4. あの頃 (1)
そもそも、闇の女神がさっきから口に出している、『戦国双刀伝』とは何か。
架空の戦国時代を舞台に、オーソドックスなファンタジーTRPGっぽいことをやるのが、『戦国双刀伝』というTRPGだ。ゴブリン退治の替わりに餓鬼退治をしたりとか、ダンジョン探索の替わりに、古戦場に残されている古城の地下を探索したりとか。
ビギナー向け、というデザイン・コンセプトもあり、基本ルールブックのルールやデータの分量はそれほど多くはなく、実際のTRPGのプレイ風景がどういうものなのかを、リプレイという形で説明することにページを割いている。これも、よくあるやつ、ではある。
リプレイってのは、芝居の台本みたいなフォーマットで、GMやプレイヤーの発言を時系列順にまとめて、実際にTRPGを遊んだ時のストーリーの流れだのなんだのを読み物に仕立てたものだ。
「どうした」
「……これ、全部にTRPGが入ってるんですか?」
「そうだが」
「本屋さんより多いじゃないですか! どうりで、ここにつながるはずですよ!」
急に早口になったな。
「どれぐらいあるんですか、これ」
「分からん。数えたことはない。どれぐらいあるんだろうな」
「……把握してないんですか」
「してない。無理だろ」
「まぁ……そうですね」
ダンボール、何箱あるんだろうな、これ。
「……あのー」
「なんだよ」
「TRPGって、こんなにたくさん出てるんですか」
「英語圏のやつもそれなりにあるからな。あと、昔のやつは、箱に入ってんだよ」
「箱?」
「ああ。本より大きいからな。ダンボールが増えた理由は、そのへんもある。まぁ、見れば分かる。そのへんのやつ、引っ張り出してみるか」
「大丈夫ですか? よろしければ、お手伝いしますけど。魔法が使えますから」
「そうだな。じゃあ、その、手前の奥の下のやつを頼む。多分、そいつの中だ」
「分かりました」
ダンボール箱が物入れの中から、音もなく浮いて次々とフローリングの床に着地した。
「こいつの中に……ああ、これだ」
「あー、箱って、本当に箱なんですね」
「中身は、だいたい、二冊ぐらいのルールブックと、ダイスかな。キャラシーとかも昔のは大量についてたりするが」
「へー」
今は、ネットからダウンロードして自宅で印刷、だもんな。便利な世の中になったもんだ。つっても、箱もののTRPGが出回ってた頃ってのは、俺が生まれる前の話だが。
「『戦国双刀伝』探してるんだよな」
「はい」
「ちょっと待ってろ」




