23. 指輪 (2)
「おー。こんな感じか」
光る草原、とでもいえばいいのか。足元を見ると、光でできた背の低い草が生えているのが分かる。この光の草が、見渡す限りに続いていた。空は赤い。夕焼けや朝焼けのような赤ではなく、どことなく不穏な雰囲気のある、薄めた血のような赤さだ。
「趣味悪いな」
踏み込む気にならん。どうしたものか。声でもかけてみるか。
「誰かいませんかー」
心持ち、ドアから見える風景に身体を近づけて、少し声を張って呼びかけてみた。
動くものは見えない。光の草が時折、風で揺れたりはしているが、それだけだ。
「よく見たら、地面の色、青いな」
黒っぽい土かと思ったら、青黒い大理石の床のようなものが続いている。
ますます踏み込む気にならん。
「おーい、ヤミコー」
中に入りたくない。向こうから来てくれると助かるんだが。
「誰かいませんかー」
ヤミコの関係者でもいいんだが。そう思った瞬間、俺の方に向かって、光の草が一列消えた。冷たい風が消えた草のあとを伝って吹いてくる。
「……やばそう、だな」
逃げるか。そう思い、ドアを閉じようとした瞬間。
「お待ちください」
黒ずくめのメイドが不意に現れ、平坦な声で俺にそう呼びかけた。
背は高い。着ている服は足元を隠すほど長く、長すぎる黒髪をポニーテールってやつにしている。肌は蒼白、目は赤い。
「鵜川さまでいらっしゃいますね?」
見た目通りの威圧感が声にもある。ヤミコとは違う。
「……そうだが」
「わたくし、闇の女神さまの侍女長をしている者です」
「ああ、関係者の人」
「さようでございます」
どうにかなりそうか。ここは強気でいこう。
「それは、信じていいんだよな?」
「はい。鵜川さまがお持ちの鍵は、わたくしのように闇の女神さまに仕える者にとっては、女神さまそのものでもあるのです。その鍵をお持ちしている鵜川さまに、嘘は申せません」
この女がヤミコの敵対者ってことは、ないよな。
「少し、試させてくれ」
「なんなりと」
「俺がここに来た理由は分かるか?」
「女神さまがお忘れになられたものを、お届けにいらっしゃったのではありませんか?」
おぅ、正解だ。
「その通りなんだが、正直いって、侍女長さんを信じていいのかどうかが分からない。本人にできれば直接、手渡したいんだが、それは可能だったりはするか?」
「でしたら……姫さま、わたくしの身体をお使いくださいませ」
目を閉じた侍女長の身体の上に、なんともいえない表情をしたヤミコの幻影が浮かび上がり、重なった。
「鵜川さん、重ね重ね、本当に申し訳ございません」
侍女長の身体はそのままに、ヤミコの幻影が土下座した。




