1. 夜に思うこと (2)
真っ暗な家の中に入り、靴の入っている棚の上にピザ屋の広告を投げ置いたら、自然と溜息が出た。明日は日曜だし、ゆっくり寝よう。昼まで寝て、飯は買い置きのカップラーメンがあるから、それでいい。
「冷蔵庫に、プリン入れとかないとな」
駅前のコンビニに入り、思いつきで買った売れ残りのプリンが二つ、スナック菓子の袋が一つ、ぶら下げて帰ってきたコンビニ袋に入っている。リビングにある、テーブルの上に袋を置いてプリンを取り出し、冷蔵庫にしまった時には、眠気が最大に近い状態になっていた。
このままだと、多分、風呂で寝る。まずは、着替えよう。ネクタイが鬱陶しい。
「さすがに」
疲れた。二階の自分の部屋に向かうべく、ネクタイを緩めながら階段を上がっていく音が、重い。
家を出る時に開けたままにしていた踊り場のカーテンを閉めながら、今日の月が満月だったことに、今更ながらに気づいた。
疲れ過ぎだろ、俺。
階段から左手に続く廊下の先に、薄い明かりが見える。俺の部屋のドアが、開いているようだった。閉めて家を出たはずだが、忘れていたらしい。今日は朝から、急な呼び出しだのなんだので、ばたばたしたもんな。満月にも気づかないはずだ。
「さてっと」
さっさと着替えるか。そして風呂入って寝る……いや。
「部屋の電気、消してるよな、俺」
なんだ、あの、薄っすらとした明かりは。時計か? あれ、光るし。暗い廊下から見たら、あんな感じに見えるのか。へー。
新発見だ。
そしてどうでもいい。
「着替える。風呂。寝る」
昼まで寝て、飯。完璧な計画だ。
着替える。風呂。寝る。
「昼まで寝て、飯」
で。
「それを邪魔する、お前はなんだ?」
部屋にある本棚が、微かに光りながら、倒れかけた状態で中身も込みで浮かんでいる。その本棚が本来あったはずの壁には、中途半端に開いた、装飾過剰なドア。
そしてその前で、ファンタジーな服を着た女が、土下座をしていた。