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ハミルトン・ヴァレーの客人令嬢  作者: 駒野沙月


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4-6

 当の本人は何事もないように言っているが、情報屋は基本的にその身を隠すもの。裏稼業にしかなれないその仕事を、ここまでおおっぴらに話すことは普通はないはずだ。

 いくら親しくなったとは言っても、この街にとっては彼女はよそ者でしかない。こんなに簡単に話してしまって良いのだろうか、と彼女は心配になってくる。


「いいんじゃね?こいつが自分で言ったんだし」

「悪いのは俺じゃないだろう。隠す気の無いお前らが悪い」

「隠すっつってもなあ、俺はこの街じゃどうしても目立つし」


 しかめっ面で告げるノアに対し、ルーカスはさして悪気もないようにぼやいている。呑気なこと極まりない幼馴染を憂うように、彼は嘆息した。


「公女様はともかく、お前はもう少し危機感を持て。公爵家からお預かりしているようなものだろうに」

「このお姫さんが来んのは公子殿公認だし、別にいーだろ」

「そういう問題じゃない」


 もしこの街でシャーロットの身に何かあったなら、一応は友好的な関係を築いている公爵家との関係が悪化することは間違いない。それに、周辺諸国や貴族間におけるこの街の立場はどうなるか。

 ノアは神妙な面持ちでそれらを説こうとするが、説教されている本人はいかにも面倒臭いといった風に聞き流すばかりであった。


「なら、公女様の外見を変えるくらいしたらどうだ。別にお前はバレたって問題無いし」

「んなめんどくせえこと、そう簡単に言うなよ」

「そういう魔法具の一つや二つ、お前の所にあるだろう」

「今は在庫切れだっつうの」

「嘘つけ。まだまだ在庫はある筈だ」

「…ったく、これだから優秀な情報屋は嫌いだよ」


 それを隣で聞きながら、ロッテはノアの言葉に気になる点があったようだ。


「ノア、そなた伯父さまのことも知っているのか?」

「…ええ、もちろん。存じ上げておりますよ」


 リチャードもまた、ルーカスの紹介でこの店を訪れており、それ以来よく顔を出すようになったそうだ。どうやら一人でふらっと訪れることも多いらしい。

 ノアは懐かしむようにロッテの顔を眺めると、「こうして見ると、やはり公子様に似ていらっしゃいますね」と微笑んだ。


 しかし、彼は突然に「ですが」と声を荒げる。


「今回のように、貴女が公女様だという事実は見る人が見れば一目で分かってしまうのです。いくらこの男を傍に置いていようが、この場所は必ずしも安全ではないのですから。用心し過ぎて困ることはありませんし、今後はご注意なさいますように」


 美人は怒ると怖いとはよく言うが、その例に漏れず、今の彼には不思議と威圧感がある。

 その気迫に、ロッテは「は、はい…」と頷くしかできなかった。


 ◇◇◇


 気が付けば、時刻は午後2時。ひとまずは話を終え、二人は今度こそ店から出ることにした。


 店を出る瞬間、ロッテはノアから呼び止められ、あるものを差し出された。

 渡されたのは、薄青に塗装された紅茶の缶だ。


「よろしければお持ちください。お土産です」

「…アールグレイ?」


 ロッテが怪訝そうに呟いた通り、缶の中身はアールグレイの茶葉のようだ。ノアが先程淹れてくれたものと同じ茶葉だという。


 ただ、あの時ノアは言っていた。公爵家の人間が好むのはダージリンだと。

 それであれば、ここで出てくるべきはそちらではないのだろうか?と彼女は思ったのである。


「ええ、確かに。公爵家の皆様は、公女様も含めて全員ダージリンを好まれると伺っております」


 彼女の疑問に、ノアはその通りと頷く。


「…ただ、公子様のお好みはダージリンよりもこちらだそうですが?」


 本当に、彼はなんでも知っているのだ。ノアの答えに、ロッテは感心しきっていた。

 この缶は伯父の家に置いてもらって、彼と一緒に飲もう。そう考えながら、彼女は缶を抱え直した。


「今後とも御贔屓に。機会があれば、伯父上様にお伝えくださいませ」


 明るい陽光の下、ルーカスとロッテは店を出た。

 暗い店内から二人を見送るノアは、澄んだ空にも似た青い瞳に妖しげな光を浮かべているようだった。

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