30. 審判の間 (1)
近すぎる。
「すいません、ちょっと、距離感が」
ヤミコが座る玉座の、四段下ぐらいに俺はいる。真正面が、ちょうどヤミコの腹の辺りだ。気まずい。ただただ、気まずい。
「おや、これは大変だ」
くそ。ソラタロウが来た。
「どういうことだい?」
「俺にも分からん」
「私のミスです、すいません。玉座の位置に座標を設定していました。鵜川さんが私の上に落ちてこなかったのは、咄嗟にずらしたからです」
説明どうも。
「すごいじゃないか。そんなことができるようになったんだね」
「えへへ」
えへへ、じゃねぇ。
「俺、下に行くよ」
「私も降ります。あのー、その紙袋って」
「例の本だ」
笑顔でソラタロウが待ち構えてるな。
「仲良く二人で降りてきたね。うんうん。いいよいいよ」
「もう、やめてくださいよ」
ソラタロウは無視しよう。
「これ、『戦国双刀伝』の、二巻から六巻までと、一巻が五冊な。一巻は俺のおごりだ」
「え?」
「セッション参加者全員ぶんのルールブックがあった方がいい。とりあえず、一巻だけだが、事前にルール覚えたり、これがあれば色々とできるだろ」
「いいんですか?」
「いいよ、別に。これぐらい」
文庫のルールブックだから、安いしな。
「ほう。TRPGのルールブックだったんだね」
「私がお支払いしますよ?」
「そんなに、高価なものでもない」
「鵜川さんがいいんなら、甘えさせていただきますけど」
「甘えろ」
「おーい」
「では、ありがたく。でも、鵜川さん、私のぶんはお支払いしますから。おいくらですか」
「いくらだったっけな。あとで連絡するから、次の時でいい。またどうせ会うだろ」
「そうですね」
「おーい、僕を無視するのはやめてくれー。天空神だぞー」
楽しそうだな。ソラタロウ。
「いらっしゃいませ、天空神さま」
「うん。鵜川くんについてきた。あ、僕ももらったよ、呼び名ネーム」
「ほんとですか」
「うん。今日から僕はソラタロウだ。よろしく、ヤミコくん」
「こちらこそ」
俺の用は済んだ。帰るか。いや、その前に
「ヤミコ、審判の間に飛ぶ時の位置調整はしてくれると助かるんだが」
「そうですね。鵜川さん、鍵を貸してください」
「おう」
「あ。ソラタロウさまの鍵も付いてるじゃないですか」
「うん。解放の扉が自動的に閉まるようにしておいた」
「なるほど」
早くしてくんねぇかな。
「ちょっと待っていてくださいね。一度、色々と解除しないといけないので、少しお時間いただきます」
えーと、と言ってその場にしゃがみこんだヤミコを、とりあえず放置して、部屋の隅の方にでも行っておくか。
「……この部屋、壁、どこだ」
距離感がおかしい。そこに見えてはいるんだが。影みたいな壁が。
「姫ちゃん、お客さん……あれ、鵜川くんじゃないか」
お。半透明の隊長さんか。急に跪いたぞ。なんだ。
「天空神さまにおかれましては、ご機嫌麗しゅ」
「いいよ、そういうの、隊長くん」
「こういうのは、形が大事なんでねぇ」
神界の奴らのノリが、良く分からん。普通に立った、つうか、浮いた。ソラタロウを見下ろす感じになってるが。いいのか。
「で、どうしたの? ヤミコくんにお客さん?」
「そうだった。姫ちゃん、約束してた連中、来たぞ」
「あ、はーい、ただいま」
入口っぽいところで微妙な顔をしている男が二人。片方は鎧姿でもう片方は、ローブ姿。騎士と魔術師、みたいな感じだが。あと、身に付けてるものが素人目に見てもそれなりに豪華だ。




