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最強公女は微笑まない 〜伝説の黒竜は公爵令嬢に生まれ変わった〜  作者: 翠蓮
ヴァイオレット=ホルシュタイン、10歳。
13/17

13. 黒竜の祝福②

ヴィンセントは黙ったまま、手にしていた紅茶のカップをソーサーに置いた。

ベネディクトが、こくりと静かに頷いた。


黒竜の祝福?

マシューには知らない単語だった。


しかし、「黒竜」と聞いて何か、頭によぎるものがあった。

ノルト王国に生まれた者ならば、たとえ平民であっても知っている、聖なる存在・黒竜。

王国の人間に魔法を与えた、精霊の王だ。


そういえば黒竜は、黒い鱗に金色の眼をしていたんだったか。

けれど、それで、それがどうなったんだっけ?


しがない子爵家の次男坊だったマシューは、建国神話も、王国史も勉強したはずだったが、いかんせん彼は脳筋の類であった。

「黒竜の祝福」と言われても、いまいちピンとくるものがなかったのである。


「マシュー、黒竜の祝福って知ってる?」


マシューの眉間のしわに気づいたアシュリーが、助け舟を出す。

マシューは黙って、首を横に振った。


「これはね、黒髪や金眼を容姿に持って生まれてきた王族に使われる言葉なんだ」


「はぁ」


いまだ要領を得ず、マシューは曖昧な相槌を打つ。


「建国神話によると、初代王は黒竜の血を飲んで、魔法の権能を与えられた時に、黒髪・金眼になったそうなんだよ。

それで、今でも初代王の血筋を引く者は、稀に黒い髪や金色の瞳を持って生まれるんだ。

ほら、今の第二王子も、金色とまではいかないけれど、琥珀色の目をしていらっしゃるだろう」


マシューはそこでようやく、思い当たるものがあった。


「…自分が子供の頃、第二王子がお生まれになった日、たいそう大人たちが盛り上がっていたことを、思い出しました」


マシューの言葉に、ベネディクトがコクコクと頷く。


「ああ。祝福を受けることは、とても珍しいことだからね。その名のとおり、吉兆として歓迎されるんだ。

第二王子以外だと、3代前の国王が黒い髪だった」


ベネディクトは紅茶のカップを持ち上げ、ゆらりと揺れる赤茶色の水面に目を落とした。

そして、話を続ける。


「黒竜の祝福を持って生まれた王族は、ただ歓迎されるだけじゃない。

祝福持ちというだけで、たとえ王位継承権が下にあっても、王になることがある。3代前の国王も、確か上に3人、兄がいた。それでも彼は貴族の熱烈な支持を得て、最終的には王になった」


「そんな。見た目だけで…?」


脳筋で、力こそ全てという単純な生き方をするマシューには、にわか理解しがたい話であった。


「実際、祝福持ちの王族は、優秀な場合が多いんだよ。…絶対ではないけれど」


驚くマシューにアシュリーは補足を入れたけれど、それだけ言って口をつぐんでしまった。

その決まりの悪い顔の理由は、マシューにはわからないまま、ベネディクトは話を受け継ぐ。


「ホルシュタイン家は、父上…つまり現当主が先代国王の弟で、臣籍降下した時に出来た家門だ。

ヴァイオレットは、王族の血を引いている。だからあの黒髪金眼は、黒竜の祝福とみて間違いない」


ここで、今まで無言を貫いてきたヴィンセントが、ようやく口を開いた。


「アシュリー。今この国の情勢の中で、ヴァイオレットの祝福が世に知られたら、どうなると思う?」


突然問いを投げかけられたアシュリーは、俄かに戸惑う。


2年前、アシュリーが初めてヴァイオレットに会った時、これが黒竜の祝福か、とたいそう驚いたものだ。

しかしアシュリーはこの時ベネディクトに、ヴァイオレットの祝福は絶対に誰にも言ってはいけないと、固く戒められていた。


その意味を今、問われている。

ゆくゆくは公爵家を受け継ぎ、国政を担うことともなるアシュリーの素質を、問われているようだった。

かつてホルシュタイン家の奇跡とも呼ばれ、自身の父親がいたく尊敬している人物ヴィンセントが、鋭い眼差しで、アシュリーをじっと見つめている。


慎重に、アシュリーは答えた。


「今、王位をめぐっては第一王子派と第二王子派で、貴族が分裂しています。第一王子は長子ですが、王位を継ぐ意志がまるでなく、一方で、第二王子は、祝福持ちです。第二王子の振る舞い次第では、第一王子を差し置いて立太子される可能性も十分高いから、派閥が拮抗している状態です。

この分裂状態に、歴代の祝福持ちを凌駕するほど完全なる黒髪・金眼を持ったヴァイオレットが現れたのなら…」


美しい豊かな髪と、透き通る黄金の瞳を思い浮かべながら、アシュリーは続ける。


「派閥の対立は、混乱すると思います。

ヴァイオレットは王室に人間ではないから、王位継承権をもって第三勢力をつくることはありません。

でも、王室の人間でないからこそ、王子と結婚することができる」


ギルベルトは、兄の言葉にハッとして、思わず呟いた。



「黒竜の祝福を持った王妃を持つ王子こそ、国王にふさわしい」





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