5. 鍵とd6 (1)
さて、どうすりゃいいんだろうな、この状況。さすがにもう、これが夢だとは思ってもいない。夢にしては、話が細かすぎる。荒唐無稽だが、受け入れるしかない。
「それはそれとして、だ」
興味深そうにダンボールの中身を眺めていた闇の女神が、顔を上げた。
「あのドアは、いつまでここにあるんだ」
「その件に関してなんですけれども、私の力だけで対応するには、限界がありまして」
「限界?」
「見えなくすることはできるんですけども、ドアそのものを消去する力は、私にはありません」
おい。
「それは、困るんだが」
「ですので、これから、鍵をお渡しします」
「鍵?」
「このドアの開け閉めの権限を、鵜川さんに譲渡します。私を含めたいかなる神々も、このドアを鵜川さんから見た異世界側から、開けることはできなくなります」
へぇ。なかなか大そうな鍵だな。いかなる神々も、ときたか。
「それは、まぁ、分かった。で、この状況はいつまで続くんだ」
「こちらの世界と私たちの世界が離れるまで、ですね。ちなみに、いつになるかは分かりません」
気の長い話だな、おい。
「鍵を準備しますので、しばらく、お待ちください」
闇の女神が、服をごそごそし始めた。そして、何かに気づいたらしく、はっとした顔で俺を見た。
「なんだよ」
「この服、ポケットがありません!」
「知るか!」
なんなんだよ、こいつ。
「困まるんです」
「理由を言え」
「鍵を取り出すことができません」
あー。そういうことか。
「……俺の服とかでもいいわけか?」
「ポケットがあれば」
この、スーツでいいか。
「ほら」
脱いだスーツのジャケットを突き出すと、丁寧な手つきで闇の女神が受け取った。
「埃、ついてますね」
指先で肩口のあたりにあった埃を取り始めた。
「はい、きれいになりました」
「俺がそれをお前に渡した目的を思い出せ」
「そうでした。えーと、あ、内側にもポケットがあるんですね……ボールペン、入ってましたよ」
「わりと仕事で使う時があるんだよ」
差し出されたボールペンを受け取っておく。
「では、改めて、このポケットを、ぽんぽんぽんと、しますと」
そう言って、闇の女神が俺にも見えるように内ポケットを三度、叩いた。
「このように」
鍵、というには少し大きめの、古風な鍵をポケットから取り出して、俺に掲げて見せた。
「鍵が出てきます。女神ですから」
「そうだな」
「……もう少し、驚いたりとかしないんですか?」
「部屋中を閃光が走るとか、光の爆発が起きるとか、そういうのがあったらな」
「派手な演出がお好きなほうですか」
「いや。どうでもいい」
「……どうぞ」
「おぅ」




