32. 正邪の間2 (2)
「君たちは人々の心の動きが分かっているはずだよ。戦もやむなしという気運が高まっているんだろう?」
大きな声で話しているわけではないが、端の方に座っているのにも関わらず、ソラタロウの声はここまで届いている。その問いかけに、俺の目の前にいる湖上が頷いた。
「湖上の民人たちは、我らに非はなしと、国境線に拠点を作り、攻め入る構えを見せている砂上の民に応じるべく、戦の準備に余念がありません」
国境線を砂上の連中が超えた瞬間に、仕掛けるつもりか。自分たちに非がない、と思っている以上、砂上の連中の態度は、この状況を利用して戦争を仕掛けようとしているようにも、見えるかもな。
「砂上の国の騎士たちは、湖上の魔術法院に非がありとして、対話の場を求めています」
「国境に拠点作って対話も何も、あったもんじゃねぇな」
思わず俺がそう言ったら、砂上が俺に向かって頷いた。
「礼を欠いている行動だと言わざるを得ない。ただ、水がなくなれば、砂上の国は滅ぶ。自らの滅びの日を前にすれば、人というものは往々にして、必死になるものだ。その背に子供たちの未来を背負っているのであれば、尚更にな」
子供たちの未来か。
重いな。
「さて。どうする、ヤミコくん」
「私としては、お二方に、神託を出して欲しいです。守護神からの神託であれば、それぞれの国の代表者も、思いとどまるのではないでしょうか」
神託、という言葉を聞いて、湖上は目を閉じ、砂上は顎を引いた。
「神託については、いくら闇の女神さまのお言葉といえど、承服いたしかねる」
砂上のその言葉を、湖上は黙って聞いている。同じ考え、ということなのか。
「湖上の魔術師くんはどうなんだい?」
「私も同じです。神託は、人を傲慢にします」
神託が、人を傲慢にする。話のつながりが見えてこないな。
「それは、君たちが人であった頃に経験したことが関わっているんだね」
「はい」
「その通りです」
砂上に続いて、湖上もソラタロウに応じた。目の前にいるのは天空神で、二人の直接の上司らしい、ヤミコよりも格上の相手に対しても、引く気がないのは分かる。湖上も砂上も、今ばかりは意思の強さが目に現れている。
「そうだよねー」
ソラタロウが俺に向かって、両手を上げた。お手上げってことか?
砂上と湖上の前世に、何があったんだ? つうかこいつら、元々、人間だったのか。




