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7.治療会の日です

 いよいよ明日は1か月ぶりの治療会。

 レーヌは夕食を取らず、湯あみをすると就寝準備を始める。

 ベッドに潜りこみながら、魔物が出ませんようにと願いながら本を読んだりして、時間を潰す。

 やがて、魔物が出ないだろう、という時間がくると部屋の灯りを消して眠りについた。


 当日の朝、レーヌはいつも以上にすっきりと目覚める。

 ベッドに上半身を起こし、伸びている時にアラベルがお湯の入った桶を持ってくる。

 レーヌは顔を洗うとベッドから降りて、寝間着を脱ぎ部屋着に着替えると、階下の食堂におり、朝食を食べながら、今日のスケジュールを話す。

「レーヌ、頑張ってこい。家に戻ったらまた話を聞かせておくれ」

 父親のマルクはレーヌの話を頷きながら聞き、励ましの言葉を掛ける。

「そうだ、貴方。レーヌが出席する慰労会に向けて宝飾品を少し誂えませんこと?」

 唐突に母親のクレールがマルクに提案している。

「そうだな。これから社交デビューも果たすのだから、今から少しずつ誂えていかないといけないな」

 クレールの提案にマルクは頷くとレーヌに顔を向ける。

「明日にでも宝飾品店にいこう」

「は、はい」

 突然の話にあたふたしているうちに朝食が終わった。


 朝食が終わると自室に戻り、警護団で決められている洋服に着替える。

 これは、身分を感じさせないために警護団関係のイベントの時は、規定の洋服で出席するように定められているからだ。


 アラベルに身支度を手伝ってもらい、髪をハーフアップにし、左手首にリュカからもらったブレスレットを付けたが、人に見られたくないので袖の内側に隠すように着ける。

 外出の準備が整ったところで時間を確認すると10時になっていたので、そのまま部屋を出て、玄関にいる馬車に乗り込み、隣のイネスの屋敷へと向かった。


 馬車で5分程のところにイネスの屋敷があり、いつ来ても、花が咲き誇り、とても美しい庭園になっている。

 その庭園を横目に見ながら、屋敷の玄関へと向かうと、すでにイネスが出てきている。


 馬車はゆっくりと玄関に近づき、完全に止まったところでドアが開き、イネス専属の侍女にエスコートされながらイネスが馬車に乗り込む。


「ごきげんよう、レーヌ」

 馬車のドアが閉まり、静かに動き出したところでイネスが挨拶をした。

「ごぎげんよう、イネス。今日はいい天気ですね」

「ええ、この天気ですと、たくさんの人が来てくれますわね」

 イネスは嬉しそうに微笑んでいる。


 レーヌは魔物退治で魔法を使うことに抵抗を感じている。できれば魔物退治なんてしたくないと思っている。

 自分の魔法で平和を維持する、ということは、魔物の命を奪うことだ。

 軽々と命を奪うことに抵抗を感じ、早く魔物が出ない、世の中になってほしいと願っている。

 イネスもまた、同じように考えていることを前に聞いたことがある。

 なので、毎月の治療会の日は心置きなく魔法が使えることが嬉しいのだ。


 町の中心部近くの屋敷に住んでいるので、治療会の会場となる町の真ん中にある教会まではあっという間に到着する。


 少し離れたところにある、馬車置き場で2人は降りると、一緒に教会まで歩いて行く。

 もう、すでに何人か並んでいて、警護団の総リーダーのリアムが教会の入口近くで受付を始めている。


 並んでいる人達に会釈をしながら教会の中に入り、受け持ちについての確認を警護団魔法部隊のリーダーのアルシェと確認する。

 

 魔力は人によっても違うが、1日治療魔法をかけ続けられるだけの魔力がある人はいない。

 なので、7人いる魔法部隊を半分にわけて1時間交代で対応していく。

 

 レーヌは最初の1時間を担当し、休憩している間はイネスが担当となる。


 治療会の開始時間は11時からで、それまでは30分程時間があるので、魔法部隊女子チーム3人で集まり、たわいもない話しで盛り上がる。

 話していると時間を忘れてしまい、アルシェに声を掛けられるまでずっと話していた。


 リディも最初の1時間を担当するとのことで、イネスが教会の奥にある、控室に向かったところで、治療会のスタートとなる。


 レーヌが最初に担当した人は、のどがイガイガする、と言っている40代の女性だった。

 目の前に座ってもらい、受付で書いた紙を受け取る。

 その紙には名前と大まかな年齢と気になる症状が書いてある。

 レーヌはその紙を見ながら、

「のど以外に不調なところはありますか?」

「う~ん。そうね……ちょっと鼻も違和感があるのよね」

「わかりました。それでは、最初にのどに治療魔法をかけていきますね。治療魔法は初めてですか?」

「はい」

「わかりました。治療魔法をかけている箇所は少し温かな感覚を感じると思います。その感覚が苦手な方もいますので、その時は遠慮なく、声を掛けてください」

「はい。よろしくお願いします」

 女性の了承が得られたので、のどに触れるか触れないかという場所にレーヌは左手をあてる。

 治療する人に対しては最初から魔力全開ではなく、顔の表情を見て、少しずつ出力を上げていく。

 2分もしていると、魔力がきれいに流れる感覚が手を通して伝わってきた。

「はい、治療が終わりました。ご気分はいかがでしょうか?」

 レーヌは女性に尋ねると、女性は明るい表情になり、

「ええ! 大丈夫です! いがいがした感じと鼻の違和感がなくなりました!」

「よかったです。また来月もここで治療会を開きますので、体調が悪かったらきてくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 女性は立ち上がり、頭を下げると、嬉しそうに帰っていく。

 その後ろ姿を見送ると、受付で記入した紙に治療内容と、治療した人の名前を書いて、騎士部隊の団員に渡す。

 それを合図にして、教会入口で座って待っている人がまたレーヌの前にくる。


 次に来たのは50代の大工をしている男性で、常連の人だった。

 症状としては腰の痛さなのだが、今日は腰ではない、と言う。

「なんだか足が痛くてな。歩けないほど右足の裏が痛いんだ」

 男性は話ながら苦痛の表情を浮かべている。

「では、さっそく治療していきますね」

「頼んだ」

 後ろにいる警護団員に椅子を1客用意してもらうと、その上に足をのせてもらい、治療を開始した。

 ただ、反応が返ってくるまでに時間がかかる。

 いつもなら、3分もあてれば、魔力がきれいに流れることを感じるのだが、10分程してやっとという感じだった。

「医療院に行ったほうがいいかもしれないですね……」

 レーヌはためらいながらも口に出す。

「そんなに悪い感じか?」

「はっきりと言い切れないのですが……」

「そうか……」

 男性は黙ってしまう。

 警護団員の中には医療を専門としている人がいないため、重い病気が疑われる時は医療院を進めるが治療費は安い金額ではない。

「わかった。とりあえず、医療院については考えてみるよ」

 男性はきっぱりと言った。

「今の治療だけでもだいぶ足が軽くなったからな。いつもありがとうな」

 男性はレーヌに礼を言うと左足に力を入れて立ち上がり、右足を引きずるようにして帰っていく。

 レーヌはもやもやとしたまま、次の希望者の治療にあたり始めた。


 この治療会は団員の体調を考えて13時には終えてしまう。

 参加した団員、全員が教会の控室に集まると、リーダーのリアムが今日受け持った人で気になる人がいたか質問される。

 レーヌは右足の裏が痛むと言っていた男性が気になっていたので、伝えるとリアムは、了解した、と言い、レーヌが担当した治療を受けた人の紙の束からその男性の分を抜き出すと目を通した。

 

 引継ぎが終わったあとは、リアムが参加者に改めて慰労会についての出欠を確認する。

 今のところ、団員の半分ほどは国の考えを知りたいと言って参加を希望しているとリアムが話す。

「返事を保留にしている者は今日解散するまでに必ず返事をしてくれ」

 リアムはそれだけ言うと、参加者を見回しリディを呼ぶ。

「慰労会のドレスだが、この日に指定の場所に行ってほしい」

 リアムがカバンから1枚の紙をリディに渡す。

「今回は時間がないから、ドレスは既製品のサイズを調整してということになった」

「ありがとうございます」

 リディは紙を持ったままこくんと頷くとリアムの顔を見上げ、礼を伝える。

 レーヌはリディが受け取った紙を見せてもらい、店を確認したところ、ドレスも宝飾品も王家御用達、と言われているところだった。

(ここまで徹底的にやるの?)

 レーヌは不思議に思いながら、リディに紙を返した。

 リディはただ、目を輝かせていた。

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