「無題」
むかしむかしのそのまた昔
丸い大地のおそらくヘソのあたりに
四つの季節の巡る大地がありました
そこでは様々な生き物が、緑あふれる大地の上を
のびのびと暮らしていました
…
ある時、世界に言葉が生まれました
世界には言葉が満ち溢れ
物や事柄に意味が生まれました
言葉を覚えた生き物たちはお互いの考えていることを知ることができる喜びを知りました
…
ある時
彼らの生き物の中でも特に頭のいいものが
言葉から魔法を作りだしました
彼らは自らを「エルフ」と呼びました
大地におこるさまざまな出来事から3つの魔法を作りだし
それらはそれぞれ「火」「水」「風」と名付けられました
その知恵を他の生き物たちに教えて回りました
…
火の魔法をもっともうまく使えたのは
火の山に住む「サラマンドル」でした
彼らは火の魔法を使い
硬い岩の大地から便利な道具をたくさん作りました
言葉を覚えられず魔法を使えない生き物でも
魔法を使うことのできる道具や
大地に眠る輝く宝石を削り出し
それを他の生き物たちに分けてあげました
…
次に生まれたのは水の魔法
水の魔法をもっともうまく使えたのは
大地の奥深くにある
生命の水底に住む「ウンディーネ」でした
彼らは水の魔法を使って大地に川や湖をつくり
他の生き物にうるおいを与え
さまざまな生き物の住む海を作りました
…
風の魔法をもっともうまく使えたのは
大地を支える奥深い森に住む「シルフィー」でした
彼らは風の魔法を使って森を広げ
他の生き物に多くの恵みと
木陰の安らぎを与えました
…
彼らは他の生き物から「三大精霊」と呼ばれ尊敬されましたが
彼ら自身は他の精霊たちとあまり仲が良くありませんでした
火は言いました
「火は全てを燃やし、溶かし、作り変えることができる
火が一番えらい」
風は言いました
「風は実りをもたらし、生命を育み、奪うことすらもできる
風が一番えらい」
水は言いました
「水は生まれ来る生命の源、あらゆることの根源
水が一番えらい」
エルフたちはそんな彼らを見て頭を抱えました
皆がもっと仲良く、よりよい世界になると考えつくった魔法が
かえって元より仲を悪くしてしまったからです
…
果てしなく続く大地を
世界の誰よりも愛していた「ノーム」というものたちがいました
彼らは片時も離れず寄り添い
自らを支えてくれる大地に一つの魔法を見出しました
心優しい彼らはその好奇心の赴くままに
さまざまな形の大地を作りだし
精霊たちが仲良しになれるようにと
山と森を、森と湖を、海と大地を繋ぎました
…
エルフ、精霊たちはノームの魔法に驚きました
エルフはノームの作った魔法を「地」の魔法と呼び
3つの魔法の根源である「大魔法」とし
彼らを無二の友としました
精霊たちは争う自分たちを恥じました
ノームたちは精霊の仲間に迎えられ
彼らは「四大精霊」と呼ばれるようになりました
…
世界に魔法が生まれて
何年もの時間が流れた頃
彼らは自らの住む、火の山と森、そして海に囲まれた大地をユグドと名付け
それぞれが異なる場所に住みつつも交流を持っていました
世界はエルフと四大精霊、そして彼らによって生み出された生き物たちによって大きく発展しました
サラマンドルはドラゴン
ウンディーネは マーマン
シルフィーはドライアド
それぞれに魔法で生み出した生き物たちと暮らし
時に他の精霊たちと助け合いました
…
ある時、エルフとノームは協力して一つの生き物を生み出しました
ドラゴンと違い、火を吹いたり空を飛んだりはできません
マーマンと違い、水の中で生きることはできません
ドライアドと違い、木々と語り合うことはできません
エルフとノームはそれを「ヒューマン」と名付けました
鱗もヒレも持たない彼らを三大精霊たちは馬鹿にしましたが
なによりも「知識」をもとめる彼らに次第に惹かれていきました
そして彼らはエルフとノームから許可をもらい
ヒューマンを自らの土地に招きました
彼らは異なる場所に適応し
それぞれが異なる特性をもった「デミヒューマン」となりました
…
エルフとノームのもとに残ったヒューマンたちは
さまざまな知識を学びました
根源の魔法である地の魔法から生まれた彼らは
火、水、風、地の全ての魔法を使うことができました
エルフとノームは新たな友に彼らを迎え入れました
…
それは突然に起こりました
丸い大地のヘソにあるユグドの大地にぽっかりと大きな穴が開いてしまったのです
そこからは今まで見たことの無いような生き物が現れました
それらの目は赤黒く、肌は灰色
頭にはツノが生え、彼らもまた言葉を解しました
彼等は自らをデマタイトと名乗りました
彼らは見たこともない魔法と生き物を引き連れ
四大精霊の住まう土地に争いを仕掛け
ユグドの大地を求めました
世界の生まれより彼らの住まう地の底では
その魔法は「闇」と呼ばれました
その魔法には火、水、風のどれもが歯が立たず
地の魔法ですらもその魔法の前では無力でした
それは触れるもの全てを腐らせ、枯らし、淀ませてしまうものでした
長い争いが続き、豊かなユグドは真っ黒に染めあがってしまいました
…
立ち上がったのはヒューマンたちでした
全ての魔法が使える彼らは
各地に散ったデミヒューマンたちと協力し
新たな魔法を作りだしました
火の力、水の清澄、風の安らぎ、地の頑強
その全てを備えたその魔法を
彼らは「光」とよびました
光は地の底からきた彼らの魔法を撃ち払い
ユグドに彩りを取り戻しました
四大精霊は彼らをユグドの地から追放しようとしました
それに反対したのもヒューマンたちでした
ヒューマンやデミヒューマンたちは今まで得た知識から
デマタイトたちが自分たちに近しいものであるとわかっていたのでした
何者によって生み出されたのかも分からず
ずっと地の底で暮らしてきた彼らが
地上で暮らす自分たちを羨んでいるということも
彼らは心を闇に囚われていました
そして苦しんでいました
それがあるゆえに自分たちは地上に住む者たちとは
相入れないのだと思い込んでいました
ヒューマンたちは光の魔法を使い
彼等から闇を引き受けました
するとデマタイトたちは鉛のような心が軽くなるのを感じました
デマタイトたちは自らの行いを後悔し
四大精霊やヒューマンたちに心から謝罪しました
四大精霊、ヒューマンたちはこれを許しました
しかし
本来生ずることの無い闇を受けたヒューマン、デミヒューマンの生命は
ひどく弱りやがて生命は枯れ果て
彼等の殆どがユグドの大地に帰りました
これが世界ではじめての「死」という出来事でした
デマタイトたちはヒューマンたちの帰った土地を抱いて泣きました
エルフやノーム、精霊や生き物たちも悲しみに暮れました
とても長い間、彼等はその土地から離れませんでした
…
季節が何度かすぎたある日のことでした
悲しみにくれる彼の前に
光の帯で包まれたヒューマンたちが現れました
片時も彼等の帰った土地を離れなかった精霊やデマタイトたちの生命の力が
ヒューマンたちの体をもう一度大地から作り上げたのです
しかし、ヒューマンたちの生命には闇の力が混じってしまいました
彼等はもう精霊たちのように悠久の時を生きることはできなくなり
魔法もほとんどの者が使えなくなってしまいましたが
ヒューマンたちはそれでもいいと
ともに生きてくれるならばと言いました
精霊たちはヒューマンたちに特別な力を与えました
魔法とは別の温かなもの
それを使えばいつでも精霊の力を借りることができ
完全にとはいえずとも魔法が使えるようになるのでした
エルフは彼等とともに寄り添い生きると誓いました
悠久の時を生きる我等が限りある道を行くヒューマンを導くと
デマタイトは彼等とともに寄り添い生きると誓いました
闇に生きた我らは暗い宵闇を行くヒューマンを導くと
…
そこには世界で生きる全てのものが
お互いに手を取り合い生きる大地がありました
そこではこれからもまた
さまざまな物語が紡がれていくことでしょう
…
……
………
ほの暗い闇の奥底で
地上に生きる全てのものを憎むものたちがいました




