僕は空港陸上部
「はぁはぁ・・、ふぅ・・・」
ウォーミングアップを終え、少し乱れた息を整える。
既に11月、朝は寒く息が白い。
この春伊丹空港の空港職員に就職して約半年、僕は空港陸上部に所属し毎朝仕事前に朝練をするのが習慣となっている。正直仕事前の運動はしんどいけど、走るのが好きなので苦ではない。
走るのは苦ではない。寒さは苦である!
このだだっ広い滑走路では障害物もないため、吹き荒れる風が体にぶつかって異様に寒い。せっかくアップしたのに体があったまった感じがまったくしないな。
もし勤務する空港が東北地方とかだったら・・・絶対寒さで死んでるね。
しかし今日は寒い。・・・今日はジャージでやろっかな?
多少動き辛いが、もし脱いでヒートショックになってしまうと洒落にならーー
ベシンッ!
「アホか! 何ならもう一回アップして来いや」
思いっきり叩かれた。
もう一回ウォーミングアップして来い? 確かに!
もう一回5キロ走ったらもっと体あったまるな!
「了解です! じゃあ行ってきます!!」
「おい待て待て!? マジで行こうとすんなや。相変わらず風音は冗談通じひんなぁ」
「え? 冗談? 凄い名案なのに・・・」
叩いてきた先輩・・・乙音先輩は走り出そうとした僕の首根っこを掴んで止める。どうやら冗談だったらしい。名案なのに。
乙音先輩は先輩だが部署どころか会社すら違う。航空機支援業務の僕とは違い、彼は整備士だからだ。
ただこの空港陸上部は、入部テストはあるものの空港に勤務している人なら会社や仕事内容関係なしで入部が可能なため、所属している人は皆違う会社の人ばかりだ。
ただ皆僕と同じように走るのが好きだったりと気が合うので誰がどの会社だろうが、あまり気にする人は居ない。
「というか先輩今日は朝練するんですね。いつもはサボるのに・・・」
「言い方! 俺は別にサボってへん、この時間は大抵残業で仕事中やねん。今日は残業無かったからこの時間から来れたんや!」
あーそう言えば前に夜勤になったーとかなんとか言ってったっけ?
「ところで光矢さんはどこなん?」
「あそこっす。もう加速装置つけてトラックに入ってますよ」
「あっ、おったおった。あの様子やと直ぐには走らんな。久々に対戦してもーらお」
そう言うと、乙音さんは凄いスピードで僕の前から消えた。
消えたと言うのは流石に言い過ぎだが、加速装置のお陰で実際新幹線並みの速さで走れるので消えたように見えなくもない。
この加速装置は腕に巻くバンド型で、空港陸上部員には全員に配られる。どう言う原理か知らないが、身体能力を未装着の10倍以上に強化することができ、どういう原理かこれも知らないがこの効果は滑走路上のみでしか機能しない。
つまりこれをつけると滑走路限定で超人のような行動が取れるということだ。
何故このようなものがあるかと言うと、空港陸上部は普通の陸上部と違い走る種目しかない。
そして走る場所が滑走路なのだ。
さらに言うと短距離走でも最低1キロからで長く普通の身体能力だと時間がかかる。
加速装置はその時間を少しでも短縮しようと開発された。
そもそもなんでそんな設定になっているかと言うと、
これは聞いた話なので確証はないが、元々滑走路を使って何かできないかと言う話があり、色々議論された結果こうなったとの事(諸説あるらしい)。
加速装置を開発する前に走る距離短くすればいいじゃんと言う声が聞こえそうだが、それをすると普通の陸上と変わらないので空港陸上協会的にNGなんだそうだ。
正直よく分からない。
ちなみに加速装置とは通称で、本来はPhysical Reinforce Deviceというらしいが、長ったらしい上覚えにくいので、正式名称で呼んでいる人はかなり少ない。
「おーい! 風音も早よぅこんかい!」
「あー、了解っす!」
僕も加速装置をつけて2人の待つトラック・・・滑走路へと移動した。
僕の到着を確認して光矢さんは
「さて、始めっか。今日は来週の記録会に向けて、1キロ走、3キロ走・・・乙音も居るし9キロリレーをするか」
「うす!」
「分かりました」
1キロ走は普通に真っ直ぐ走るだけの単純な短距離走だが、3キロになると途中折り返しがある。単純に1.5キロ地点のラインで回れ右するだけなのだが、全力疾走だと時速360キロくらい出るので、いかに速く、無駄なく、怪我せずに折り返せるかの技術が問われるため、中々に難しい。
そしてリレーになるとこれに追加でバトンの受け渡しがあるため余計に難しい。これも後ろからじゃなくて前から来る走者から貰わないといけないので、普通の陸上のバトン受け渡しとは違うし。
未だにバトンの受け渡しが苦手でスムーズに出来る確率は50%くらいだ。
「よし! 誰から行く?」
「俺三木さんと競走したいっす!」
「お、いいぞ。久々にやるか」
「じゃあ僕がスターターしますね。1キロっすよね?」
「3キロでええわ」
「あ、了解です」
レーダー式の計測機をセットし、拡声器を持つ。
その間に2人はスタートラインに立ち構える。加速装置を使うと脚力でクラウチングスタート用のスターティングブロックを破壊してしまう恐れがある為、加速装置導入と同時にスタートは立ってすることに変わっている。
いいですかと確認後、2人から距離を取り片手を上げて合図した。本当はシグナル使えばいいんだけど用意するのめんどいし。
「では行きます。・・・ヨーイ・・・・・ドン!」
上げていた片手を勢いよく下ろす。同時にドンッ!と大きな音と突風を残して2人は一気に最高速で走り出し、一気に小さくなり滑走路の一部となってしまう。10秒経ったしそろそろ折り返し地点かな。
・・・あっ、来た来た。
「「うぉおおおおおお!!」」
ダァン!
少しでも速くと最後の一歩を力強く踏んでゴールする。僅差だったのでどっちが速かったかはよく見えなかった。
2人はハァハァと息を切らしながら、僕に詰め寄る。
「「風音! どっちや!」」
「見えなかったすね」
「「スロー判定は!?」」
「カメラセットしてないっす」
「「何でや!?」」
そう言われても・・・
「タイム見たら良いじゃないですか。ほら出てますよ」
僕は計測機を指差す。2人は首だけを回してそっちを見た。
光矢:31秒54
乙音:32秒01
「クソがぁああ!!」
「はっはぁあ! 俺の勝ちー」
崩れる乙音さんとガッツポーズの光矢さん。
相変わらずオーバーリアクションする人たちだ。そして直ぐ元に戻る。
「今日は勝てると思ったんやけどなぁ。まだあかんかったか」
「ははは、だがもう1秒差もないし、もう少しで抜抜かれそうだ。・・・ヨシっ! じゃあ次風音行こうか」
「了解です」
ジャージを脱いで準備をする。ううぅ寒い・・・
さっさと走ってもう一度着よう。
「いいか?」
「はい!」
「じゃあヨーイ・・・ドン」
今度は光矢さんがスターターで僕1人で走る。
いつも通りに走っているつもりだが、脚力が強く一歩の歩幅が広い。周囲の景色が新幹線に乗っているようなスピードで過ぎていく。この感じは好きだが、すぐさま折り返し地点なので楽しむ余裕はない。
「ここだ!」
折り返しラインが見えたところで小さくジャンプし体を180度回転させる。
そして着地。
ズザザザザザザッァ
靴を地面に押し当て、摩擦でブレーキしながら右足がラインを超えたことを確認。すぐに右足で滑走路を強く蹴り再度加速する。
「あと半分か」
練習なので戻りも気楽に走る。
行きと同じくらいのスピードで走りゴールに入る。
「ハァハァ・・・タイムは!?」
スピードを落としながら戻り。2人に聞く。しかし2人は答えない。計測機を見て固まっている。
仕方ないので自分で見た。
風音:31秒10
あ、新記録出た。いえーい!
「風音ー! ズルしただろー!?」
「してませんって! 見てたでしょ!!」
「ドーピングとかしてるんじゃないのか!?」
「光矢さんまで!? してませんよぉ!!」
はぁ・・・
新記録の度にこの手のお祝いする風習はなんとかならないのかなぁ・・・
~記録会当日 開始前~
「さっむ!!」
「おまえ・・・本当寒さに弱いな。今日はあったかい方だぞ」
「そうですか?」
乙音さんはこの寒さの中でもケロッとしている。
これであったかい方? 確かに天気予報ではそんなこと言ってたけど・・・
滑走路では風が直で当たるからあんまり関係ないよね。どっちかっていうと風の有無、太陽が出ているか出てないかの方が重要だ。
だから・・・曇りかつ風強い今日とか最悪だ。何で記録会に限ってこういう天気かねぇ。
「おまえが曇り男だからやろ?」
「そんな男聞いたことないですよ」
「おーい乙、風音。そろそろアップ始めろよ!」
「「あ、はい」」
光矢さんに言われ、僕らはそれぞれでアップを始める。
記録会開始までは・・・あと30分か。5キロは走れるな。
「走り過ぎだアホ」
怒られたので3キロで妥協した。
のんびりと滑走路の端を走る。加速装置ありだと一瞬で走ってしまう距離だが、こうしてのんびりと走るのもいい。今日は記録会なのでいつもはあまり見ない部員も多く居て、準備のために作業する人や同じようにウォーミングアップする人などまちまちだ。
「部員ってこんなに居たんだ・・・」
空港陸上部が部全体として活動することはこういった記録会や大会以外では無く、普段は各自グループに分かれて好きなタイミングや場所で行っている。なので全員が同じ日に集まること自体が殆ど無い。
そのため僕は何人がこの伊丹空港陸上部に在籍しているか知らない。国内全体だともっと知らない。国際だと・・・
「国際はまだ無いわ。日本だけよ」
「ん?」
気付いたら僕の隣を誰かが並走していた。僕より一回り小さいので声をかけられるまで気が付かなかったが、見ると藤さんだった。彼女は入部テストで隣だった上、新入部員大会でも隣だったのでよく覚えている。
静かで落ち着いた感じの女性だが、かなり負けず嫌いなのか新入部員大会で勝ってしまってからはこういう舞台で何かと絡んでくる。
「・・・今日こそは私が勝つわ。いい加減前をあなたに走られるのは嫌だし」
「そう言われても・・・」
彼女の得意分野は長距離走、僕は短距離走。
長距離も得意だけど短距離の方が好きなので、練習は基本短距離しかしない。
「藤さん。僕は短距離走がメインなんだけど・・・」
「・・・じゃあ長距離で私より良い記録出すのやめて」
「すみません」
普通に走ってるだけなんだけどなぁ・・・
短距離走者ではあるが走る事自体好きなので長距離だろうが障害物だろうが何でも出る。制限なんてないし。
「・・・今日は勝つ」
「あ、はい。頑張って」
「・・・・・」
藤さんはぷいと前を向いて僕を追い抜いていってしまった。そのままガンガン飛ばして走っていく。あんだけ飛ばして後でバテないと良いけど・・・。
あ、そろそろ折り返しだ。
「おー戻ってきたな」
「また絡まれてたなお前」
「そうなんすよー」
藤さんは可愛いので絡まれる事自体は嫌ではないが、毎度睨まれるのはキツイ。まぁ藤さんは長距離ではかなり速い方なのでもうちょっとしたら僕なんて直ぐ抜かれるだろう。
そうすれば彼女も僕なんて気にしなくなるだろう。
・・・それはそれでちょっと悲しい。
「というかお前が速過ぎるんだよ! 何で長距離もいけるんだお前?」
「練習でもしてんの?」
「いや・・・してませんけど・・・」
そもそもプライベートでは走らないしなぁ。部活動以外で走るのは通勤くらいだし。
「・・・お前、どこ住んでたっけ? 寮?」
「え? 北千里ですけど?」
「ああ、わかった。毎日そこから走ってたらそりゃ速いわ」
そうかな?
そんな事ないとは思うが2人が勝手に納得したのでそういう事にしとこ。
~記録会当日 途中~
「ふぅ・・・まぁまぁかな」
「お疲れ様です」
中々の高記録を叩き出した光矢さんが満足げに戻ってきた。3位だが自己ベストを更新したので本人的には満足のようだ。
逆にスタートダッシュに失敗し、良いタイムが出なかった乙音さんはさっきから体躯座りで消沈している。
「乙。まだ死んでんのか? いい加減戻ってこい」
「ほら、まだ得意分野の障害物があるじゃないですか! やる気出してくださいよ」
「うっせー!! 良いタイム出して3位と5位になった奴らには分かんねーよ!」
ギャーギャー騒ぐ乙音さん。
光矢さんがそれを見て「ダメだこりゃ」と首を振る。そして関わるのをやめ、大会の予定表を見て次に自分が出る種目が何時か確認する。
「ん? 次、お前の長距離じゃん。行かんで良いのか?」
「あ、もうそんな時間ですか。ちょっとサクッと走ってきます」
「サクっとて・・・そんな気軽な感じで勝つから絡まれるんじゃねぇの?」
そう言われても・・・
気楽に走ったほうがいい記録出るし・・・
のんびりとした気分で長距離走者達が集まる所に移動。長距離走は時間がかかるので走者は全員一斉に行う。
長距離は30キロ。平均記録では10~11分、速い人は8分台だ。僕ももうちょっとで9分切れそうだけど、中々残り10秒が縮まない。8分台を狙っているわけでもないので今回も気楽に行こう。
「・・・絶対勝つ」
・・・だから藤さんも気楽にね。
睨みつけないで、怖いから。
「位置について・・・」
僕らがスタート位置についたのを確認し、スターター係の人がそう言ってシグナルのスイッチを入れる。黄色いランプが上から順に点灯し、4回目で一斉に青になる。
突風を起こし、全員が一斉に走り出した。僕は後ろの方に居たので、コンマ数秒遅れてスタート。藤さんはスタートダッシュを決め現在先頭近くを走っている。
長距離は滑走路をぐるっと回るだけで済むので楽だ。折り返しは摩擦で足裏が熱くなる時があって痛い時があるしさ。
しかし、折角普段走れない滑走路を走れるのに曇りのせいで風景を楽しさが半減する。長距離では良い風景を見ながら走らないとモチベが下がるんだよな。
「ハァハァ・・・」
滑走路のを大回りしながら外から前を走る人達を抜いていく。
今何キロだろう。もうそろそろ半分くらいかな?
チラッとタイムを見ると現在4分過ぎたところだった。
・・・そろそろ飛ばしても良いかな。
走る足の力を入れ、一歩の歩幅を広くなるよう意識してスピードを上げる。とりあえず藤さんに追いつくところまで飛ばそう。
藤さんは・・・おお、まだ先頭集団に居る。追いつくとは言ったけど、ちょっと厳しいかも。
いやもうちょっと飛ばせば追いつけるかも。
「ハァハァハァ・・・ウグッ」
残り5キロ位かな。変に飛ばしたせいで苦しくなってきた。しかし先頭集団はもう目の前だ。
残り3キロでラストスパートかける予定なのでこの位置だと追いつけるだろう。
「き、ハァ・・・来たわね」
「ハァハァ。来ましたー」
流石にバテてきたのか藤さんが先頭集団から遅れ始めたところで追いついた。
藤さんかなり辛そうだ。
「そして先行きますー」
「なっ!?」
残り3キロになったので、短距離走と同じスピードまで上げる。
「ま、負けないぃ」
「む!」
一気に加速した僕に食らいつくように藤さんもラストスパートをかける。一瞬「ここで譲れば上手い事負けれるんじゃね?」という考えが過ぎる。
が、苦しそうな表情で最後の力を振り絞って走る藤さんを見てその考えを止めた。
ここでワザと負けるのは彼女に対し悪いと思ったからだ。
そして同時に負けたくないと感じた。
今まで中、高、大と陸上をしてきたけど、基本走るのが好きなだけで勝ち負けには拘らなかったし、目標とする人も居なかった。ただ毎日走って、楽しければいいと思ってた。
そりゃ自己ベストが更新されれば嬉しかったけど、本気で打ち込んでる人と比べると全然遅い記録なので悔し
いとも思わなかった。
そんな僕を目標とする人なんている訳もなく、僕に対して競争心を燃やすことはなかった。いつからか僕の結果を気にする人は居なくなり、僕も自身の結果をあまり気にしなくなっていた。
多分本気でやっていないからだろうな。そしてみんなそれに気付いたんだろう。
本気でやってないから誰も気にしない。誰も気にしないから更に本気でやらなくなる。
それが今の僕だ。
そんな僕と張り合ってくれたのが藤さんだ。
今までなら僕が本気でやっていないことに気付き競争心を無くすが、彼女はそうじゃなかった。正直何度も絡まれることに関しては鬱陶しい時もあるが、ずっと張り合って来る彼女に対し初めて負けたくないという気持ちが生じたのかもしれない。
もしここで手を抜けば彼女は僕に幻滅し、2度と張り合ってこないかもしれない。そうなれば鬱陶しいことは無くなるだろう。
だがそれはすごく嫌な気がした。
絶対後悔しそうな気がした。
「ぬぉおおお!!」
「!?」
だから本気を出した。
頭を真っ白にしてただゴールを目指した。風景を見ることすら止め、前だけを見つめて手足を動かす。その瞬間周りの音が消え、無音の中自分の息遣いだけが聞こえるような錯覚に陥る。
今まで感じたことのない境地だった。
いつのまにか苦しさすら忘れ、僕はそのままゴールラインを超えた。
タイムは・・・8分54秒。
「ハァハァ・・・よっしゃ!」
タイムが縮んだことも嬉しかったが、それよりも藤さんに勝った事が嬉しい。
これで後悔せずにすみそうだ。
「ハァハァ・・・また・・・負け・・・」
十数秒遅れて藤さんがゴールしてくる。さっきまですぐ後ろにいたと思ったが、いつの間にかすごい離していた。
「大丈夫?」
「・・・もうちょっと待って・・・・、ふう・・もう大丈夫」
ゆっくりと息を整えてから藤さんはこっちを見た。そしてムスッとした顔で
「今まで手を抜いてた?」
「そのつもりは無い。本気でやってなかっただけ」
「・・・それを手を抜くっていうの。じゃあさっきのが本気」
「多分。無心で走ったし」
「何で急に本気出したの?」
「藤さんに負けるのが嫌だったから?」
「ふっ・・・何で疑問系なのよ」
藤さんは少し笑った。そしてその場に座り込んで天を仰いだ。
「あーもう・・・、今回は勝てると思ったのにぃ・・・。もっと頑張らないと」
いつもならイラついた様子で文句を言いながらどこかへ行くのだが、今日の藤さんは何処となくスッキリした顔をしている。
「ねぇ?」
「ん?」
「いつもどんな練習してるの? というかどれくらい走ってるの?」
「そんなに走ってないよ。部活以外では通勤時しか走らないし」
走るのは好きだが、休みの日などプライベートでは他の趣味を優先するからな。
「そうなの?」
「そうなの」
「・・・家ってどこ?」
「北千里」
「・・・私と一緒じゃん。え、そこから? ここまで?」
「うん、そう」
というか藤さんも北千里なんだ。
あれ? でも通勤時に藤さん見ないな。
「私は電車だから」
「あ、電車か」
「でも確かに走っていけなくもないわね。直線距離だと10キロ位? どれくらいかかるの?」
「20分弱。信号に引っ掛からなかったら、だけど」
「電車と大して変わらないんだ・・・」
藤さんは何やら考え込む。何を考えているのだろう。
まぁいっか。
「じゃあ僕次の障害物走に出るからもう行くよ」
「え!? それも出るの?」
基本出れるものは全エントリーなので。
丁度いいや、さっきの感覚を忘れない内に障害物走で試してみよう。
「じゃあまた」
「うん」
その後本気で障害物走を走った結果、乙音さんに勝ってしまった。
結果ようやく復活した乙音さんは膝を抱えて動かなくなり、慰めるのに苦労した。今日1番疲れたかもしれない。
こうして僕の記録会は終わった。
~後日~
「おはよう」
「ん?」
いつものようにそこそこのスピードで通勤していると、信号待ちで声をかけられる。振り返ると藤さんがそこに立っていた。
「あ、おはよう。電車に乗り遅れたの?」
「・・・違うわよ。ちょっと前から走って通勤してるの」
「へーそうなんだ」
電車の方が楽なのに・・・。チャレンジャーだね。
「次の記録会では私が勝つから」
「そう? じゃあ今度は最初から本気出すよ」
「是非そうして。それでも勝つから」
「何なら今から会社まで勝負する?」
「良いわよ。じゃあ信号が青になったらスタートね」
「分かった」
その日以降、毎朝空港前まで藤さんと競争するのが普通になった。
読んで頂きありがとうございました。
現在の他の連載が落ち着いたら。この設定で連載できたらなぁ・・・と思っております。