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シャーロットは気付かない。
彼女の斜め後ろを歩くルーカスが、まるで娘の我が儘に付き合う父親のように穏やかな微笑を浮かべていることも。
その腰のベルトで揺れていた一対のナイフが、一度鞘から抜かれていたことも。
彼女たちの背後で、彼とよく似た服装の人々が忙しく動き回っていることも。
先程通り過ぎた脇道で、彼女を狙ったならず者たちが目を回して倒れ込んでいることにだって。
今この瞬間も彼の部下によって何処かへ連れられて行くならず者たちの存在を、彼女が知ることはきっとない。
そのようなこと、彼が許すはずがないからである。
少女の身の安全、そして自分の愛する街が今日も平穏であることを願って。
彼は今日も暗躍するのである。