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最強公女は微笑まない 〜伝説の黒竜は公爵令嬢に生まれ変わった〜  作者: 翠蓮
ヴァイオレット=ホルシュタイン、10歳。
10/17

10.いとこよ、こんにちは②

城を案内してもらうといい。


ヴィンセントの提案により、ギルベルトは護衛のマシューと共に、執事長の案内を受けることになった。

緊張しているだろうから、とそこにアシュリーが同行することになる。

応接室の外では、白髪に白い髭を蓄えた、いかにも年季の入った執事長が待っていた。


「ようこそ、アシュリー坊っちゃま、ギルベルト坊っちゃま」


そう言って、恭しく頭を下げる。

初老の痩せ細った体躯だけれど、その所作は主人に仕える者として美しいものだった。


「それでは、僭越ながら、私が城をご案内します」


サッと身を引き、こちらへどうぞ、と歩き出した。


そうして、長い廊下を歩き始めて、晩餐室、執務室などを、順番に案内してもらうのであった。



「あ…」


と、息をこぼしてアシュリーが立ち止まったのは、ホワイエに飾られている、1枚の巨大な絵。


星空を背景とした公爵城が、天井に届くほどの大きなキャンバスに描かれていた。

横幅は、大人の足で歩いて5歩分ぐらいだろうか。


まずその大きさに目を奪われ、次に印象的なのは、城の2階あたりを舞う、1匹の竜。

大きな赤い翼を広げ、月光にその姿を照らしていた。


星々の鈍く発光する輝きの色、躍動する翼。

竜の身体は闇夜に飲み込まれて暗い色をしていたが、月光に照らされた翼の輪郭は、その竜本来の真紅の輝きでふちどられている。

竜の瞳は夜の中で琥珀色に煌めき、ただ公爵城を見つめているようだった。


この絵に最初に立ち止まったのはアシュリーであったが、なるほど確かに、とギルベルトも気がつけば、食い入るように絵を眺めていた。


「荘厳でございましょう」


執事長が、魅入るアシュリーとギルベルトにそっと、声を掛ける。


「ヴァイオレットお嬢さまの作品にございます」


ここまで淡々と案内してくれた執事長の、どこか誇らしげな声。

アシュリーが、へぇ、と感嘆の声をあげた。


「ヴァイオレットは、すごいね。絵()上手なんだ」


その時、何故だかわからないけれど、ギルベルトの胸が、とくりと鳴った。


「ヴィンセント様がたいそう気に入られて、こちらの一番目立つところに飾っているのです」


「ああ、もしかして、この竜はおじさんの契約精霊?」


「左様にございます。お嬢さまは、ヴィンセント様の契約精霊フェリックスさまと、非常に仲がよろしいのです」


「そうなんだ。他人の精霊…それも()()竜と仲がいいって、本当に、ヴァイオレットって、不思議な子だね」


なぜ、胸がざわざわとするのだろう。

それは、先ほどから、ギルベルトだけが知らない話題、ヴァイオレットの話が出てくるからであった。


ギルベルトがまだ会っていない、いとこのヴァイオレット。

みんなが彼女の姿を知っているのに、自分だけが知らないことが、妙にもどかしく感じられたのである。


絵「も」上手なのであれば、それ以外の何か素晴らしい才能もあるのだろう。

不思議と言われる神秘さが、彼女にあるのだろう。

ギルベルトだけが、それを知らない。


「はやく、会ってみたいな」


絵画を見つめたまま、ぽつりとギルベルトは呟いた。

それは思わずこぼれた心の声で、すぐに、ハッと意識を取り戻す。


「いや、だって、さっきから、すごく話題になってるから!

さすがに気になるし、でも全然、うつつを抜かしてるとかじゃないから、おれ!」


ワタワタと、誰かに何かに向けた弁明をしていると、ギルベルトの背後から、澄んだ少女の声が響いた。




「会いたいんですか?」


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