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カモフラージュ婚  作者: 代理人
3/6

一話 ③

 ある日の舞踏会でのことだった。レベッカは黄色いドレスに身を包んで、深い緑の髪の毛をいじっていた。


 コルセットがきつくて、お酒しか飲めない。おいしいごはんも食べれない舞踏会で、多くの貴族から白い目で見られる。エスコートはいつも父親。普通の令嬢なら、この状況で頻繁に舞踏会に行くものはではない。しかし、レベッカはあらゆる舞踏会に出ていた。


 レベッカが舞踏会に出るのは、ただ一つの目的のためだった。


 柱の陰に隠れながら、女性たちの会話を盗み聞きする。

 お酒をあおりながら、聞いた会話を頭の中で反芻して、記憶にとどめる。とりとめのない会話から、政治的に必要な部分のみを取り上げるために、どのような報告書を出そうか考える。


 ナンセンス家は、多くの貴族から軽んじられている。表向きは何もしていない家門であり、伯爵の地位にいるのも本来なら、烏滸がましいほどであった。しかし、彼女の家門には裏の仕事があった。庶民から貴族まで幅広くの情報を集め、皇室へと提出する。諜報員としての仕事だ。


 レベッカも諜報員として活動しており、それがこの、舞踏会への出席に繋がる。父親は男性の交流を主に務め、レベッカは令嬢からの情報収集を生業とする。社交界ほどに情報が飛び交う場所はない。だからこそ、彼女はどれほど他者から冷たい目で見られようと、社交界のあらゆる行事へと参加していた。


 今日も舞踏会に参加して、令嬢の会話を盗み聞いていた。ある程度の情報は仕入れたものの、これといった収穫物はないに等しい。


 この会場で得られるものはもうないと判断し、人影の薄い場所へと移動する。

 情報収集というのは、何も明るい場所でばかりされるものではない。庭園や休憩室の近くなど、人がいないところでこそ、行われるものだ。

 あてどころなく歩きまわり、何かないかと探す。そんな彼女の耳が、ある小さい声を拾った。


『もう、疲れたわ』

『帰りの馬車の支度をしてきます』

『ええ』


 その声は、ある部屋から聞こえてきていた。休憩室としてあてがわれたところではない。

 密談というよりは、疲れた令嬢が休んでいただけだろう。しかし、この声は……。


「男性かな」


 頭の中で貴族名鑑を開き、該当する声が誰か導き出そうとするも、思い当たる人がいない。


 誰だろう。


 自分の知らない貴族がいるはずないと思うも、だれかわかるものでもない。

 ドアが開き、中から騎士が現れた。


「あ、サンゴショー家の人か」


 騎士を覗き見て、それが誰かわかった。


 その騎士は、体躯が二メートル近くありそうな筋骨隆々な人だ。常に表情を崩さず、獲物を狙うかのように相手を見下す姿は、そりゃあ迫力がある。

 そして彼が仕えている主人は、サンゴショー家の三男、セオドアだ。いい見目をしているものの、付き合った女性はいないと噂がある。


 その理由がわかった気がした。


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