8. 準備開始 (1)
とは言ったものの。どうするか。
「先に、下に行ってくれ。少し、準備がある」
「分かりました。では、お先に」
「ああ」
部屋から出て行ったヤミコの足取りが妙に軽いのは、楽しみ、だからなんだろうな。期待に応えられるかどうかは分からんが、まずは、GMの俺が楽しまないことには始まらない。
TRPGってのは、そういうもんだ。
「シナリオと、キャラシーと、d6、筆記用具、あとは、『戦国双刀伝』のルールブックがあればいいか」
一冊目があれば十分か……いや、全部、持っていっておくか。キャラは、どうすっかな。時間が取れるんなら、作ってもらったほうがいいんだが。サンプルのキャラを使うより、キャラメイクである程度、ルールを覚えていったほうが、結局は、事前説明の手間が省ける。
と、俺は思っている。
「ま、そのへんは、本人に聞いたほうが早いな」
ルールブックを読みこんでる可能性もある。
「準備は」
良し。いや、箱もあったほうがいい。これでいいか。学生の頃に使っていた、手製の重要書類入れ。今は空だ。
「鍵は……」
置いていくか。廊下に出て、開いたままにしていたカーテンを閉め、一階に向かうと、階段を降りた先にヤミコがいた。
「どうした」
「中に入っていいものなのかと」
遠慮していたのか。気を遣わせたみたいだな。
「悪いな。入ってくれ。奥にテーブルと椅子がある。好きなところに座ってもらってかまわん」
「はい。お邪魔します」
「おう」
俺が入るのを待ってから、ヤミコがついてきた。ここに座れ、と言ったほうが多分、良さそうだな。
俺、母親、父親の定位置は決まっていて、来客があると、残りの椅子に座ってもらうことが多い。テーブルの上に持ってきたものを置きながら、案の定、どこに座るべきなのか考え込んでいるふうのヤミコに向かい、そこに座ってくれ、と言ったら、頷いた。
TRPGやるときも、こいつのこの性格は、少し、頭の片隅に置いておいたほうが良さそうだな。
「飲み物、お茶でいいか?」
冷蔵庫の中に、買い置きのペットボトルのがあったはず……あるな。あとは、コースターが、こっちの棚の、このへんに、あったあった。
「あのー、おかまいなく」
「飲み物はあったほうがいいんだよ。テーブルトークって言うぐらいだしさ。しゃべってれば、喉が渇いてくる」
海外だと、ペン・アンド・ペイパーRPGって呼んでたらしいが、最近だと、テーブルトップRPGだったか。テーブルトークRPGという言葉自体は、和製英語のはずだが、机囲んで会話で遊ぶRPGっていう意味では、名を体で表すを地でいっているようにも思う。
「なるほど」
帰りにコンビニで買ってきたスナック菓子も、今、開けちまうか。それと、これも、あったほうがいいな。




