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6.慰労会が開かれるそうです

20220516

一部文章を書き換えました。

 リュカとの突然の別れから1週間が経とうとしていた。

 あの日、リュカが贈ってくれた花束の1部をアラベルがドライフラワーにして部屋に飾ってくれているが、見るたびにちく、と胸が痛む。

 だけど、花言葉を信じて、この先に再びリュカと会える日がくると思いながら日々過ごしている。


 ぼんやりとドライフラワーを見ていると、アラベルから声が掛けられる。

「お嬢様? 午後から警護団の定例会があります。そろそろ着替えないと間に合いませんよ?」

「そうだったわ」

 アラベルの声にはっとしたレーヌは椅子から立ち上がる。

 今日は月に1度の警護団の定例会という名の雑談会が開かれる日で、討伐時に着用している洋服で参加する。

 アラベルはクローゼットの中から洋服を持ってきてレーヌに手渡す。

 レーヌの着ている部屋用のワンピースをアラベルの手を借りながら脱ぐと左手首に着けたブレスレットが目に入る。

 リュカから贈ってもらったこのブレスレットは湯あみの時と眠る時以外はつけたままにしているが、他の人の目に触れさせたくないから、いつもは袖の中に隠すように着けている。


 ブレスレットを壊さないように慎重に袖を通して着替え終えると玄関に向かう。

 魔物討伐の時とは違い、定例会の時は玄関から堂々と出て行くことができる。

 執事のルーとアラベルに見送られ馬車に乗ると会場へと向かった。


 定例会の会場はユルバンの市場近くにある、雑貨店の2階なのだか、それはなぜかと言えば、寄付された洋服をどこかで保存したい、と警護団の総リーダーであるリアムが呟いたことが発端になる。

 リアムの一言を聞いた、警護団騎士部隊のシリカがそれなら、うちの店で、という話しになり、シリカがオーナーになっている雑貨店の2階を借りることになったのだ。


 奥に細長いその店の2階はシリカが寝食で使う2つの部屋以外に3つ部屋が空いており、部屋を仕切るドアを開けることもできるので、20人は入れる。


 現在の警護団員は魔法部隊が8人の騎士部隊が12人なので、ちょうど20人いる。

 この定例会はほぼ強制参加ではあるが、外せない用事がある人は出席した団員から情報共有してもらえばいい、ということにしてあるので、全員出席することはあまりない。


 だが、11月の定例会は珍しく全員出席していた。

 それというのも、リアムから今日の定例会で治療会の出欠を決めることと、重大な話があるので、用事を片付け、何としても参加するように、とテレパシーが送られてきたのだ。


 定例会開始時間の15時に全員が集まったことを確認したリアムは、3部屋の真ん中の部屋の壁際に立ち、部屋で各々座っている顔を見回してから口を開く。

「忙しい中、集まってくれて感謝する」

 軽く頭を下げ、すぐに顔を上げると話しを続ける。

「まず、急な話になるのだが、魔法部隊として一緒にこの王都を護ってくれた、リュカ・ナタンが諸事情により退団したいと申し出があり、これを了承した」

 リアムの話にレーヌは顔を伏せる。

(ああ、本当にいなくなってしまうのね)

 レーヌはリュカがいなくなることを実感すると、寂しさが込み上げてきて、左手首に着けているブレスレットを袖の上から触る。

「リュカより、力不足で迷惑をかけることが多く申し訳なかった。遠く離れるが、皆さんの無事をいつでも祈っている、と伝言を預かった」

 レーヌはその言葉をぼんやりと聞いた。


 リアムは場が落ち着くのを待って口を開く。

「次の議題だが、11月の最終日曜日の28日の治療会は実施予定だ。出席できないものはいるか?」

 リアムは座っている魔法部隊の顔をひとりひとり確認していく。

「そうか。欠席者なしだな。いつも通りの時間に集合して実施する。宜しく頼む」

 リアムはそこで言葉を区切り、ひとつ咳払いをした後に複雑な表情を浮かべて団員たちを見回す。

「次の議題なのだが……」

 リアムはためらいながら話しているのを全員見つめている。

「実はだな……魔物退治を頑張ってくれている警護団員の慰労会を開きたいと王城から伝言を賜った」

 それはこの場にいる全員が想像していなかった言葉だった。

「なぜ、今更王城が関わろうとしてくるんだ!?」

 アルシェが怒気まじりに放った言葉は、その場にいる全員の本音だろう。


 この国の各町で警護団を作ることになった理由は、王城が頑なに警護団を作らないと言い張り、魔物が出て、王城に危機が迫ればその分は退治するが、それ以外は関知しない、と通告がされたからだ。


 だが、王城から通知があったのにも関わらず、王城だけ魔物を寄せ付けないよう防御壁を張っている、とか、王城の関係者が魔物と取引をしていて、王城以外を攻撃するように仕向けている、という噂も国中に広くひろがっている。


 もし、それらの話が本当であれば、町が魔物にいつ襲われても不思議ではないという危機感から、自主的に各町で警護団が作られたのだ。


 それなのに、だ。

 今更、王城が警護団を慰労したいというのはどんな冗談なのだろう?


 その話を聞いてレーヌも口を開けて、固まってしまった。

 レーヌだけではなく、この場にいる半数が同じように口を開けて驚きの表情で固まっている。


 団員達の驚いたり呆れたりする表情を見ながらリアムは話を続ける。

「日時も指定されており、12月3日の夕方から、王城の広間で立食形式のパーティーをするということだ」

 リアム自身も動揺しているのか、少し声を震わせながら話している。

「出席については各自に任せる。出席希望者は11月の治療会の日までに俺に言ってくれ」

 リアムはしんと静まり返った場を見回す。

「今日の定例会は以上だ」

 特に意見なし、と思ったのかリアムが場の閉会を宣言した。


 いつもなら定例会が終われば雑談しながら帰るのだが、今日は王城の慰労会という衝撃的な話しがあったためか、押し黙り、あるいは不機嫌な顔をしながら三々五々帰り始めている。


 だが、魔法部隊の女子チームのレーヌとイネス、リディは部屋の片隅に集まり、帰り支度をしながらなんとなしに慰労会についての話題になった。

「わたし、王城に着ていくドレスなんてないけど、王城に入れるチャンスなんてめったにないよね?」

 魔法部隊女子チーム最年少の9歳のリディが茶色の目を輝かせながら、2人の顔を見ている。

「そうね、なかなか王城に行く機会なんてないですわ」

 イネスもリディの意見に同意する。

「ねぇ、リディ? ドレスの件が大丈夫なら、王城に行く気があるの?」

 レーヌはリディに質問してみる。

「うん。だって、王城に行って、王様とか王子様に会えるなんてそうそうないじゃない?」

 リディは両手を胸の前で組み目を輝かせながら、レーヌを見ている。

 レーヌは少し考えて、あたりを見回す。

「リアム!」

 リーダーであるリアムを見つけ声を張り上げる。

 レーヌの声に気づきこちらに向かってきたリアムに質問を投げかける。

「ねぇ、慰労会に着ていくドレスがないのだけど、どうしたらいいかしら?」

 レーヌの質問に、リアムは首を傾げた。

 この警護団では爵位など身分は一切明かさないようにしているが、レーヌが公爵令嬢だと知っている者は少ながらずいて、リアムはその中の1人なのだ。

「王城側でドレスを用意すると聞いている」

「えっ?」

「これも王城からの話でな。警護団員の中でふさわしい洋服がない場合、一式下賜すると聞いている」

 その言葉にリディは間髪入れず口を開く。

「それなら、行きたいです!」

 レーヌは呆れてその話を聞いていたが、隣にいるリディは目を輝かせ笑顔を浮かべリアムを見ている。

 レーヌとイネスは顔を見合わせると同時に頷く。

「幼いリディの保護者がわりとして、私たちも出席しますわ」

 イネスがそう返答する。

「了解した。ドレスについてはあとで連絡する」

 リアムはそれだけ言うとこの場から離れる。

「ありがとう!」

 リディは満面の笑顔でレーヌとイネスにお礼を伝えた。


 定例会の帰り道、レーヌはイネスと一緒の馬車に乗って屋敷へと向かう。

 隣の屋敷なので、どちらかの馬車で町の中心部に行き、そこで馬車を降りてシリカの店にいくのが定例会の時のお約束で、今日はレーヌが馬車を出している。


 馬車に向い合せになるように座ると、イネスがすぐに口を開く。

「突然の話しで、驚きますわね」

 イネスの言葉にレーヌはどき、とする。

「今まで各町の警護団のことなんて見向きもしなかったのに、慰労会を開くなんて……」

 イネスは戸惑いの表情を浮かべながら首を傾げている。

(あっ、そっちの話題ね)

 レーヌは慌ててリュカのことを頭から追い出すとイネスの話に頷く。

「リディを1人、王城へと行かせるのも問題があると思って私たちも行くことにしましたけど、一体なんの目的があるのかしら?」

 イネスの言葉にレーヌは首を傾げる。

「それよりも、私たちもドレスを作らないといけないですわ! そんなに時間がないのに間に合うかしら?」

 イネスの言葉にレーヌはハッとする。

「ああ、そうだわ。時間がないわ」

「両親に相談して、どうするか決めないといけませんわ」

 2人でため息をついていると、イネスの屋敷が見えてくる。

「リュカ様のことも驚きですが……」

 イネスからリュカの名前が聞こえてレーヌはどきっとする。

「あら? レーヌ? 顔が赤いですわよ?」

 イネスはレーヌの顔を見ながら、いたずらに微笑んでいる。

 レーヌは慌てて両手で自分の顔を隠す。

「リュカ様がいなくなって寂しくなりますわね」

 イネスはどこか嬉しそうに、ややからかいも含めてレーヌに話しかける。

「ふふっ。あら、もう我が家ですわ。また日曜日にお会いしましょう」

 返事を返せないうちに、馬車が停まりイネスがおりていく。

 レーヌは両手でぱたぱたと自分の顔に風を送りながら自宅へと向かった。

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