一話 ①
第一話「カモフラージュ婚」①
それはうららかな春の日差しが草木いっぱいに広がっている時だった。
家族や親族に祝福されながら、それは行われた。
「汝、セオドア・サンゴショーはこの愛に嘘偽りがないことを誓いますか」
「はい。誓います」
「汝、レベッカ・ナンセンスはこの愛に嘘偽りがないことを誓いますか」
「はい。誓います」
「それではここに、婚姻の儀が果たされたことを宣言します」
鐘が鳴り響く。純白の衣装に包まれたレベッカの手を取り、セオドアがエスコートする。ゆっくりと、しかし、しっかりとした足取りで二人は外へと向かった。
扉が開くとともに、光が教会の中に入り込んだ。
こうして、レベッカ・ナンセンスとセオドア・サンゴショーは結婚した。
仲睦まじい夫婦のように見られる彼らは、式が終わり次第すぐに家へと帰宅した。誰もが、愛に包まれた夜を迎えるのだろうことを想像した。
もちろん、二人は仲睦まじい夜を迎えるのだが……。
「ただいまー! リッキー!」
家のドアを開けた瞬間に、レベッカが叫んだ。迎え入れた執事は笑顔を崩すことなく、馬車の片づけを行うべく外へと出た。
執事の後ろから出てきたのは、柔和な男性だった。麦藁色の髪の毛がふんわりと揺れる。
「おかえり」
「ああ、会いたかったー!」
セオドアのことを放り出して、男性へと近づき、ガバッと抱き着く。
「あー、いい匂い。かわいい。最高にかわいい。好き」
「お疲れ様」
レベッカの背中をさすっているのは、彼女の恋人のエリックだ。
「セオドアさんも、お疲れ様です」
「ああ」
「お部屋でお待ちですので、どうぞ。僕らのことは気にせず、向かって下さい」
「そうする」
セオドアはメインホールの階段を上がり、左へと曲がっていった。
「ほら、僕らも行こう」
「うん!」
エリックにエスコートされ、デレデレとした笑みを浮かべる。
レベッカ・ナンセンスとセオドア・サンゴショーは結婚した。しかし、彼らの結婚は通常のものではない。
お互い恋人がいる状態で、ただ名義のためだけに結婚をした。
いわゆる契約結婚もとい、カモフラージュ婚であった。