2.今日は鱗祭りです
王都ユルバンの中心にある屋敷から愛馬で王都を抜け森へと向かう途中、魔法団リーダーのアルシェにテレパシーで質問を投げかける。
『アルシェ、森のどこに行けばいいのかしら?』
『レーヌか? それなら北側へ向かってくれ。ドラゴンがいるからすぐにわかるはずだ』
『わかったわ!』
レーヌは西に向かっていたので愛馬の手綱を緩く引きスピードを落とす。
「北に向かうわよ」
愛馬のオレリーに優しく話し掛け、方向転換する。
オレリーが疲れないようなスピードで北に向かうがすぐに場所がわかった。
紫、青、緑のドラゴンが3匹、上空で滞空しており、森を焼き尽くすかのように炎を吐いていた。
ドラゴン達を見据えながら5分程走ると馬が何頭か繋がれている場所に到着する。
そこは警護団員が馬や馬車で駆け付けるために設けた臨時の停車場で、馬が魔物に怯えない距離に作っている。
レーヌは管理している人間に会釈をすると愛馬を預け、すぐに現場へと向かい走っていった。
討伐現場に到着すると、緊迫感とともにドラゴンの咆哮や葉が燃える匂いや、ちり、という音が聞こえてくる。
『アルシェ、到着したわ。これから参加します』
レーヌはテレパシーでアルシェに一声かけて、魔物の群れを見据える。
(今日は鱗軍団が勢ぞろいしているのね)
馬で走りながら確認したドラゴン以外に、地上には炎を身にまとったワニほどの大きさのトカゲが5匹の群れを作っていて、魔法部隊と騎士部隊が対峙している。
レーヌは戦闘状況を確認しようとあたりを見回した時に魔法部隊のエタンの声が頭に響いてくる。
『レーヌ、到着したか? 地上にいる炎トカゲはリディが水魔法を使って炎を消そうとしている。空のドラゴンはレーヌとイネスと俺で翼を狙い撃ちにして地上に落とし、騎士に任せようと思う』
レーヌが炎トカゲの近くを見てみると、リディと思しき小柄な女性が空に手をあげ、これから水を降らせるところが見えた。
『エタン、了解したわ。私は森の手前にいるドラゴンの羽を狙うわ!』
『イネスです。私はそのドラゴンの左後ろに控えている羽を狙います!』
『2人とも、了解した。じゃあ、俺はイネスが担当した左隣にいるドラゴンの羽を狙う』
その声にレーヌは小さく頷き、準備を始める。
『レーヌ、聞こえているか?』
あら、次は騎士部隊のリーダー、リアムからだわ。
『聞こえているわ。今エタンとイネスと話していたように、3人でドラゴンを落とすから、あとはよろしくね!』
『任せておけ! 今日も剣自慢ばかりだからな!』
リアムの話しを聞きながらレーヌは風魔法を使うため呪文を唱え、風を巻き起こすと地上から少しずつ浮き上がる。
炎魔法を使うなら、少しでもドラゴンの近くに寄らないと威力が弱まる。
地上を見てみるとリディが水魔法で炎トカゲの炎を消すことに成功したようで、ただの大きなトカゲを騎士部隊のみなさんが弱点をきっちりと刺し、退治しているところだった。
『じゃあ、みなさん、いきますよ!』
その声が合図となり、ドラゴン討伐チーム3人はそれぞれが担当したドラゴンの羽に向けて炎魔法を投げつける。
レーヌの投げた炎はドラゴンの羽に命中しているが、少しバランスを崩しただけで何も変わらない。
他の2人はドラゴンの片翼を大きく焼いていたが、こちらもバランスを崩すだけで、地上に落とすことができなかった。
逆にドラゴン3匹に討伐チーム3人の居場所を悟られてしまい、炎を向けてくる。
むむ、と言いながら、水の防御壁を自分の周りにかけ、ドラゴンの炎をやり過ごしながらこのあとの展開を考える。
(いつまでも防御壁が持つわけじゃないから、助けを呼ばないと)
レーヌはそう考えみなに呼びかけようとしたところ、突然ドラゴン3匹の動きが止まる。
(何が起きているの?)
レーヌは空中に滞空したまま注意深くドラゴン3匹の様子を注視する。
しばらく様子を見ていたがなぜかドラゴン3匹は攻撃をピタリとやめて方向転換し、山の向こうへと消えていってしまう。
レーヌはその姿を見送りながら、戻ってくるかな? と呟くが、戻ってくる気配がないため、テレパシーで参加者に報告する。
『みなさん、ドラゴンですが、突然攻撃をやめて西方面の山向こうに消えました。戻ってくる気配はありません』
その言葉を聞いた、魔法部隊のアルシェは、
『了解した。騎士部隊は地上の炎トカゲの討伐が終われば撤収せよ。魔法部隊は騎士部隊の攻撃を援護してくれ』
参加者がそれぞれの役割を理解したところで、レーヌは水の防御壁を解除しながら風を弱くしながら地上に降りる。
そこまで激しい戦闘はなかったと思うが、炎トカゲの討伐にあたっている騎士部隊の近くに行く。
トカゲは3匹ほどしか仕留められなかったようで、ドラゴンが山向こうに行った時と同じ頃にトカゲも素早く撤退してしまったらしい。
騎士部隊の面々を見ると、大きなけがをしている者はいなかったが、水を大量に降らしたために、ぬかるんだ地面に足を取られ、臀部あたりを地面に打ち付けた者が2名いる、ということなので明日の仕事に差し障らないよう、軽く治癒魔法をかけておくことにした。
レーヌが臨時の停車場に戻ると、警護団最年少の少女リディがレーヌの姿を見て駆け寄ってくる。
「お疲れ様!」
疲れを見せないリディが元気よく声を掛けてくる。
「リディもお疲れ様! 気を付けて帰ってね!」
「レーヌも! おやすみ!」
夜ということもあり、顔を合わせると長く話さず、労いの言葉をかけ、それぞれの家に戻る。
レーヌは幼馴染のイネスに会いたいと思って、愛馬オレリーの近くで待っている間に数人の警護団員と声を掛け合っていたら、騎士部隊のリーダー、リアムが姿を見せた。
リアムは警護団の中では一番の年上であり、現役の王城の騎士団の一員なのだが、時折、警護団の騎士部隊の訓練を受け持ってくれている。そのおかげで、騎士部隊は剣の扱いに慣れた者が多い。
「リアム、お疲れ様!」
「おっ、レーヌもお疲れ様! 今日はあまり活躍できなかったな」
リアムはにやりと意地の悪い顔で話しかけてくる。
「ドラゴンが意気地なしだったので」
レーヌはしれっとリアムに返すとリアムは満面の笑みを浮かべる。
「そういうことにしておこうか」
そう言うと馬に乗り、手を振ってあっという間に帰っていった。
それを見送っているとやっとイネスと会えたので、少し言葉を交わし、レーヌは馬で、イネスは馬車で帰途についた。