2. 遭遇 (1)
そうか。俺は、玄関先で寝てるのか。
本棚や本は決して浮かぶことはないし、壁に本来あるはずのないドアが生えたりもしない。何やらよく分からん風景が半開きのドアから見えているが、そんなことが夢の中以外で起こるわけがない。したがって、俺の前で土下座しているこの変な女は、夢の中の登場人物、ということになるわけだ。
だったら、話は早い。これは俺の夢の中だ。
「どうしてそこにいる」
多少、強気に出ても問題はないだろう。
「まことに申し訳ございません」
きれいな日本語が返ってきた。土下座中なので顔ははっきり分からないが、日本語は話すらしい。
「俺は理由を聞いている」
「少し、長くなりますが、よろしいでしょうか」
土下座のまま、女が言った。
「まぁ、どうせ夢の中だ。時間は幾らでもある。好きなだけ使え」
あれだけ疲れて帰ってきたんだ。簡単には目が覚めないだろう。
「いえ、あの、夢の中では、」
「こんなファンタジーな状況が、現実で起きてたまるか。壁にわけのわからんドアがあって、本棚と中身の本が浮いていて、しかも、異世界からいかにもやってきました、的な女が目の前で土下座とか。有り得ないだろ」
顔を上げた女が、何ともいえない顔をした。女っつうより、十代っぽく見えるから、少女、とでもいうべきか。
……きもいな、俺。女でいいや。
「で、どうなんだよ」
「あのー、その前に、ですね。これは、夢ではありませんよ」
噛んで含めるような言い方で、女がそう言った。この感じ、自分でも良く分からんが、ちょっと苦手だ。
「まぁ……、そうかもな」
そこを認めないと、話が進まないような気がする。俺の夢だ。どっちでもいい。
「分かった。これは夢じゃない。お前の主張を受け入れよう」
「分かっていただいて、良かったです。あの、本棚、ドアの横に置きますね。本は、どうしたらいいでしょうか。元の並び方が分からなくて」
「そこらへんに転がしておいてくれればいいよ」
「そうですか。では、失礼して、えーと、重ねて置いておきますね」
「ああ」
浮いている本を床に下ろし、膝立ちになってゆっくりと丁寧に手を使って重ね終えると、半開きのドアを閉めて女が正座をし直した。立ったままなのもあれだし、俺も座るか。
「で?」




