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8.慰労会の当日になっちゃいました

 12月3日。慰労会当日。

 天候は冬晴れのよい天気で、時折強く吹く風が冷たく感じる。


 レーヌはお昼前から夕方の慰労会に向けて湯あみを始める。

 

 ドレスはやはり、オーダーメイドだと時間がかかるということで、アストリ家が懇意にしている洋品店に母親のクレールと一緒に行き既製品を流用しサイズの修正と飾りを多くしてもらった。


 選んだドレスはレーヌの瞳に合わせ、ブルーグレーのシンプルなAラインで胸元には金剛石で花の形をしたブローチを飾り、全体を真珠と金剛石がちりばめられている。

 肩から首元までは白のレースで覆われていて、肌の露出をおさえている。


 治療会翌日には父親のマルクと母親のクレールと一緒に宝飾品店に行きレーヌの誕生石の黄色のシトリンを使ったネックレスとイヤリング、サファイヤの髪飾りを誂えてもらった。

 今日はイヤリングと髪飾りだけ身に着けると、左手にはリュカからもらったブレスレットをつけてドレスの袖の内側に隠す。

 仕上げに両手にグローブをつけて完成となる。


「お嬢様、お綺麗です!」

 アラベルは化粧を施し終えたレーヌを見て、涙交じりのため息をついている。

 レーヌも鏡を見て、いつもと違う自分に驚き固まっていた。

 

 この国では16歳で社交デビューとなるが、15歳のレーヌは社交デビュー前なのでここまで飾ることをしなかった。

(そうか、16歳になったら体形を整える下着をつけて、こうやって飾るのね)

 それを想像して、げんなりしているところに、執事のルーがマルクとクレールを連れてレーヌの部屋にやってくる。

 娘のドレス姿を見て、2人とも感極まって涙を流している。

「本当にきれいね、貴方……」

 マルクは目元にハンカチをあてながらクレールの言葉にただうんうんと頷いている。

「気をつけて行ってこい。何があっても、アストリ家の娘だからな」

 マルクは涙声になりながらそう話すが、レーヌは言葉の意味が分からず意図を聞こうと思った時にルーが先に口を開く。

「イネス様がお迎えにいらっしゃっています」

 そう告げられたので、後で確認することにして急いで玄関に向かった。


「ごきげんよう、レーヌ」

 馬車の中で座っているイネスはにっこりとレーヌに笑顔を見せる。

「ごきげんよう、イネス」

 レーヌはイネスに挨拶を返すと対面に座ると目の前の侯爵令嬢の装いを見る。

 イネスが着ているドレスは淡い紫色で、首元まで布地で覆われ、腰の部分をドレスと同じ色のリボンを使い背中で結んでいる。髪を一つにまとめ、アメジストの髪飾りでまとめ、ネックレスとイヤリングは金剛石を使い、華やかな雰囲気をまとっている。


「とうとうこの日がきてしまいましたわ」

 イネスは残念そうな、嬉しいような複雑な表情を顔に乗せ呟く。

「ふふっ。それでもリディのドレス姿が楽しみだわ」

 レーヌの言葉にイネスも笑顔で頷いた。

 

 今日の待ち合わせ場所としてシリカの店が指定されていて、そこから馬車で王城に行くことになっている。


 待ち合わせ場所に到着するとそこは周囲の雰囲気とは違ってそこだけ華やかな雰囲気が漂っている。

 男性陣は落ち着いた色合いの黒、グレーのスーツを着用しているが生地が光沢のあるシルクやベルベッド地のせいか、華やかさを感じる。


 警護団の総リーダーのリアムは王城で騎士をしているので、団員を王城で迎えるため、今日はここにいない。

 かわりに魔法部隊のリーダーアルシェが場を仕切り、女性3人を同じ馬車に乗せると、男性15人は4台の馬車に分散して一路王城へと向かった。


 馬車が動き出してから対面に座ったリディの装いを見ると、ドレスはピンク色で二の腕あたりが膨らんでいる、可愛らしいドレスで、クリスタルで髪飾り、ネックレス、イヤリングを誂えており、それもまたかわいい雰囲気を増していた。

 全体的にかわいい、という言葉がピタリとくる恰好だった。

「リディ、今日はいつもと違くて、とても大人っぽい姿ですわ」

 イネスは目を細めてリディを見ながら話す。

「初めてのドレスは自分で選べなかったのでお店の人に協力してもらいました」

 リディはいつもと口調も変わり、淑やかに話している。

「リディ、緊張している?」

 その言葉に、リディは頷いて肯定を示す。

「そうよね。私も緊張していたけど、いつも会っている顔をみたら、緊張がゆるんだわ」

 レーヌはいたずらっこのような笑顔を浮かべ、イネスとリディに声を掛けた。

 

 馬車の中でとぎれとぎれになりながら会話を交わしていると、王城が見えてくる。

「まもなく到着するわね」

 イネスの話の通り、あっという間に正面入り口に到着する。

 リアムが騎士の正装で出迎えると、馬車の扉を開け、リディに左手を差し出しエスコートしながら馬車からおろす。

「お姫様になったみたい!」

 リディは緊張しながらも目をきらきらと輝かせリアムに話している。

「では、レディ。参りましょうか?」

 リアムもにこっとリディに笑顔を見せる。

「かっこいいわ……!」

 リアムのその姿を見てイネスがぼそっと呟いたのをレーヌは聞き逃さなかった。

「イネス?」

 レーヌの言葉にはっとしたイネスは表情を取り繕うとすました顔をして馬車から降りる。

 その後をレーヌは苦笑いしながら馬車から降りた。


 リアムが警護団員全員、馬車から降りたか目視で数えたあとに口を開く。

「ようこそ、王城へ。これから移動する」

 リアムは踵を返すとドアの近くに立っている衛兵に頷くとドアを開けて王城へ進む。

 団員達もリアムの後について王城の中へと入っていった。


 入口から10分程歩いただろうか?

 赤い絨毯が敷かれている通路を誰一人話すことなく歩いていくとリアムが立ち止まる。

 そこにも衛兵がいたのでリアムが頷くとドアが開く。

 どうやらここが慰労会の会場である、広間のようだ。


 初めて足を踏み入れた王城の広間は圧巻だった。

 広間は30人も入れば狭さを感じるほどの広さで、天井は漆喰で彫刻が施され、そこから下がるシャンデリアは光を反射し、きらきらと輝き、庭に面した窓は大きく取られ庭を眺められるようになっている。

 足元には模様が入った絨毯が敷かれていて、所どころに食事と飲み物が置かれているテーブルがあり、ここが慰労会の会場であることを再認識する。


 男性の団員の中には社交デビューしている者もいるが、その者たちは臆することなく部屋を歩き、慣れていないものは、恐る恐るゆっくりと移動していく。


 リアムが部屋の中央までくると団員たちは半円状に囲むように集まる。

「今日、国王は体調が悪く出席されないが、第一王子のテオドール殿下とその婚約者のアデール様が出席される。それまでは各自この部屋から離れずにいるように」

 リアムの話にこの場にいる全員が静かに頷く。

「私はこれから用事があり、ここを離れる。何かあれば、部屋にいる騎士たちに伝えてくれ」

 それだけ話すとリアムは踵を返し広間から出ていく。


 リアムを見送った後に残された団員達は近くにいる人と話したり、飲み物を取りに行ったりしている。

 こういった場に慣れていない女性3人を目の当たりにしたアルシェとエタンは飲み物と食べ物を持ってきてくれる。

 気を使ってか飲み物はアルコール入りではなく、葡萄水を3つ持ってきてくれた。


 リディはエタンから葡萄水をもらうと、一口飲み、アルシェが持っている皿から一口サイズのサンドイッチを頬張る。

「おいしい……!」

 リディはもぐもぐと嚙みながら口を押えて感嘆の声を上げている。

「2人も少し食べたほうがいいよ」

 リディの様子をニコニコと見ているとエタンに勧められたので、レーヌとイネスもサンドイッチを頬張り、葡萄水を飲む。

「本当に美味しいわ!」

 レーヌの絶叫に近い声にイネスはきらきらと目を輝かせ口を手のひらで隠しながら頷いている。

 

 サンドイッチを堪能していると急にラッパの音が響いてきたのでレーヌとイネス、リディは顔を見合わせる。

「王族が入るサインだ。ドアが開いたら、正面を向き淑女らしく、少し膝をおり、頭を軽く下げるんだ」

 エタンがきょとんとしている3人に小さな声で教える。その言葉に3人は慌てて、居住まいをただし、正面を見る。

 

 ラッパの音が途切れるとドアが開く音が聞こえたので、レーヌ達は頭をさげ、王族を出迎えた。

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