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彼岸の墓参り

 あれはもう40年も前。今日のようなよく晴れた日のことだ。

 その日私たちは彼岸の墓参りに出かけていた。


 父の運転する車に揺られて、母や姉とおしゃべりしながらいつものルートを通って墓地へ。

 他の年と変わりない、いつもの彼岸の風景。


 しかし、車から降り立ったその時。その日常は崩れ始めた。


「おかしいな……なんか静かだと思わないか」

「あら、本当ね。いつもはこんなにすんなり止められないのに」


 最初に気づいた両親がそろって首をかしげている。


 確かに、この墓地は規模の割に駐車場が狭い。

 この前のお盆の時は順番待ちの列にしばらく並ばされた記憶がある。

 それがどういうわけかこの日はがらんとしていて、ほとんど車がいないのだ。


 とはいえまあそんな日もあるだろう。

 そんな結論を出して私たちは墓地へと足を踏み入れた。


 もう何度も来ているので自分の家の墓へのルートは覚えている。

 手前にある新しいコンクリート造りのエリアを抜けて、山肌に直接作られた古めの場所へ。

 奥に進むと木が生い茂っていて私たちの周りも薄暗くなった。


 そして、黙々と歩いている間にも違和感はますます強くなっていく。

 ……おかしい、なにかがおかしい。


「ねえ、やっぱりおかしくない?こんなに人がいないなんて今までなかったわ」


 姉の声に全員が立ち止まった。


 今日は彼岸。いつもなら墓参りに来た人間をそれなりの回数見かけるはずだった。

 ……なのに。


 今日は本当に人と会わなかった。

 まるで、自分たちだけ違う場所に入り込んだかのように。


 その事実に気づいて重苦しい沈黙が流れる。

 言葉はなく、聞こえるのは風が枝をなでる音と足元の枯葉が出す音のみ。

 ややあって、そんな空気を変えようとしたのか父が切り出した。


「へ、変なこと言うなよ。たまたま人が少ない時間帯なんだろ」

「でも麓のお花屋さんだってやってなかったじゃない。やっぱり変よ」


 母の言葉に父が再び沈黙する。


 この墓地は入り口付近の民家が盆や彼岸の日限定で仏花を売っている。

 そういえば今日はその家のシャッターが閉まっていた。


 なぜかと考えた瞬間、私の中にある確信が広がった。

 本当だとしたら、とても嫌な答え。

 それでも言わなければ。私は意を決して3人を見上げた。


「ねえ」


 3人の視線が集まってくる。

 嫌な予感と緊張で、喉が急激に乾いていく。


 彼岸の日にしては異様に冷たい風が私たちの間を吹き抜けていった。


「……今日って、10月じゃなかった?」





――――――――――――――――


「は?じゃあ彼岸の日を丸ごと1か月間違えて、しかも当日まで誰も気づかなかったってこと?」

「そうなのよー。もうあの時は笑うしかなかったわ」

「何やってんのさ……」


 今度こそ本当に彼岸の日、墓参りのついでに実家に顔を出した娘に私は思い出話を披露していた。


 娘の呆れた表情に思い通りの反応を引き出せたと満足しつつ、その腕に抱かれた赤ん坊の頬を指で優しく撫でる。

 赤ん坊はくすぐったそうにけらけら笑って、私の方もつられて笑顔全開だ。


 そんな2人を見ながら娘が苦笑いの表情を作る。


「まあでも……なんというか、規模は違ってもその手のミスはしそうなのよね、私も……」

「うふふ、血は争えないってことかしら」

「もうちょっといいことで血のつながり感じたかったわー……」


 あんたはこうなっちゃダメよ、なんて孫に語り掛ける娘を見ながらこの穏やかな日は過ぎていくのだった。

彼岸の時に母から聞いた昔話を元に書いてみました。

惜しむらくは自分がホラー苦手でその手の文章の書き方がわからないこと……。

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