25. 城? (2)
「すぐに到着いたしますので」
身体にかかっていた加速は消えていた。恐らく、とんでもない速度で動いているんだろうとは思うが、比較する対象物がないので、それがどの程度なのかは分からない。
「この世界ってのは、地球みたいに丸いのか」
気になっていたことを、侍女長に尋ねてみた。やはり、地平線らしきものが見えてこない。光の平原は、無限に、という言葉が比喩ではないぐらい、果てしなく続いている。
「いえ。平面が永遠に続いております」
永遠、ときたか。
「スケールがでかいな」
「創造神さまがたがお作りになられた世界でございますから、私も正しく理解できているかは分からないのですが」
まぁ。地球世界の人間も、宇宙がどうなってるのか、本当のところは分かってないもんな。
「そういうもんか」
「はい」
――もうすぐですよー。
「鵜川さま。しっかり、手すりを握ってお身体をできる範囲で固定してください。私もお手伝いします」
「分かった」
手すりを両手で握り、透明な床にしっかり足をつけ、若干、腰を落とし気味にしてみた。侍女長が俺の肩を両手で押さえている。やはり、この女の手は冷たい。
「到着です」
「うぉ!?」
一瞬、身体が持ち上がった。備えてなかったら、吹っ飛んでいたかもしれん。
「改善の余地あり、ですね。お疲れさまでした。外に出ますので、目を閉じていただけますか」
「さっきのやつか」
侍女長の足元に、また、魔法陣が展開されている。既に俺、取り込まれてるな。
「さようでざいます」
――鵜川さーん、跳びますよー。
「目を開けたままで見てみたいけどな。跳ぶ瞬間を」
「やめておいた方がよろしいかと」
――頭の中、ぐちゃぐちゃになりますよー。
「……そうだな。分かった」
見えたら駄目なもんが見えるんだろうな。目を閉じておくか。
「よろしく頼む」
「承りました。姫さま」
――いきまーす、えーい。
身体に、一瞬のぶれがあった。さっきのぐらつきみたいなものとは、質が違う。強固な壁が何層もあって、それを突き抜けていった感じ、だろうか。
「目を開けていただいても大丈夫ですよ」
「……眩しいな」
少しずつ、目が慣れてきた。光源がどこにあるのかは分からないが、俺が今、いるのはただただ広い空間だ。壁が遠い。その壁も、質感がない。影のようにも見える。
「ここは?」
「闇の女神さまの居城、暗闇城です」
暗闇?
「そのわりには明るいが」
「資格のない者がこの場所に立つと、暗闇に塗り込められてしまいます。明るく感じるのは、鵜川さまに姫さまが、この場所に存在することができる資格を差し上げたからです」
なんか。
「忘れ物届けに来ただけなのに、大袈裟な話になってないか」
「姫さまの忘れ物には、そうまでしないといけない力がある、ということです」
「例のドアの前で受け渡し、というわけにはいかなかったもんな」
「さようでございます。大地母神さまから、姫さまは相当強めに、叱責されていますので」
強めに、という言葉が、今、かなり強かった。
「鵜川さま、こちらへ」
侍女長が手を一ふりすると、何もなかったはずの空間が、先が見えない通路に切り替わった。
もう、俺は驚かんぞ。
「先ほどの場所で、暗闇城が鵜川さまを覚えました。仮に鵜川さまが場内で迷子さんになったとしても」
迷子さんって。おい。
「暗闇城が私なり、姫さまなりにのところにまで連れていってくれますので。ご安心ください」
「お、おぅ。分かった」
口ごもった感じになったのは、通路が勝手に動いたからだ。動く歩道、というやつに近いが、スピードが違う。しかも、こっちの身体に負担はない。ただ、俺は立っていて、通路の壁が高速で流れているようにも見える。
「あそこに見えます扉の中に向かいます」
「中に、女神さんがいるのか?」
ヤミコ呼びはやめておこう。この世界の神だからな。本人も、さっき、いちおうって言い方をしていたが。
「いえ。警備隊の者がいます」
「なんか、手続きとかがあるわけだよな」
「はい。形式的なものではありますが」
手続きか。さっさと終わらせて、指輪をヤミコに返して帰ろう。
……飯食ってから来るべきだった。腹減った。




