26. 闇 (2)
「そうさ。闇は、恐れられなければならない」
まぁ、確かに。
「しかし、あれだね。鵜川くんは、怖がらないね。姫ちゃんの鍵の力かな」
――そうですよー。
「どういうことだ?」
「普通、こういう、例えば私とかさ。団長と副団長でもいいけど。地球に我々がいたら、驚くよね?」
「言われてみれば、そうか。半透明と自分の首抱えた騎士だもんな」
「半透明って」
「物質界と幽冥界に同時に存在している、みたいな感じか」
「お、よく分かるね。TRPGのプレイヤーって、そういうの詳しいんだね」
「そうっすね。この手のファンタジー知識というか、異世界知識が溜まっていく傾向にはあるかもしれない」
侍女長を待たせているみたいなので、俺はそう答えながら一歩、魔法陣の中に踏み込んだ。
「いい度胸してるよなぁ」
「では、隊長どの。鵜川さまを姫さまの元にお連れいたします」
「いってらっしゃい」
「副団長、お願いします」
「では」
副団長が、手にした剣を魔法陣の中心に突き刺す。剣の刀身に魔法陣の赤い文字が流れ込んでいく。
「そろそろ、ご覧になるのはおやめになった方が」
「分かった」
目を閉じてるか。また、侍女長が俺の肩を抑えてくれてるな。今回も、なんか変な感じが来るのか? 少し、踏ん張っておくか。
「到着しました」
「鵜川さーん、目を開けてくださーい」
ヤミコか。
「やっと着いた……なんだお前、そのかっこう」
「正装です」
胸元が開いた黒いドレス姿のヤミコがそこにいた。俺の部屋にいた時とは、別人……でもないが、雰囲気は少し違う。数段、高い位置にある玉座の上から、俺たちを見下ろしているが。あー、なんだろうな。
「神々しい感じだな、お前」
「女神なんで。侍女長さん、副団長さん、お手数をおかけしました。ありがとうございました」
玉座っぽいところから降りて、ずるずるドレスを引きずりながら階段を降り、俺たちの方へとヤミコがやってきた。侍女長と副団長は俺から数歩離れた位置にいて、しかも副団長は膝を突いている。
「指輪、返すぞ」
「ありがとうございます。あのー、隊長さん、私のこと、あれって言ってましたよね」
「言ってたな」
「ぐぬぬ」
「でも、お前、あれって言われてもしょうがないんだろ? この指輪、大事なもんだったんだよな」
取り出した指輪を、両手を差し出してきたヤミコの手のひらの上に落とす。
「鵜川さん、通行証いりません?」
話そらしたな。
「さっきも言ったが、いらんぞ」
「今なら、ここに直通できる機能もおつけします。あ、お腹空いてますよね? カップラーメン、食べました?」
「腹は減ってる。だから俺は早く家に帰って飯を食いたい」
「まーまー、そう言わずに。鍵、貸してください。じゃないとここから帰しません」
「それが恩人に言うことか?」
「まーまー、まーまー」
指輪はヤミコの指に既に戻ってる。また両手を差し出して、指先をくいくい動かしてるが。鍵寄こせって意味か。
「お礼です、お礼」
「……しょうがねぇな」
ほら。
「うむうむ。我ながら、良い鍵です。これがあるから、この世界の脅威に対しても動じずにいられるんですからね、鵜川さん」
「お前、自分の手柄みたいに言ってるけどな。そもそもは、お前が俺の部屋にあのドア作ったのがことの発端だからな」
「鵜川さんが、TRPGを持ちすぎなのが悪いです」
開きなおりやがったな。持ちすぎなのは認めるけどさ。
「機能の追加ができるんなら、ここから一瞬でドアの前まで行けるようにしてくれよ」
「いーですよ。えーと、じゃあ、審判の間と」
「待て。どこだそれ」
「この部屋のことです。私の仕事場です」
ここ、審判の間っていうのか。
「それと、こちらの世界側の、ドアの前、ですね。他に行けるようにしておいた方がいいところないですか」
「思い当たる場所はない」
「私の部屋でもいいですよ?」
調子に乗りすぎ始めているような気がするぞ。
「姫さま。鵜川さまは男性です」
「大丈夫です」
「なぁ、こいつ、ちょっと調子に乗ってないか」
「乗ってると思いますわっ!!」
誰だ、この声。……上から聞こえたような気がするぞ。




