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ジュ・トゥ・ヴの時計〜妻が家を出ていった日から、僕は愛された記憶をひとつずつ手放していった~

作者:北村利明
最終エピソード掲載日:2019/03/10
ジュ・トゥ・ヴは、エリック・サティの曲であり、フランス語で「あなたが欲しい」という意味だ。夜の八時になると、あの時計がジュ・トゥ・ヴのメロディを奏でていた。

七年間、マリは確かに僕の家族だった。
家の中で、マリは僕を「茶ネコ」と呼んだ。
自分のことは「ミーネコ」と呼んだ。

「茶ネコとミーネコは、仲のいいネコの夫婦なんだよ」

そう言って、マリは僕の腕に寄りかかった。
いつか二匹の猫の夫婦が暮らす、小さく綺麗な家が欲しいねと話していた。

けれど、その家を手に入れたころから、マリは少しずつ遠ざかっていった。
僕が見ていたマリと、僕の知らない場所で生きていたマリ。
愛された記憶と、裏切られた記憶。
その二つが、同じ人の中にあった。

やがて、マリにとって僕はもう「茶ネコ」ではなくなった。
僕は、彼女を縛る不気味な存在――「ヌシ」になっていた。

これは、妻の不貞を暴き、制裁する物語ではない。
一度は確かに家族だった二人が、少しずつ家族ではなくなっていく物語である。
そして、男が、言ってもらえなかった謝罪の代わりに、失われた七年間を言葉で弔う物語である。
この作品は、amazon kindleにも掲載しています。
第一章 切欠
2019/03/07 23:11
第二章 予兆
2019/03/07 23:28
第三章 事件
2019/03/07 23:29
第四章 フラッシュバック
2019/03/07 23:31
第五章 「そのこと」
2019/03/10 22:38
第六章 携帯電話の中身
2019/03/10 22:39
第七章 ドアの欠片
2019/03/10 22:40
第八章 報告
2019/03/10 22:41
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