第9話 草食の兆し
(本気で死ぬかと思った……)
なんとか崩壊に巻き込まれる前に逃げ出すことができたが……
(俺の安住の地が……)
芋虫が無限に湧き出てきたおかげで、今まで食べる物に困らずに済んでいた。
ここでそれを失うのはかなりの痛手だ。
ここら一帯は決して安全とは言い難い。
今までは外出を極力減らしていたから良かったものの、常に外にいるとなると、今の俺では対処できないほどの脅威と遭遇する可能性が高くなる。
しかもそんな中で食料を探さないといけないのだ。
洞窟内で練習した甲斐あって、魔法はかなり上達したとは思うが、それがどこまで通用するかは分からない。
ステータスの確認も大事だが、それより先にいち早く食料と安全な住処を確保したほうが良いだろう。
ステータスの確認はそれからでも遅くない。
しかし、残念なことに俺は洞窟から川までの範囲しか移動したことがない。
土地勘は壊滅的だ。
焦っても良い考えは思いつかないだろうし、ひとまず水分を摂って落ち着くとしよう。
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「ウキーッ!」
川へ向かう道中、猿のような鳴き声が聞こえた。
いつもスライムが草を食べている辺りだろうか。
何かあってもすぐに逃げられるだろうと思い、気になって鳴き声のした方へ音を立てずに忍び寄っていく。
やはり鳴き声がしたのはスライムがいる場所だったが、遠目だとスライムが草以外の何かを溶かそうとしているように見える。
(もう少し近づいてみるか)
さらに歩みを進めていくと、徐々に鮮明に見えるようになっていく。
そこには上半身をスライムに飲み込まれ、今にも下半身も取り込まれそうな小さな猿が、なんとか抜け出そうと必死に暴れていた。
(小猿か?)
スライムに負ける程度なら手を出しても問題ないだろうと思い、俺はいつものように素早くスライムの核を引き寄せた。
(そういえば、スライムの核結構集まってたのに全部埋もれちゃったな……まあ今のところ特に使い道もないし別に良いけど)
核を失うと同時に張力も失い、液体となって地面に吸い込まれていく。
全身を取り込まれる寸前だったが、小猿の意識は残っており、なんとか助かったようだ。
しかし、上半身が火傷のように爛れている。
人でも仲間でもないのに助けてしまったが、助けた後のことを何も考えていなかった。
(殺して食べるって選択もあるけど、流石に無抵抗な小猿を殺すってのはちょっと可哀想な気もするな……)
言うまでもなく芋虫は例外だ。
「ウキキキーッ!」
突然、猿の大きな鳴き声が上から聞こえてきたかと思うと、小猿の側に大きめの猿が降り立った。
見た感じ、小猿の親猿のような感じだ。
全身の茶色の短い毛を逆立てて、小猿を自分の後ろに隠して守るようにこちらを威嚇している。
(まさか親猿が出てくるとはな……)
親猿の登場は完全に予想外だった。
猿の細かい習性は覚えていないが、親子愛が強いんだろうか。
親猿の実力は未知数のため、無闇に敵対しない方が良いだろう。
急に襲いかかってきても対処できるように身構えながら、猿達の方を細かく確認しながらその場を後にする。
ある程度の離れると、親猿はこっちに向けていた意識を小猿に移した。
俺は後ろから襲われないように、もう少し隠れて様子を伺う。
親猿は小猿の容体を見るなり、スライムが食べていた草を噛んですり潰した。
それを口から手に吐き出すと、小猿の痛そうな反応を無視して、小猿の爛れた上半身に満遍なく塗り付けていく。
一通り塗り終えたかと思うと、今度は同じ手順ですり潰した草を、無理やり小猿の口に流し込んでいく。
(まるで怪我に効果があるみたいだが……あの草は薬草か何かなのか?)
完全にはどんなものか分からないが、あの様子だと毒は無さそうだ。
怪我の処置を終えたのか、小猿を背中に背負った親猿は片手で小猿を抑えながら、器用にその場を走り去っていった。
(なんとか戦闘は避けられたな……)
**********
何事も無かったことに安堵しつつ、いつものように川の水を摂ると、俺はさっきの場所へと再び戻ってきていた。
(さて……この草は一応食べても問題は無いようだが……)
特に変わった匂いはないし、毒がないことも既に分かっている。
意を決して、一口齧ってみる。
(こ、これは……)
口の中に広がる僅かな甘味と苦味。
まるでその2つが口内を交互に刺激するようだ。
(不思議な味だが、悪くはないな……)
薬草としての癒しの効果があるかは、怪我をしていないため分からないが、食用としても使おうとおもえば使えるんじゃないだろうか。
食料と住処問題が解決して余裕ができたら、試す価値は十分ありそうだ。
猿の出現により、思わぬ展開で草の安全性と可能性を確認できた。
それに感謝するかのように見上げると、何か比較的大きな鳥らしきものが、木々の間を縫うようにかなりの速さで飛行しているのが目に入った。
(あんなのに襲われたらまずそうだな……)
なんとなくこっちを見ていた気がする。
不可視壁や転移があるため瞬殺されることは無いと思うが、実戦経験が乏し過ぎて、動き回る対象に魔法を当てられる確信が持てない。
もっとも、自分に加速を付与すれば戦えるかもしれないが。
それでもあんなLvの高そうなやつをいきなり相手にするのはまっぴらごめんだが。
少しでも生存率をあげるためにも、進化で強くなれるなら先にしておいたほうがいいかもしれないな。
進化の情報が全く未知数のため、この場ですぐに進化するのは危険かもしれない。
川に沿って下流に向かいつつ住処になりそうな場所を探して、そこで進化したほうが良さそうな気がする。
このときの俺は、下流の方に行けば今よりは安全だろう、となんの疑いもなく思い込んでしまっていたのだった。
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