第四話 王妃たちの居城
この国が出来て二日目の朝を迎えた。
俺は昨日作ったゴーレムを幾つか複製し、俺の身の回りの世話は彼(彼女?)達にして貰うことにした。
自慢にならないが、魔法の力を使わなければ、料理を作ることも掃除をすることも出来ない。
とは言え、魔法を使えば、掃除機は勿論向こうの世界に有った「ルンバ」のような自動で掃除してくれるロボットも作ることは出来る。
ただ、作ることが出来る事と、自分で掃除や料理が出来るかどうかは、話は別である。
基本的に、俺はこのチート能力のせいで、何でもできる代わりに何でもできない。無能な人間が、馬鹿馬鹿しくなるようなチート能力を貰ったせいで何でも出来るように持ち上げられるのは、正直人間が腐るところだったと思う。
いや、実際は既に人間の屑になってしまっているかもしれない。
それは分からないが、まだギリギリのところで踏みとどまっていると思いたい。
身に余る能力は、人をだめにしてしまうように思うが、自分はそうはなりたくないと思いつつも、実際のところは正直どうかわからない。
それを判断するのは、俺じゃなくて周りの人たちだろう…。
そんなことを思いつつ、俺はゴーレムが用意した食事を摂った後、妻になる女性達が住むための場所を城の近くに作ることにした。
昨日の会議の中でも話し合われたのだが、王城に俺の妻になる女性たち全員を置いておくには、王城の役割の面でも、警護の面でも不具合があると言う話だった。
実際問題、王妃たちの警護や世話はゴーレムが行うにしても、王城の警護も全てゴーレムが行うとなると、ゴーレムをどうにかする手法が有り、それを使われた場合、すべてのゴーレムが停止したら王城が無防備になってしまう為、人間の兵士も雇うべきだという事、そして、人間の兵士も何らかの手段で篭絡されてしまう可能性もあることから、ダブルスタンダードでの警備が有った方が良いだろうという事だった。
また、このゴーレムの警備が問題がなければ、まず間違いなく各国からもゴーレム警備兵・ゴーレム使用人等の作成依頼が来るだろうという話にもなり、またそれを政治交渉の材料にもできるから、このことは今はまだここにいる者たちだけの話にしようという事にもなった。
そして、王城に妻になる女性たち全員を置いておくと、男性の警備兵を雇うことに不都合が有るという事から、王妃たちが住む場所はゴーレム警備兵と女性の警備兵の両方で守護するという話にもなり、その為警備兵の詰所や王妃たちの住む場所を王城の近くに作ることになったわけである。
作ることは簡単では有るのだが、100人近い王妃たちが住む場所。しかも、それなりの身分の女性達ばかりなので、それなりの広さの居室も必要になる。
そして、人数が人数であるために、かなりの敷地と規模の大きい建物を作る必要がある。
また、仮に20階建ての建物を作ろうものなら、エレベーターか若しくは転送魔方陣のようなものを作らないと不便だろうが、転送魔方陣は悪用される可能性もあるので、エレベーターのようなものを作ろうかと考えた。
ただ、エレベーターでもドアが開いた瞬間に刺客に狙われる危険もあるだろうから、エレベーターの箱の中は結界で守られるという仕組みにしつつ、エレベーターの中から外の様子が見れるようにもしておくつもりだ。
現状、俺の元に政略結婚で送られてくる予定の女性たちの中には、敵対関係にある陣営の女性たちも大勢いるために、色々と気を使わなければいけない。
ある程度、王妃たちが住む場所…仮に王妃の居城としておこう。それを作るイメージを練り上げて、魔法で作り上げていく。
現代でいう高級タワーマンション的なものをイメージして作ってみた。
恐らく、これはこれで何かしらの不都合が有るとは思うが、とりあえず、これをユエやエマに見て貰って意見を聞いてみる必要があるだろう。
「何ですか? これは」
それが、エマの第一声だった。
「何かと言われたら、王妃たちが住むための場所としか言いようが…」
「それは分かっています。私が聞いているのは、どうしてこんな無骨な建物を王妃の居城にしようだなんて思ったのでしょうかという事です」
どうやら、お気に召さなかったらしい。
無骨と言われてしまえば、確かにその通りだとしか言いようがない。
現代のタワーマンションとは言っても、どこかの建築家がデザインしたようなものとは違い、言ってしまえばただの箱でしかないと言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
「各国の王侯貴族のご令嬢や有力者の娘達が住む場所なのですよ。豪華絢爛とまでは言いませんが、ある程度の華美を備えていなければ、令嬢たちの親族に示しがつきません。『こんなところに我が娘を住まわせているのか!』などと言われても仕方がありませんよ?」
何も言い返せない…
俺の能力の欠点とも言えるが、何でもできると言っても俺が想像も出来ないものや、知らないものは作ることが出来ない。
正直、芸術的センスについては皆無と言っていい。
ただの冒険者として、魔物たちと戦っていた時は何の問題もなかった。
攻撃魔法に煌びやかさなどは必要ないし、無意味に派手な演出を加える理由も必要もなかった。
だが、今後は芸術的なセンスも必要とされるらしい…。
「だけど、どんな風にすれば納得して貰えるんだ? 出来るだけ具体的に詳しく教えてもらえないと、イメージ出来ないものは作れないんだ」
俺はそう答えるしかなかった。
「分かりました。私を王都へと送って下されば、必要な資料を集めてまいります」
そう答えたのはユエだった。
「私であれば、他の方々ほど目立つこともないでしょうし、凡そ勇者様の参考になりそうな資料を集めて来ることも出来ると思います。そういったものに詳しい人にも心当たりが有りますから」
そう言われたら、何も言えない。
俺は転移の魔法を使い、ユエを王都に送っていく事にした。
ユエに護衛は必要かと尋ねたが、却って目立つ為必要ないと言われてしまった。
それにユエは姿を変える魔法を使えるらしい。
隠密行動にも使えそうな魔法だが、それを聞くのは少し怖い気がしたのでやめておく事にした。
「それでは行ってまいります。明日の朝に同じ場所に迎えに来てください。それまでには資料を用意できると思います」
ユエを王都の町外れに転移させると、そう言い残して町中に消えていった。
俺は再び転移で自分の居城に戻ると、直ぐにエマに捕まり説教を受けた。
俺の立場は…。
ユエが戻ってくるまでに、エマに分かる範囲で説明を受け、外観や内装に手を加える事になった。
よくよく考えたら、現実世界では外からタワーマンションを見たことは有っても、実際に中を見たことはない。
その為、貧困な俺の想像力で作られた建物は、外は無骨で中は地味なものになってしまっていたことは否めなかった。
結局その日は、一日中エマに付き添われて王妃たちの居城の整備。
その翌日には、ユエを迎えに行った後に、今度はユエに付き添われて改修作業を行うことになったのであった。
「これで有れば、各国の王侯貴族達も納得されるでしょう。勿論、そのご令嬢達も」
そうエマに太鼓判を押されるまでに実に三日程掛かってしまった。
今度こそ、各国の王侯貴族の娘達や、有力者の娘達を迎える準備が整ったように思う。
俺には分からないことも多いため、その辺りはエマやユエに頼ることになりそうだ。
その後も、色々と駄目出しを受けたものの、さらに数日経過して、ようやく二人の了承がもらえて、明日から各国に行き、王妃になる女性たちを迎えに行くことになりそうだ。
次回も2週間後の予定です。状況次第では、また少し遅れるかもしれません。
次回から、ようやく本編に入る形になると思います。