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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
47/55

scene:47 金属惑星プシケ

 ソウヤたちがユピテル号に戻ると同時に、教授は地球を離れ金属小惑星プシケへ行くことを一三ヶ国へ伝えた。日本政府はそのことを世界に向けて発表する。

 どうして発表したかというと、ユピテル号が地球にいた時は、近付いてくる宇宙クラゲをユピテル号が撃退していたからだ。


 状況はユピテル号が地球へ来訪した以前に戻るだけなのだが、地球の人々は不安になった。ユピテル号は宇宙クラゲのような星害龍を倒すために建造された船である。

 そのことを知っている地球人は、ユピテル号の存在に安心感を抱いていた。屠龍戦闘艦が地球にいるうちは、宇宙クラゲの攻撃はないと知ったからだ。


 この地球防衛には、意外な者たちが活躍した。面白がって一二口径レーザーキャノンの砲撃を宇宙クラゲに加えたチェルバたちだ。

 チェルバたちにとっては、気晴らしの一つだったようだが、次々に仕留められていく宇宙クラゲが、地球製の探査衛星で確認されるとニュースとなってテレビに流れた。


 その一方で、リュリアス号が飛び立ち、ユピテル号が向かおうとしているプシケがどんな小惑星なのか、特集を組むテレビ局も現れ関心が集まった。

 その中には、リュリアス号やユピテル号を侵略者ではないかと疑い、プシケを奪っていくのではないかと採掘権を与えた政府に抗議する者も現れる。


 それらの抗議の声を上げる者は、リュリアス陣営の国々に多かった。ロケットエンジンなどの技術情報を渡した以外、リュリアス号が何もしなかったからである。

 ユピテル号が恒星間基本法に違反しない方法を探して協力しているのに比べると、消極的な態度に不審を覚えたようだ。

 その不審感はユピテル号にも向けられた。


 各国政府がプシケの採掘をどのように行うのか、確認したいと言い出したのだ。そう言い出したのは、リュリアス陣営の中国やロシアである。

 日本政府は、それならリュリアス号に言うべきだったと反論した。だが、中国が強硬に随行員をユピテル号に乗せるべきだと訴えた。


 小寺総理はユピテル号の教授に相談した。

「随行員ですか、困りましたね。ユピテル号は客船ではないのです。訓練していないクルーを乗せるのは負担になります」

「そこを何とかお願いできないでしょうか?」

 教授は考え結論を出した。


「でしたら、前回招待した時に、月の様子を撮影された女性の乗艦を許可しましょう」

 教授が指定したのは芹那だった。芹那ならば、ユピテル号に地球人の三人が乗り組んでいることを知っているので、負担にならないと判断した。

「しかし、彼女は何の訓練もしていない一般人です」

「総理、もしかして戦闘訓練を受けさせた人材をユピテル号に送り込む気でいたのですか?」


 その鋭い口調に、小寺総理はギクリとした。そう考えていたのだ。だが、その行為は異国の船に戦闘員を送り込むということ。冷静になって考えれば外交上まずいことに気づいた。

「滅相もない。ただ彼女の意思も確認しなければなりませんから」

「いいでしょう。彼女が行きたくないと言った場合は、別の人物を選びます」


 芹那はすぐに承諾した。政府は撮影機材を芹那に渡し、使い方を教えた。小寺総理は等々力芹那がユピテル号に同行することになったことを大々的に発表した。

 芹那は名前を伏せるように頼んだのだが、地球人で初めて火星の公転軌道を超えた宇宙に飛び出すことになる歴史的なプロジェクトだと言われて諦めた。


 芹那が宇宙に飛び立つ日、マレポートの周りに様々な船が集まった。各国のマスコミがチャーターした船である。その甲板には撮影クルーがカメラを構えている。

 娘を見送りに来た等々力一家は、複雑な心境でマレポートの発着場を見守っていた。普通なら心配する状況なのだが、ユピテル号には芹那の弟であるソウヤがいる。

 あまり心配する気持ちも起きなかった。


 手を振りながらプラネットシャトルに乗り込む芹那の姿は、世界各国で放送された。この時を境に、芹那は世界で一番有名な日本人となった。

 プラネットシャトルに乗り込んだ芹那は、コクピットに向かう。

「芹那姉さん、後ろの席に座ってください」

 操縦しているイチが、芹那に声をかけた。


「これ、イチが操縦するの?」

 その声には心配そうな響きがあった。ジャンボジェットを操縦しようとしている中学生のような光景に見えたからだ。

「自分は航宙船操縦士1級の資格を持つ、ユピテル号のパイロットなんですよ」

「そうなの……そういえば、弟が航宙船操縦士2級を持っているとか言っていたけど」

「ええ、航宙船を操縦する資格は難しいんですよ。地球人では自分たちが初めての所有者でしょう」


 出発直前になってコクピットにソウヤとモウやんが駆け込んできた。

「何をしていたの?」

 芹那が二人に尋ねた。

「地球の食料や雑貨品、それに服も積み込んだ」

「服……一杯持ってるんじゃないの?」


「航宙船乗組員用の服は持ってる。けど、地味な服が多くて偶には、アロハみたいな服やTシャツみたいなラフな服も着てみたいんや」

 芹那は乗組員服で問題ないと思ったが、好みの問題である。

 ちなみにソウヤたちが持ち込んだ食料品の半分はカレールーや調味料、カップ麺や肉類で、半分は様々なお菓子だった。


 プラネットシャトルが飛び立ち、ユピテル号の格納庫に入る。そこでソウヤたちが買い込んだ荷物を倉庫や冷蔵室に運び込んだ。

 箱単位で購入されたお菓子の山を見ながら、芹那は溜息を吐いた。

「呆れたわね。こんなにお菓子を買い込んで」

「数ヶ月分のお菓子なんだぞ。これくらいは必要や」

「そうだそうだ。少ないくらいだよ」

 芹那がお菓子が多すぎると言うと、ソウヤとモウやんが反論した。


 リビングベースの住人となった芹那に、アリアーヌやチェルバたちが紹介された。芹那は、チェルバたちの姿に驚いた。

 だが、気のいい連中だったのですぐに親しくなる。

「宇宙生活は不慣れだからよろしくね」

「任せるずら。おらたちはベテラン屠龍猟兵だから、何でも教えてやるずらよ」


 芹那は早速リビングベースの前部展望室に案内してもらう。そこに撮影機材を設置して旅の記録とするように指示されていたからだ。

 撮影機材の設置が終わった頃、ユピテル号が地球を出発した。船首をプシケに向けて加速。光速の〇.一パーセントほどの宙域同盟標準速度であるパーチ1に達した。

 だが、この速度では時間がかかりすぎる。ユピテル号をパーチ2まで加速させる。


 この速度はユピテル号の巡航速度だ。そのままの速度でプシケまで飛行し減速時間まで考えると一二日かかる。

 その間、芹那は宙域同盟の公用語であるガパン語を学んだ。教師役はアリアーヌである。アリアーヌが一番標準的なガパン語を話すからだ。


 後部展望室から見える地球の姿が小さな点となり、前部展望室から見えるプシケの姿が次第に大きくなる。奇妙な形の小惑星だった。

 ジャガイモのような形の表面に、無数のクレーター痕が見える。何もない宇宙を漂う小惑星は、孤独な存在に見えた。

 ブリッジのメインモニターでプシケを見ていたソウヤが疑問を口にした。

「リュリアス号はどこや?」

 アリアーヌがプシケの一部を拡大する。


「あそこよ」

 大きなクレーターの一つのにリュリアス号が着陸していた。

「あの場所は、一番表面に近い部分に白金鉱脈があったポイントだよ」

 モウやんが指差しながら叫んだ。


 芹那はブリッジのメインモニターを小型ビデオカメラで撮影していた。リュリアス号の周りには採掘跡の穴が開いている。

「リュリアス号から通信が入りました」

 アリアーヌが教授に報告する。


 メインモニターにウサギ人間の姿が映し出された。リュリアス号の船長ドリュプスだ。

「ユピテル号の艦長オルタンシアだ」

『なぜ、ユピテル号がプシケに来ている?』

「あたしたちも地球から採掘権をもらったのよ」

『地球人の奴らめ』


 リュリアス号はプシケの資源を独り占めしたかったようだ。

「あいつら正気なの。このプシケは小惑星と言っても、二〇〇キロ以上の幅がある金属の塊なのよ」

 アリアーヌが呆れたというように声を上げた。

 日本でいうと九州を一回り大きくしたような規模の小惑星である。独り占めなどできる規模ではなかった。


「あなたたちと条件は同じよ。ユピテル号も採掘させてもらうわ」

『仕方ない。だが、遠くの鉱脈を探せ。ここら一帯は、我々のものだ』

 教授は違和感を覚えた。ドリュプス船長が探検船の船長らしくない。

「分かったわ」


 リュリアス号が着陸しているポイントの反対側に、ユピテル号が着陸した。

「気分悪いな。あんな奴なんかぶっ飛ばせばいい」

 モウやんはドリュプス船長の言葉に気分を害したようだ。

「ちょっと、やめてよ。異星人と揉め事なんてダメよ」

 芹那がモウやんを止めた。といっても、モウやんが本気だったわけではない。


 アリアーヌが笑いながら、

「うふふ……。芹那さん、モウやんの言葉を本気にしちゃダメですよ。半分くらいが冗談なんですから」

「僕は冗談なんか言ってないぞ。ドリュプス船長がここにいたら、ぶん殴ってた」

 アリアーヌと芹那は顔を見合わせて笑った。


「ところで、プシケの金属資源を採掘してどうするの?」

 ソウヤは、芹那に小型攻撃機の出撃基地を建造するつもりだと教えた。

「へえ、そんなことを考えているんだ」


「モウやん、構造分析プローブを射出して。プシケの構造を調べるわよ」

 モウやんが教授の指示に従い、五機の構造分析プローブを射出した。構造分析プローブは、金属小惑星に突き刺さり振動を始めた。

 振動はプシケ内部に浸透し、その反響を構造分析プローブが分析し始める。


「教授、構造分析プローブからの情報が届き始めました」

 ソウヤたちは遠方からプシケを調べていたが、その方法で調べられたのは小惑星の表面と重力場観測による大体の構造だけだった。

 構造分析プローブは詳細な情報を調べ上げ、その情報をアリアーヌが統合して分析した。結果は立体映像としてブリッジの中央に投影される。


 全員がプシケの構造に注目した。

「地下三〇キロ付近にある鉱脈を見て、イリジウムを含んだ白金鉱脈よ。これが最大の鉱脈で間違いないわ」

 教授の指摘で、その鉱脈が注目された。問題は三〇キロという深さだ。

「ソウヤ、採掘マシンの設計は終わっているの?」

「もちろんや。いつでも作れるでぇ」


 ソウヤはプシケへの航行中メタル精錬装置を組み込んだ採掘マシンの設計を行っていた。ソウヤたちは白金鉱脈の真上にユピテル号を移動させる。

 そこで万能型製造システムを取り出して、採掘マシンの製造を行う。六時間ほどで完成した採掘マシンを白金鉱脈に向けて作動させた。

 白金鉱脈に辿り着くまでの三〇キロほどを掘り抜くまで一ヶ月が必要だった。その間に採掘されたのは、ニッケルと鉄を中心とする様々な金属である。それらの金属は精錬され採掘マシンから排出。それも膨大な量である。


 採掘マシンから排出された精錬済みの金属は、カワズロボによって回収され万能型製造システムの傍に積み上げられた。

 その総量は出撃基地どころかスペースコロニーが建造できるほどの量だ。

 やっと採掘マシンが白金鉱脈を掘り始めると、白金やイリジウム、それに加えて希少な金属が掘り出されるようになった。


 地球における白金の埋蔵量は、一万六〇〇〇トンと推定されおり、金と比較しても希少な存在である。

 ところが、ソウヤたちはプシケから推定埋蔵量を超える白金を手に入れた。イリジウムもトン単位で手に入れたので、地球を支援する代価としては十分すぎるほどのものを手に入れたことになる。

「もらいすぎじゃない?」

 アリアーヌが声を上げた。


「そうね。ちょっとサービスしましょうか」

 教授はソウヤたちに指示を出し、万能型製造システムを使って数多くの大型で堅牢な鋼鉄製の部品を造り始めた。


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