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崩剣史~四大皇王記~  作者: 導関医蓮
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四刀目 帰路

「シェイル、お前髪の色も変えていたのかよ…。」

 村に戻って三日、シェイルの傷も完全に癒えたことからようやく王都への帰路へ向かうことができたのだった。フード集団はすぐその日に少数の護衛をつけたまま王都、バルヘルムヘ連行されていった。

 フード集団は決して口を割ろうとはせずに、自分達は闇商人と一点張りであった。さらに、シェイルがフーラムに問い詰めてやろうと家に乗り込んだが、熱を出しただの、風邪が酷いといい、孫でさえ部屋に入れようとはせずにシェイルが何も聞き出せないままこの日を迎えてしまったのだ。食事は摂っているらしく、グブァラに作らせては部屋の外に置かせているのを本人から聞いた。

 一方で、今生の別れに近いものを告げた親友のグブァラはシェイルの変色した頭髪に唖然としていた。ただ、今生の別れと言いつつも、グブァラに関しては貴族位になったらまた会えるかもしれない。

 イルトモ村では髪の色を茶色に染めていた。その色は王家になく、一般庶民によくあるからだった。シェイルの本来の髪色は今のマゼンダピンクでもなく、本来の色に戻したかったが、シェイルを心配する義母に止められてしまった。ちなみにこのマゼンダピンクに染めるための占領はハルガ草から作られるものであり、黒霧森からの帰り道に少しだけマイミからわけてもらった。

 マイミの母も快報へ向かっており、今朝別れを告げに行くと、発疹はいくらか消えていた。さすがに娘が命の危険を侵してまで自分を助けようとしてくれたことに感銘を受けたのか子供達に対する態度がいくらか軟化していたことは喜ばしく思えた。

 ただ、マイミはあれから態度が固く、あまり目を合わせようとはしてくれなかった。この三日、まともな会話もしておらず、もしかしたら森でのシェイルのことをもう思い出したのかもしれない。しかし、変わらない事実であり、シェイルが弁明することは許されるはずがない。そして、今日の見送りにもマイミの姿は見えなかった。

「グブァラ、マイミは…?」

「それが…。マイミにさっき呼びに行ったら、部屋にこもりきりで…。俺が呼びかけても出ようともしないんだ…。」

「そうか…。」

 シェイルは二人に対する罪悪感を笑顔で上書きすると、グブァラに歯を見せ、マイミにありがとうと伝えるよう言って、その場を去ろうしたが、グブァラに腕を捕まれてしまった。

「ちょっと待てよ、お前、マイミに気持ちは伝えなくていいのかよ。」

「気持ち?」

「ああ。お前さ、マイミのこと好きだろ。」

「そうだったな。」

 グブァラの一言に思わずシェイルの心に影がさした。マイミがここに来てくれればという願望なんていうものではない。自身の過去と照らし合わせてマイミを想ってはいけないことに気づけなかった傲慢さからだ。

 グブァラはそんなシェイルのそっけない返事に努髪天を衝かれたのか、腕を掴むその手に痛みを感じるくらいに力をいれた。

「何だよ、他人事みたいな言い方は!マイミがどれだけお前のことを思っていたか!このままじゃお前らは後悔したまま道を歩むことになるんだぞ!」

「そうだな…。」

 もうこんな話し合いしたくなかった。グブァラの手をシェイルは捕まれていないもう一方の手で乱暴に払いのけると、背を向けて、用意されている馬車に向かった。

 けんか別れでも構わない、グブァラやマイミがライオルト・シェイル・コーストニアさえ関わらなければ、二人は幸せに暮らせるのだから。きっと、グブァラは立派な貴族になり、マイミは玉の輿に乗れるだろう。

「おい、待てよ…!」

 グブァラが追いかけて、再びシェイルの腕を掴む。やはりその手はシェイルの腕を締め上げるくらい力を入れている。

「このままでいいのか、本当に。今からでもマイミの…。」

「グブァラ、……………口の利き方には気をつけろ。私は王族だ。次、そんなまねをするなら不敬としてお前の家族もろとも死罪にしてくれる。」

「なっ…!」

 シェイルは父譲りの目付きの鋭さをさらに睨むことで強調し、グブァラに精一杯の侮辱する。 

 彼らと別れるのは本望だったはず、彼らのために自分はいてはいけないとわかっているはずだった。では、何故、こんなに寂しくて、悔しくて、そして、悲しいのだろう。自分の矛盾した感情の意味がわからない。

「もういいのですか?」

「はい…。」

 馬車の前でシェイルを待っていた義母が優しく声をかける。

 泣きそうになっている目を見せないよう目の前に立つ義母から顔を俯け、紡ぎ出した返事をする。義母は優しく、「そうですか」とだけ行って、先に馬車に乗った音がした。

 シェイルも声を出さずにひとしきり涙を流すと、新調したばかりだというのに白い礼服の袖で涙を拭いた。気持ちを無理矢理振りきって、パッと顔を上げ、馬車に乗り込んだ。義母の向かい側に座るとフゥと一呼吸おいて、ここまで過ごした幸せを噛み締めるように窓の外の景色を慈しんだ。

 もう二度とここには戻ることがないだろう。この山も川も景色すべて思い出として心にしまいこんでおこう。

「クラウィス、出立だ!」

 窓を開けて、先頭で輝きを放つクラウィスに命令する。クラウィスはコクりと頷くと、手を上げて進み出す。

 ふと、グブァラを見ると、背を向けて肩を震わせており、なんだか別れのはずだというのに嬉しかった。自分自身を認めてもらえたという、そうんな感情が巻き起こった気がしたのだった。

「シェイル、帰るのが怖いですか?」

「そんなの当たり前ですよ。俺にとってあそこすべて恐怖でしかないんですから。」

 義母の心配してくれる優しさに目を細めた。脳裏にあの地獄でしかなかった王宮の日々がよぎる。

「義母さん、俺のことはもう心配しないでください。これ以上、心配されると、逆に死にたくなりますから。いいですか、義母さんは俺を救ってくれた。もうそれで充分です。これ以上は何も望まないので。」

「シェイル…。」

 ああ、この目だ。母として息子を慈しむ目、それはシェイルにとって何よりの救いであり、欲しかったものだった。しかし、誰からも欲しかったわけではない。一番欲しかった人物はもうこの世にはいない。もちろん、義母にはとても感謝しているし、こうやって思ってくれることは嬉しい。されど、義母は国王の女、今みたいにもう穏やかに親子を続けたらいけないだろう。

 できるだけ距離を作った方がいいにきまっている。


 元皇太子と元王妃を乗せた馬車を護衛する第三騎士部隊長のクラウィスは隣に来た騎兵学生の一人、ロビルの対応をしていた。

 ロビルは騎士一家の家計であるが、一度も部隊長を輩出したことがなく、名ばかりといつも周りから馬鹿にされていたが、王立学校での騎馬の成績が群を抜いており、今回特別に騎士の一つ下の位、騎兵の見習いとして派遣されたのだった。

「隊長、シェイル殿下ってあまりいい噂聞かないんですけど、このままおいていった方が良かったのでは?」

「おいおい、国王陛下の勅命をお前は無視するのか。」

「確かに勅命は大事っすけど…。」

「こら、また口調が戻ってるぞ…。」

「あっ!」

 ロビルはあんぐりと開けた口を手で覆った。わかりやすい。騎士家系だというが、ロビルの語尾は中々個性的であり、貴族に近い家の出とは思えなかった。

「あと、お前は噂を信じて人を見ないのかよ?」

「火のないところに煙りはたちませんよ。少なくとも、俺は噂はその人を体言していると思います。あっ、…もちろん、それは王宮を除きますが…。」

 ロビルははたと気づいて自身の反省を述べつつ、悔しそうに口をつぐんだ。王宮内は根も葉も無い噂がしょっちゅう立ち、反逆者を一晩で仕立て上げることができるくらいだ。

「そうだろう?ましてや殿下は皇太子のお立場だったのだ、嫌な噂は簡単にたつだろう。」

「うわぁ…。また俺…。」

 ロビルははぁとため息をついた。感情で動き、考えるところはいただけないところだ。

「そう気にするな。お前も殿下と話せばいい。あの方がいかに利口で頭が冴えるかわかるだろう。」

「はぁ?いやいや何言ってんすか?俺が元皇太子と話せる身分ではないことくらい知っているっすよね?」

「俺が紹介する。安心しろ。」

「へっ?隊長、殿下とどういう関係なんですか?」

 ロビルがおもいっきり呆けた顔をした。

「お前に言うわけないだろう。殿下の味方というわけでもないくせに。」

「うわっ…。」

 クラウィスが意地悪な笑みを浮かべ、ロビルを見る目だけは射抜くほど鋭くする。ロビルはそれに気圧されたのかまるで汚物を見るような目でこちらを見つつ、後方に行ってしまった。

「隊長も容赦ないですね。」

「おう、ミャーオ。」

 今度はシェイルの味方だったミャーオである。騎士学校ではなく、歩兵からのたたきあげにもかかわらず、わずか十六で騎士になったという四十三年ぶりの快挙を達成したとんでもない人物である。本来、騎士になろうと思えば王立学園を卒業するのが現在の当たり前のこととなっている。ミャーオの恵まれた体格に初対面の際、クラウィスは圧倒されたのをよく覚えている。

「シェイルの味方にこだわったために未だ独身であることをどうされるので?」

「あー…。」

 ミャーオの低く、重厚感のある声に反論できないことを言われてしまうと、何も言えないクラウィスである。

 ミャーオの言う通り、六年前にシェイルとの約束である、いい人を見つけ、結婚して家庭を持ってほしいというものは未だ達成されていない。社交界などに顔を出してみたが、やはり貴族などの考えることについていけず、むしろ周りから引かれたくらいに恥をかいたのを鮮明に覚えている。

「ミャーオ、そのことは俺から弁明するから…。絶対にシェイルに言わないでくれ…。」

「いいですよ。どうせ、俺はユーリ様にすぐに呼び戻されるので。あの方、兄を深く思っている割には嫉妬深いですから。俺がシェイルと仲良くしていると、途端に嫌な顔になりますし。」

「それほどミャーオを信頼しているんだろう。というか、お前はいつまでシェイルにこだわるんだ。」

「いいじゃないですか。シェイルには返せない恩があるんですよ。」

「私情を挟むな。ユーリ様の感情に振り回されてお前が中途半端な態度を取ったら俺はお前を殺さなくちゃならない。それだけはやめてくれよ?まっ、ユーリ様はシェイルにご執心だから大丈夫だと思うがな…。」

「『兄』の命のために代案をだすくらいの方ですからね。俺は、いつまでもシェイルの味方です。決してどんなことがあってもユーリ様にはつきません。絶対に。二人が決別したとしたらという話前提ですが。その上で俺はあなたが羨ましい。シェイルはあなた以外に心を開いていない…。」

「ああ…。」

 ミャーオの言葉はさすがに説得力がある。彼の言う通りシェイルの表情を思い出すと、胸にくるものがある。未だにクラウィスを見たときの顔は救われたような顔をしていたのだ。村で仲良くなったはずの友に対して前皇太子と名乗ることは躊躇われたのだろう。シェイルをそのまま受け入れることができるのは中々いないことはわかっていても辛いものだ。大切な人達を壊し、家族をめちゃくちゃにした国王は自分が仕える主だが、とても憎く、恨めしい。

「シェイルはリィーヌ様に対してあれほど感謝しているのに何で距離をとろうとするんですかね…?」

「それは簡単だ。自分の存在が彼女の人生を台なしにしたとでも考えているんだろ。まったく、誰に似てこんなに優しくなったのか…。」

 クラウィスはため息をつきながらも脳裏に浮かぶ人物を懐かしみ、少し口角をあげる。

「さっ、無駄なおしゃべりはもう辞めだ。三日で返らないとあの我が儘王に罰っせられるぞ。ただでさえあのお方はシェイルが帰ることに不満たらたらだ。早く帰して、早く俺が保護しよう。」

 クラウィスはミャーオの肩に手を置くと、そのまま前を向いた。もう話すことはないという合図だ。

「やっぱり、シェイルの絶対的な味方であるあなたが羨ましい。」

 ミャーオはぼそりと呟いたのだった。

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