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5.幼馴染とお茶会です

 突然涙を零し始めたレーヌを見て、アラベルは驚き戸惑いながらもレーヌの背中を撫でている。その時、ドアをノックする音とともに執事のルーの声が聞こえてくる。

「お嬢様、イネス様がお越しになっています。いかが致しますか?」

「イネスが? ……わかりました。応接室に通しておいてください」

「はい」

 レーヌがしゃくりあげながらルーに指示を出すと返事をして足音が遠ざかる。

 アラベルはレーヌの背中を撫でながら心配そうに顔を見ているが、イネスと話せば落ち着くかもしれない。

 そう思ったレーヌはアラベルにぎこちない笑顔を向ける。

「アラベルありがとう。化粧を直してくれないかしら?」

 アラベルはそれでも心配そうな表情を浮かべているが、すぐに化粧道具を用意すると、レーヌをソファーに座らせると崩れたところをなおしていく。

「本当は目元を冷やしたかったのですけど……」

「時間がないから、大丈夫だわ。じゃあ、行きますね」

 にこりと笑ってレーヌはソファーから立ち上がると部屋を出て1階の応接間に向かった。


「レーヌ、ごきげんよう……でもないかしら?」

 応接室に到着するとイネスはソファーから立ち上がり、レーヌの顔を見て驚いた声で話しかける。

「イネス、ごきげんよう。ちょっとゴミが目に入ってしまって……」

 リュカのことで泣いていたと言えなくて、とっさにごまかした。

「そうでしたの? もう大丈夫なのかしら?」

「ええ」

 無理に作り笑いを浮かべて、イネスの向かいのソファーに座る。


 イネス・ヤスミンは隣の屋敷に住む、レーヌの幼馴染の侯爵令嬢で、親同士の仲が良く、お互いの屋敷を行き来するうちに仲良くなっていった。

 イネスはプラチナブロンドに黒い瞳をもつ、聡明な女性で、年齢も同じということもあり、親がいなくても、2人だけでお互いの家に行きつつお茶を飲みながら話をすることが多い。


「イネス、急にどうしたの?」

「あら、いやだわ。レーヌの顔を見にきただけなのに」

 ちょっとむくれて答えたイネスをみて、レーヌは笑ってしまう。

「ふふっ。昨日の討伐もあったので、少し話したかったのですわ」


 魔物退治は心が強くないと難しい。

 目の前で人が魔物に殺されるのを見ることもあるし、レーヌのようにけがを負うことだってある。

 魔物討伐後は精神の不調が現れないよう、身近な人と何気ない日常会話を毎日することを警護団では推奨している。


「そういえば、そろそろ毎月の恒例行事の治療会の日よね?」

 レーヌは湯気の出ている紅茶を飲みながら、イネスに話しかける。

 ところがイネスはこの場に出ているクッキーを頬張り、幸せそうな顔をしている。

「この焼き菓子、どこかで購入してきたのかしら?」

 レーヌは応接室の入口に立っているルーにちら、と視線を向ける。

「今日お出ししているのは当家で作ったものにございます」

 ルーが2歩前に出てイネスに返答する。

「アストリ家、最高!」

 イネスは焼き菓子に目を輝かせながら見つめた後に、まじめな顔になる。

「持ち帰りたいのですが、よろしくて?」

 イネスはルーに顔を向けて確認している。

「了解いたしました。では、用意させますので、お待ちください」

 ルーは恭しく頭をさげる。

「やったわ!」

 イネスはぐっと、こぶしを握り、小さく動かした。その姿を確認したルーは背中を向けて笑いをこらえるとそのまま応接室を出て行く。

 ルーが応接室を出たことを確認するとイネスはレーヌの顔を見る。

「何をお話ししていたのかしら?」

「恒例行事についてですわ」

「ああ、そうね。毎月最終日曜日に実施ですから。来週の定例会で決まると思いますわ」

 イネスが澄ました顔で紅茶を一口飲みながらレーヌに答える。


 治療会とは、その名の通りで、町の人から寄付金をもらっている警護団が寄付のお礼にと月に1度だけ町の中心部にある教会で、町の人に治療魔法をかける会なのだ。

 

「このまま、穏やかに当日を迎えてほしいですわ」

 イネスは少し不安な表情を見せる。治療魔法が使える警護団員がすべて出席するのだが、その前日に魔物が出て魔法を使うことになったら、翌日の治療会を万全の状態で挑むことができなくなる。

 それは避けたいことではあるが、魔物に人間に事情など通用しない。

 ただひたすら、魔物が出ないよう願うしかない。


 それ以降は警護団の話はせずに、ユルバンに新しくスイーツのお店ができたとか、今の流行はあそこのドレスとか、そんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 アラベルがドアを開けるとルーが入ってきて、焼き菓子ができあがったことを告げる。

 それを聞くとイネスはルーに一礼するとソファーから立ち上がるとレーヌに顔を向ける。

「そろそろ戻りますわ」

 その言葉にレーヌもソファーから立ち上がると一緒に応接室を出る。

 途中もたわいもない会話をしながら玄関に向かうと、ルーが紙袋を両手に抱えて待っている。

「イネス様、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます。家に戻り両親と食べますわ。それでは、ごきげんよう」

 ルーから紙袋を受け取ると足取り軽く、馬車に乗り込んで隣の屋敷に帰っていった。

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