうちの最も不幸な出来事になるだろうと思う。

彼女が祝福を持って生まれたのは、自分に流れる王族の血のせいなのだから。


「あの子のために、私はヴァイオレットを、公爵家以外の王都の連中に会わせるつもりはなかったんだ」


ふぅ、と再びヴィンセントから、深い溜息がこぼれ落ちる。

それだけ呟いて、怖い顔のまま黙ってしまった。

寡黙な兄に代わり、ベネディクトは話を続ける。


「それで、どうしてお前たちにヴァイオレットの話をしているかというと」


ベネディクトは手を組み、両肘を膝の上に置いた。


「来ることになったんだ、王室が。1週間後、この公爵城に」


「えっ!?」


なんで!とギルベルトは目を見開いた。

アシュリーは、確信のないまま、しかし思いついたことを口にする。


「黒竜参りですか」


「当たりだ、アシュリー」


黒竜参り。それは10年に一度、王室が始まりの森に来訪し、黒竜へ挨拶に参るという儀式である。

伝承によると、黒竜は始まりの森の()()()に棲んでいて、しかし普通の人間ではその住処には辿り着けないという。

黒竜に許された者のみが、その地に踏み入れ、黒竜に相見(あいまみ)えることができるのだ。


ここで、黒竜は初代王の気配を覚えているから、初代王の血を引く王族であれば、黒竜に邂逅できるだろうと考えられ、始まったのが黒竜参りである。

国の繁栄について感謝と祈願の意味を込め、行われる儀式だ。


「でも、黒竜参りでは、王都から来る王室やその他貴族は、神殿に滞在するのが通例なはずです」


勤勉なアシュリーは、今年行われる黒竜参りのため、事前に前回の記録等を読んでいたので、これには確信を持って言うことができた。

ベネディクトはコクリと頷き肯定するも、しかし、と続けた。


「ちょうど先ほど伝令が届いてな。陛下はどうにも、公爵城に滞在するつもりらしい」


そこで、チッ、というかなり大きめの舌打ちが響く。

犯人はヴィンセントである。気配に敏感なマシューは、このとき目に見えそうなほどの殺気を感じた。


「あいつは、一体何を考えている?大人しく神殿にあればいいものを」


ヴィンセントはそう言い捨てる。

国王をあいつ呼ばわりできるのは、彼は現国王のいとこであるからである。

もっとも、いとこであってもなくても、不敬極まりないのであるが。

ベネディクトはそんな兄を咎めるわけでもなく、やれやれと言わんばかりに首を振った。


「かのいとこ殿のことなど、我らにわかりますまい。おおかた、神殿に喧嘩を売りたいんでしょう」


あの人が国王陛下になってから、王室と神殿の関係は悪化する一方ですから。


そうつけ加えられるベネディクトの言葉は真実で、しかし政治的な闘争を疎むヴィンセントにとっては、両者の関係など、至極どうでもよいのであった。

しかしこちらに、特にヴァイオレットに迷惑がかかるとなれば、話は違う。


いくら大貴族の公爵家であろうと、国王の命令に背くことはできない。

だからヴィンセントは国王の要求を受け入れる以外はないのだが、それにしても腹立たしいので、いとこのよしみで、彼が公爵城についた暁には、一発殴ってやろうと考えていた。


「アシュリー、ギルベルト。1週間後には王室ご一行がここに来る。お前たちは、王子と王女の話し相手になるだろうけれど…いいか、ヴァイオレットは、病弱で部屋を出られないんだ」


「病弱」


言われた言葉を繰り返すギルベルトに対し、ベネディクトは力強く頷く。


「ああ、病弱だ。お前たちがたとえ、どんなヴァイオレットの一面を知っているとしても、来週からは病弱なんだ、あの子は。

お前たちが王子と王女の対応をしてほしい。何としてでも、彼らとヴァイオレットの接触を、回避するんだ」


国王夫妻は私たちが何とかするから。

ベネディクトは勢いを変えずそう言い、言葉を続けた。


「マシュー、お前の俊敏さを、私は高く評価しているよ。

今回同行した騎士たちにも後で本件は伝えるつもりだが、お前には特に、その能力を存分に発揮して、王族とヴァイオレットが鉢合わせることのないようにしてほしい」


アシュリーもギルベルトもマシューも、誰もが昼間のヴァイオレットの、華麗なる脱走劇を目撃していた。

夜中、執事長の目を逃れて城を抜け出したらしい、前科持ちのヴァイオレット。

罪がバレそうになるやいなや、あっという間にその場から逃げ去ったヴァイオレット。


「病弱」と形容できない性格の持ち主であることは、初対面のギルベルトとマシューでさえ、想像に難くなかった。


しかし、真剣な様子のベネディクトや、殺気立つヴィンセントを前に、何か言うことなどできるはずもなかった。


「ヴァイオレットの祝福が王室に見つかれば、彼女だけじゃない、王位争いには中立のホルシュタイン家の立場も難しくなる。

頼むよ、私の息子たち」


身を乗り出して、右手をアシュリーの頭に、左手をギルベルトの頭にポンっと乗せ、頷く偉大なる父ベネディクトを前に、2人は「はい」と答えるほかなかったのであった。


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