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序章

お読み頂き誠にありがとうございます。

是非ともご感想をお聞かせください。

よろしくお願い致します。

一つの言い伝えがある。


どこかにあるという、鋭く刺々しい岩山が密集する『あぎと谷』。

その下流には、獅子の牙にかかろうとしている獲物をイメージして「うさぎ森」と呼ばれる深い森がある。

可愛らしい名とは裏腹に、奥には木々がさらに黒々と空を覆い隠し、一筋の光も指さない闇の領域がある。

重く淀む瘴気。視界を塞ぐ程の木々が生い茂っているにもかかわらず、生き物の息吹をまるで感じない。

ひとたび足を踏み入れては、二度と出ることは叶わないだろう。


その領域を、人は『不思議の森』と呼ぶ。

そして、不思議の森に迷い戻れなくなる現象を恐れ、こう言うのだ。


Down the Rabbit hole――


そんな場所に、一軒の屋敷があるという。

もはや自らの存在さえも疑わしくなる、漆黒の闇の中。

それなのに、その屋敷の壁の色は、しかと目に焼き付くだろう。

闇の中に映える、鮮血で彩られたような赤。

その赤い屋敷こそ、何千年もの昔から生き続けている、恐ろしい魔女の家なのだという。


屋敷の主の名は『ハートの女王』。


――くいしんぼうの じょおうさま

  こどものしんぞうが だいこうぶつ

  きょうも もりのまいごを つかまえる

  まいごのしんぞう むしゃむしゃ たべる

  まだまだたべたりない じょおうさま

  おなかがすいた とかんしゃくおこす

  やまはゆれて なだれがおきる――


子供の頃、誰でも親からこの詩を聞かされる。いたずら好きな子供たちを窘めるためのおとぎ話だ。

悪さをすれば、不思議の森に住むハートの女王に心臓を喰われてしまうぞ、と。


当然だが、そんな話は大人になるにつれ、誰も信じなくなる。

山の自然の厳しさを啓蒙するための作り話なのだから。


誰もがそう思っていた。はず、なのだが。



…………



そして、その言い伝えの伝わる地。


険しく切り立ち連なる剣俊。雪を頂くそれは、長い年月を風雨に削られたせいか、獣の鋭い牙のように研ぎ澄まされ、人の侵入を拒んでいるかのようだ。

いくらかなだらかになった中腹では、青く光を反射する山肌と、生い茂る針葉樹の緑がコントラストを醸し出す。

標高が高いせいだろうか。空には雲がまばらで、これまた抜けるようにたかく青い。

広大な湖もそれを反射し、世界が青色に染まったかのようだ。そんな中、岩雲雀の声がこだまする。


パンテーラ――

それがこの地の名である。これだけの厳しくも美しい自然の中にも、人々の営みは在る。

ここは由緒ある貴族、かつては『百獣の王』『ライオンハート』と呼ばれた英雄ユリウス・シーザーの治める地。

いや、治めていたというべきか……


この物語は、この地に生きる過酷な運命を背負った若者たちの、不思議な出会いから始まる。

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