1.けんこくのものがたり
むかしむかしあるところに、貧しいけれど、心のやさしい青年がおりました。
青年にはひみつの友だちがいて、それは森のだれもしらない奥深くに住む黒いりゅうでした。
りゅうは、世界ができたときから生きている、せいれいの王さまでした。
そんなすばらしい伝説のりゅうですから、にんげんの友だちなんてものは、生まれていらいの存在でした。
おたがいにだいすきだったけれど、青年はある日、おわかれをきめました。
「りゅうさま、りゅうさま。ぼくは悪いにんげんの王をたおしにいくよ。みんなを傷つける悪い王を、たおしにいくよ」
そうです、青年はやさしくて正義にあふれるひとでしたから、悪い王に苦しめられているひとたちが、ほうっておけなかったのです。
黒いりゅうはとってもおどろいて、かなしくて、なみだをぽろぽろこぼしました。
「ああ、いかないで、いかないで」
青年はゆっくり、首をよこにふりました。
「りゅうさま、泣かないで。ぼくはいくよ」
いっぱい泣いた黒いりゅうは、最後にはうなずいて、だったら、と自分のしっぽのあたりを黒くて長いつめできりさきました。
そこから、真っ赤な血が流れつたって、りゅうはそれをさかずきにたらしました。
「さあ、これをのみなさい。つよい力を、与えましょう」
青年は、さかずきの血をごくりとのみほしました。
すると、力がわきあがり、青年はまほうが使えるようになったのです。
黒いりゅうはせいれいの王さまですから、せいれいたちに、にんげんがまほうを使えるように力をかしなさい、と命令したのでした。
青年がのんださかずきで、すべてのにんげんがまほうを使えるようになりました。
「さよなら、りゅうさま」
なみだをこぼして、青年は村にかえりました。
そのあと、青年はたくさんの人にまほうの使いかたをおしえました。
そうして、まほうと仲間を手にいれて、にんげんの王よりうんとつよくなった青年は、仲間をつれて、悪い王をたおしたのです!
青年は、あたらしいにんげんの王さまになりました。
あたらしい国は、それはそれはすばらしい国になりました。
そうしてひとびとは、いつまでも幸せにくらしましたとさ。