一話 ⑤
舞踏会から帰宅し、レベッカは自室へとむかった。堅苦しいドレスなど、すぐにでも脱ぎ捨ててしまいたい。それに、愛しい彼が待っている。
「たっだいまー!」
そういいながら部屋のドアを開け放つ。
「おかえりなさい」
柔和な笑顔で出迎えてくれたのは、レベッカが愛してやまない恋人のエリックだった。
「リッキー! ただいま~!」
力強くエリックを抱きしめ、チューをせがむ。エリックはレベッカを抱きしめ、お望み通りキスをした。
「食事を用意してあるよ」
「やったー、最高~」
エリックが抱きしめたまま、レベッカのドレスを脱がす。彼の手つきは慣れたもので、すぐにレベッカは下着姿になった。
「はぁー、ラクぅ」
煩わしいドレスを脱いだことで、開放的な気分になる。下着姿のまま、ソファに座り込む。
「お嬢様! その姿のままでは風邪をひきますよ」
レベッカのドレスを回収しに来たメイドにそう怒られ、レベッカはごめーんと力なく答えた。
メイドの手によってバスローブとガウンを着せられる。髪の毛の飾りも取られ、サラサラとした髪がソファに広がった。手早くメイクも落とされ、リラックスモードに入る。
舞踏会から帰ってくると、彼女はいつもこうだ。諜報員として、様々な情報を集めてくる作業は、必要以上に体力と頭を使う。普通に参加するよりも、疲れることだろう。
テーブルにエリックの料理が準備され、美味しそうな匂いが立ち込める。
レベッカのお腹もぐぅーと鳴り、空腹を訴えていた。
「はぁー、美味しそう……」
そういいながらも、動く気配がない。ソファにもたれたまま、目をつぶっている。
すべての料理を運び終えて、エリックがレベッカの隣に座った。彼女の頭を肩に乗せて、料理を口に運ぶ。
「はい、あーん」
「あー」
エリックによって食事が口に運び込まれ、レベッカはゆっくりと咀嚼する。
「おいしい……」
「よかった。ほら、まだあるから」
「うん。食べさせて」
「はいはい」
恋人同士の甘いやり取り、というよりは、親鳥がヒナに餌を与えているようだ。