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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
46/55

scene:46 動脈硬化治療薬

 家族全員での話し合いが終わり、ソウヤが自分の部屋に戻ろうとした時、姉二人に呼び止められた。

「ちょっと、私の部屋に来て」

「今から?……疲れとるんやけど」

「ぐずぐず言わない」

 有無を言わさず芹那の部屋に引きずり込まれた。


「そこに座って」

 ソウヤは芹那のベッドに座った。

「あんた、これからどうするつもりなの?」

「高校に行けっていう話なら、お断りや。俺は屠龍猟兵を続ける」


 姉二人が悩ましげな顔をする。

「危険なんでしょ。お父さんとお母さんはずっと心配してたのよ。お父さんなんか不眠症で眠れなくなったほどなんだから」

「まさか、病気?」

「違うと思うけど、最近元気がなかったのは事実よ」


 ソウヤは両親の健康が心配になった。

「ちょっと心配や。一度二人をユピテル号に連れてく。そして、医療マシンで診断してもらおう」

「ちょっと勝手に決めないで、お父さんとお母さんに確認してからにしなさい」

 ソウヤは両親に確認し、二人の了解を取った。二人は教授に会って礼を言いたいらしい。


 翌日、イチの家に三人が集まった。

「久しぶりの家は、どうだった?」

 イチが二人に尋ねた。

「母ちゃんに泣かれて大変だった。ソウヤは?」

「俺のところも同じやけど、二人が疲れた顔をしているのが気になるんや。一度ユピテル号の医療マシンで診断してみたい」


「いいんじゃない。僕の両親も連れて行こうかな」

「それなら、うちの両親も」

「ええっ、イチのところは病院じゃん」

「地球の医学じゃ分からない病気もあるかもしれないだろ」


 次の日曜に、ソウヤたちは両親と一緒にユピテル号へ向かう。

 ステルス潜水艇でマレポートまで行き、プラネットシャトルで宇宙に上がる。初めての宇宙旅行である家族は、緊張した様子でプラネットシャトルの窓から宇宙を眺めていた。

「皆顔色悪いけど、大丈夫?」

 モウやんが親たちの心配をした。


「大丈夫だ。緊張しているだけだ」

 モウやんの父親が答えた。

 プラネットシャトルがリビングベースの格納庫に吸い込まれるように入り、格納庫のハッチが閉まる。

 通常の検査が終わった後に、親たちをリビングベースで一番広い区画であるの会議室に案内した。そこには教授が待っており、挨拶を交わす。


「皆さんの健康を心配したクルーたちの要望により、健康診断を受けてもらいます」

 教授が医療マシンについて説明する。

 親たちが医療マシンによる健康診断を受け、結果がソウヤたちの端末に送られた。その瞬間までソウヤたちも親たちが本当に病気だとは思っていなかった。


 その結果を見て、ソウヤたちは愕然とした。両親が二人とも健康に問題ありとなっていた。ソウヤは教授の下に駆け込んだ。

「教授、大変や。俺の親が二人とも病気らしいんや」

 時を同じくして、イチとモウやんも駆け込んできた。

「大変だ」

 二人の両親も健康に問題ありと出たらしい。


 教授が調べてみると、それぞれの両親の血管が動脈硬化を起こしており、全体的に細胞が劣化しているようだ。

「これは老化による細胞劣化ね。動脈硬化は問題だけど、ナノマシンで……」

 ナノマシンは地球人には与えられないものだった。教授がそれに気づいて言葉を詰まらせる。


「教授、動脈硬化って命に関わるの?」

 モウやんが心配そうな声を上げた。

「そうだわね。動脈硬化が原因で心筋梗塞や脳卒中を引き起こすこともあるので、命に関わることもある。ナノマシンを使えば、簡単に治せるのだけど、恒星間基本法で禁じられているわ」

「そ、そんな。法律なんてどうでもいいよ。母ちゃんと父ちゃんを助けてよ」


「慌てないで。ご両親に話してから、方法を考えばいいわ」

 教授はソウヤたちを連れて両親たちが遊んでいる部屋まで来た。両親たちが何をしているかというと、無重力状態の体験である。

 その部屋には重力発生シートが設置されておらず、無重力状態で運動する部屋になっていた。親たちは初めて体験する無重力状態を楽しんでいた。


 親たちと一緒に会議室に戻った。

「それで病気が見つかったのか?」

 イチの父親で医者である健一が聞いた。

 教授が説明した。その内容を聞いて健一が笑った。

「動脈硬化だって……そんなものは普通だよ。四〇歳をすぎれば誰でも動脈硬化になるんだ」


 モウやんが教授と健一の顔を交互に見て、

「動脈硬化って、怖い病気だと聞いたよ。本当に大丈夫なの?」

 健一が苦笑いした。

「怖い病気だというのは本当だ。だけど、年を取れば誰でもそうなるんだ。仕方ないんだよ」


 教授が健一の言葉を否定した。

「それは違うわ。動脈硬化は簡単に治せる病気よ」

「そんな馬鹿な」

 ソウヤの父親である学が、健一に顔を向ける。

「待ってください。相手は地球より進んだ医学を持っているんですぞ」


「そうだった」

 教授がふわっとした笑顔を浮かべ頷いた。

「はい。動脈硬化ならば通常医療ナノマシンで治療します。ですが、地球人にはナノマシンは使えません。そこで調べたのですが、動脈硬化を治療する薬がありました」


「それは凄い。ですが、地球には存在しない薬なのでは?」

「ええ、まだ地球には存在しません。ですが、幸運なことに、今なら作れます」

 健一が首を傾げた。教授が言った言葉に引っかかったようだ。

「今なら……とはどういうことです」


「薬の材料になる物質が、宇宙クラゲの内臓から採れるからです」

「そ、それは興味深い」

 教授はソウヤに宇宙クラゲを狩ってくるように頼んだ。

「任せといて!」

 ソウヤは新しい駆龍艇に乗って宇宙に出た。この駆龍艇は、地球を探して宇宙を彷徨う間に、ソウヤ自身が設計したものだ。


 設計といっても大部分はトートが手伝ってくれたので、ソウヤは大体の外観と基本設計を決めただけである。ソウヤが乗るバトルオウルは、屠龍ポッド搭載型駆龍艇だ。

 通常の駆龍艇より大型で、メイン動力炉は超小型核融合炉、エンジンはノヴァS型プラズマエンジン、搭載武器は一〇口径荷電粒子砲とスペース機関砲二門である。


 この駆龍艇が特別なのは、屠龍ポッドを搭載している点だ。ソウヤはバトルオウルで星害龍の近くまで飛び、屠龍機動アーマーを装着して星害龍を倒すという戦術を取る。

 だが、今回の宇宙クラゲには屠龍機動アーマーは必要ないだろう。ソウヤは探査システムで宇宙クラゲの位置を探し出し、急行した。

 宇宙クラゲがのんびりと飛んでいるのを視認したソウヤは、スペース機関砲の照準を定め発射ボタンを押す。


 ドゥンドゥンと腹に響く発射音がバトルオウルの機体を震わせ、宇宙クラゲが一瞬でバラバラになった。

 だが、わざと狙わなかった場所がある。体内にある黒い器官。それは教授が脾臓と呼んでいる臓器で、そこに動脈硬化を治す物質が含まれている。

 ソウヤは宇宙クラゲの脾臓を回収しユピテル号に戻った。


 宇宙クラゲの脾臓は、アリアーヌの研究室で処理され薬になった。アリアーヌは、ちゃんと薬が完成しているかどうか高精度分析機にかけて確かめる。

「完成ね」

 アリアーヌは星害龍の素材から作られる様々な工業製品の研究を始めていた。薬もその中の一つである。

 モウやんが研究室に入ってきた。

「薬は出来た?」

「出来てるよ。はい、これ」


 アリアーヌが渡した薬を、モウやんは会議室に運んだ。

 だが、すぐに薬を使おうとする者はいなかった。

「何で使わないの?」

 モウやんが文句を言う。モウやんの父親である四郎が代表して答える。

「あのな。薬っていうものは副作用とかあるんだ。軽々しく使えるものじゃないんだぞ」

「大丈夫だよ。遺伝子レベルでチェックしているから、副作用なんてない」


「だけど、地球人に対しては、初めて使うものなんだろ」

「そうだけど……」

 教授が口を挟む。

「それほどご心配なら、この薬を日本政府に渡して調べてもらいましょう」


 動物実験などより、高精度分析機によるチェックの方が信頼できるのだが、親たちは地球のやり方で確かめないと信用してくれないようだ。

 親たちの動脈硬化をすぐに治療することは諦めた。

 動脈硬化など気にする様子もない親たちは、宇宙で子供たちがどのように生活していたか、教授から話を聞いた。

 親たちが宇宙まで来た目的は、それだったようだ。


 地球に戻ったソウヤたちは一〇日ほど家で過ごし楽しんだ。テレビや映画、漫画などは懐かしく面白かった。ただテレビ番組や映画などは進んだ技術で作られた立体映画を見ていたので、古臭いと感じてしまう。

 第三階梯以上の種族が作った作品は、スケールが大きく刺激的だった。それに慣れたソウヤたちは、物足りなく感じる。


 ソウヤたちは相談し、そろそろ宇宙へ戻ることを家族に話すことにした。親たちは大学を卒業するまで、家で生活できないのかと反対した。

 だが、通常の高校・大学はソウヤたちにとって意味がなかった。長い時間をかけて話し合い、定期的に家に帰ることを条件に屠龍猟兵を続けることを許してもらう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ソウヤたちが宇宙に戻ることを考え始めた頃、一三ヶ国で同時に動脈硬化治療薬の研究が始まった。それに伴い、宇宙往還機に仕留めた宇宙クラゲから脾臓を回収する機構を追加することが決まった。

 当然、一三ヶ国は動脈硬化治療薬を秘密にしていたのだが、その情報をまたもや韓国が探り当てた。一三ヶ国の中で韓国が経済進出している国があり、動脈硬化治療薬の研究を始めた研究所にも韓国の関係者が関連していたらしい。


 その情報を持って韓国の新大統領ナム・ジュンギは、中国へ渡った。

 中国の首脳陣の一人である汪首相が対応する。

「ユピテル陣営が、共同で凄いものを研究し始めたのをご存知ですか?」

「マレポートのことかね」

「違います。医療分野での研究です」


「いや、そんな報告はなかったはずだ」

「宇宙クラゲの素材を使って、新薬の研究を始めたようなのです」

「それは興味深い話だ。だが、一国の首脳が急いで出向くほどのものではない気がするが」

「私が指摘したいのは、ユピテル陣営が共同で研究開発を行っている点です。リュリアス陣営の体制について問題提起をしたいのです」

 リュリアス陣営に与した各国は、エンジンなどの技術を受け取った。だが、ユピテル陣営のように合同で研究開発するということはせず、各国それぞれで開発するということになった。


 アメリカやロシア、ヨーロッパ、中国は、それなりに宇宙関連技術の蓄積と資本があるので開発が進んでいるが、それ以外の国ではどうしたら良いか分からず、立ち止まっている状況らしい。

 韓国も同様で、何一つ宇宙関連プロジェクトは進んでいなかった。ナム大統領はユピテル陣営と同じように合同で研究開発を進めるべきだと言いたいようだ。


 汪首相は冷ややかな目でナム大統領を見た。

「アメリカは新しいプロジェクトに約四〇〇億ドルの予算を注ぎ込むようだ。そして、我が国も約八〇億ドルの予算を用意している。貴国はどれほどの予算を出せるのかね?」

 ナム大統領の額から汗が流れ落ちた。

「そ、それは一〇億ドルほどなら……」


「少なすぎる。日本は二〇〇億ドルほど出すそうだ」

「日本と比べてもらっても困ります。相手は経済大国なのですぞ」

「君の国は、北と手を結んで日本を超える国になるのでは、なかったのかね」

「……」


 中国は韓国と手を組んでもお荷物になるだけだと判断していた。それはアメリカも同じで、新しい技術は自分たちで独占し、他国に譲る気はない。

 例外は日本だけだったが、日本はユピテル陣営であり、韓国が協力を要請することはできない。


 国際社会の中で、ユピテル陣営とリュリアス陣営は違った道を進み始めた。

 ユピテル陣営は自分たちが正しい選択をしたと喜んでいた。特にインドは、数多くの研究者や技術者をマレポートに送り込み日本の最先端技術を使って、歴史的なプロジェクトに参加しているという幸運を噛み締めていた。

 ユピテル号が提供したシミュレート機能は驚異的で、新しい宇宙往還機の設計が驚異的なスピードで進んでいた。

 同時にヒムラルエンジンの製造が進んでおり、マレポートで部品の品質チェックと耐久試験が行われ始める。またスペース機関砲の試作も始まり、試射するための真空実験室の建造も始まった。


 ユピテル陣営が順調に開発を進めているのは、アメリカなども承知していた。ポーカー大統領は、日本との競争に負けるのではないかと焦りを覚えていた。

 本来なら協力して開発を進めるべきなのだが、リュリアス号の方針により世界各国が二つの陣営に分かれてしまった。

 アメリカはリュリアス陣営を選択したが、リュリアス号のクルーが何か企んでいるのではないかとポーカー大統領は疑い始めていた。



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