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序章
とある大きな王国、その中心からは遠く離れた辺境の地。
広い草原と田畑に囲まれた、訪れる人も少ないこの場所に、一つ小さな街がある。
街の名は、ハミルトン・ヴァレー。
交通の要所に位置しているとはいえ、その歴史はまだまだ浅く、貴族たちの治める領地と比べればその規模はいくらか小さい。また、この街は王侯貴族たちがそれぞれ領地を治めていることの多いこの世界では珍しく住民たちによる完全な自治領となっている。
街を治めているのは、とある平民の男だと言われている。爵位こそ所持していないが、彼の統治者としての手腕は中々のもので、前述した通り辺境の地にあるこの街に彼目当てに訪れる客人も多いという噂だ。
人々の行き交う街の大通りを、護衛一人だけ引き連れて歩くこの少女もその一人。
統治者たる彼と、彼の治めるこの街に魅入られた、幼い客人令嬢なのである。