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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
36/55

scene:36 ラグズ造船

 ソウヤたちの会社であるラグズレックの資金は、四億クレビットほどである。中古船販売会社を買えるような資金ではなかった。

「俺たちの資金じゃ買えるような会社は、ないんやないか?」

 教授が自信ありそうに胸を張る。

「そうでもないわ。結構な数の会社が買えそうよ」


 教授が買えそうだという会社のデータをモニターに映し出した。

 それを見て、アリアーヌが顔をしかめる。

「教授、この会社は破産寸前じゃないですか」

「えっ、そうなの?」

 モウやんがモニターを見た。会社の財務状況データである。見ても分からない。


 教授が買収の候補に上げた会社は、すべて倒産寸前の中古船販売会社だった。

 アリアーヌは、その会社の中で大きなものを選んで情報を集めた。その会社が販売している中古船を確認すると、あまり性能の良くない航宙船を販売しているようだ。

「中型輸送船やな。動力炉の出力は二.九GW、最高速度がパーチ1を少し超える程度か」

 ソウヤが性能諸元を確認しながら声を上げた。輸送船の平均的な最高速度はパーチ2なので、見劣りする性能である。


「この輸送船の装甲は、二層装甲鈑か。バリアなしですね」

 イチが気になる点を告げる。

「それで値段が、二億四〇〇〇万クレビットか……これって安いの?」

 モウやんが教授に尋ねた。

「中型輸送船としては、安いけど。性能が低すぎるから、買い手がつかないと思うわ」


 その会社が売っている中古船を次々にチェックしたソウヤは、微妙な表情を浮かべ大きく息を吐いた。

「この会社、何でこんなしょうもない中古船しか扱ってないんやろ?」

「売れ筋の中古船は売れて、残ったのがこれなのよ」

 モウやんはなるほどと頷いた。だが、ソウヤは納得しなかった。


「そうだとしても、こんな売れんような中古船を仕入れたんは、なぜなんや?」

「こんな中古船でも、どんどん売れた時期もあったからねぇ」

 教授がちょっと遠い目をする。昔を思い出しているのだろう。

「売れる時期?」

 モウやんには見当がつかなかったようだ。


「戦争ですよ。地球の戦争でも、戦争の間に凄い数の船が作られたと聞いたことがあります」

 イチが正解を言い当てた。

「戦争か。この会社、次の戦争があるまでジッと待つつもりなのか」

 モウやんの言葉に、教授が笑う。

「いえ、戦争が起こる前に倒産するわ」


 教授が買収しようとしている会社は、倒産寸前ではあるけれども中古船の在庫が多く負債(借金)が許容範囲の会社である。倒産寸前であるのだから負債が多くなっているのは仕方ない、と教授は考えているようだ。

「けど、在庫の中古船は、売れそうにない船なんやないの?」

 ソウヤが質問すると、モウやんも同じように疑問を感じていたようだ。

「そうだよ。そんな会社を買っても損するだけだよ」


 教授が不敵に笑う。

「あたしたちには、万能型製造システムとクリスタルメモリーの製造ノウハウがあるのよ」

 ソウヤが分かったという笑顔を見せる。

「万能型製造システムを使って、在庫中古船の性能を上げようと考えとるんやな」

 教授が頷いた。

「正解よ。動力炉とエンジンを取り替えるだけでも、性能はかなり上がるわ」


 アリアーヌが会話に加わった。

「待って、そんな簡単なことで中古船が売れるようになるのなら、その会社の経営者はどうして同じことをしないの?」

「動力炉とエンジンが高いからよ。倒産寸前の会社に、動力炉とエンジンを買う資金はないわ」

 万能型製造システムを所有する教授たちは、材料費だけで動力炉とエンジンを用意できる。教授が始めようとしている中古船販売会社にとって、大きなアドバンテージとなるだろう。


 それから数日、皆で倒産寸前の会社を調査し買収する会社を選んだ。

 その会社の経営者は、背丈は低いがごつい筋肉に覆われた体格と豪快なヒゲを持つドワーフのような男だった。その技術力は高く、真面目に会社を経営していたようだ。

 だが、経営センスは乏しく時勢を読む判断を誤り、現在のような苦境に陥ったらしい。


 その会社の社長ガモフを含めた社員は六人。零細企業である。

 ガモフは社員を解雇しないという条件で買収を承知し、『ラグズ造船』が誕生した。この会社の株式は、親会社である屠龍猟兵企業ラグズレックが保有することになった。

 新しい社長には教授が就任する。


 元社長のガモフが、ソウヤたちを本社に案内した。

 本社といっても、第二惑星の輪の中に浮かぶ球形の構造物である。宙域同盟コロニーを小さくしたようなもので、半分は住居、もう半分が整備工場になっている。

 ガモフたちは『ビッグボール』と呼んでいるようだ。

「この会社を買ってくれたことには、感謝しとる。だが、どうするつもりなんじゃ?」

 教授はガモフを副社長兼工場長として雇っていた。信用のおける男だと教授が判断したのだ


「もちろん、立て直します。それより、この会社の在庫として残っている航宙船は、全部で五六隻ですね」

「そうじゃが」

「売り物にならないジャンク船は、どれほどあるのです?」

「一六七……いや、一六八隻じゃ」

 ここでジャンク船と呼んでいるのは、再利用できそうな部品や装置を剥ぎ取り、船殻とガラクタだけになった船のことである。こういうジャンク船はクズ鉄として扱われ、鋼材として再利用されることが多いようだ。


「それで……儂らは何をしたらいいんじゃ?」

「破損が大きなジャンク船を解体して欲しいの」

 教授は解体した破片が一五メルタ以下になるように指示を出した。

 ガモフたちがジャンク船を取りに行った後、ソウヤは教授に確認した。


「解体した破片をどうするんや?」

「メタル精錬装置で資源化する。ソウヤたちには、そのメタル精錬装置を作ってもらいたいの」

 教授の話によると、スクリル星人は金属ならどんな種類でも精錬する装置を開発していたらしい。

 いつものようにトートに設計を頼む。クリスタルメモリーに設計データが存在したので、短時間に完成した。その設計データを少し手直しして万能型製造システムに入力し、メタル精錬装置を製作した。


 材料はラグズ造船に在庫として残っていたもので足りた。メタル精錬装置はビッグボールの整備工場の中に設置。

 メタル精錬装置にジャンク船を解体したものを放り込み、鉄・銅・アルミ・亜鉛などの材料を大量に手に入れた。貴金属やレアメタルも、少量だがメタル精錬装置から出力される。


 万能型製造システムで動力炉やエンジンを作るのだろう、とソウヤは思っていた。だが、教授は動力炉やエンジンを作る自動製造装置を造るつもりのようだ。

 ソウヤが疑問に思って尋ねると、

「万能型製造システムは、大量生産に向いていない。エネルギー効率が悪すぎるの」

 動力炉とエンジンを作るためだけなら、専用の製造装置を作った方が効率的だという答えが返ってきた。


 最初に万能型製造システムを保護する五層装甲鈑を製造し、ソウヤたちとカワズロボで取り付けた。五層装甲鈑バリアのエネルギー源として、ユピテル号から取り外した中型核融合炉を設置する。

 これらの作業は、ビッグボールから少し離れた宇宙空間で行った。万能型製造システムについて、ガモフたちにも秘密にしていたからだ。


 動力炉製造マシンとエンジン製造マシンも間もなく完成した。

 それぞれが製造するものは、中型核融合炉とノヴァL型プラズマエンジンを小型化したエンジンである。エンジンについては二種類、ノヴァM型とノヴァS型を製造できるようになっていた。

 最初にノヴァM型プラズマエンジン二基を製造し、ユピテル号のサブエンジンとして取り付けた。これでユピテル号の最高速度がパーチ6まで上がる。


 それからは、ガモフを中心とする社員たちに任せた。性能が低かった中古船の動力炉とエンジンを積み替え、標準的な輸送船と同程度まで性能を上げて販売。

 輸送船の需要は常に存在したので瞬く間に五六隻が売れ、ラグズ造船は負債を返済し黒字となった。

 それから同業者が持て余している低性能の中古船を買い上げ、性能アップして販売する事業を展開する。


 ラグズ造船は、莫大な利益を上げる優良企業に変貌した。

 もちろん、元の社員数では人手不足となったので、八二名まで社員数を増やした。それだけでも足りず、整備ロボットを五〇体ほど購入した。

 整備ロボットは、汎用ロボットであるカワズロボほど高性能ではなかったが、航宙船の整備に関しては大きな力を発揮した。


 翌年の決算で、ラグズ造船は二五〇億クレビット以上の純利益を出す。

 それを知ったガモフたち社員は、大喜びした。だが、ソウヤたちは溜息を吐いた。

「この調子だと、搭載型遷時空跳躍装置を買えるまで何年かかるんや」

「ここのまま売上が上がったとしても、一〇年くらいは必要かな」

 イチもガックリしている。


 それを聞いたガモフが額にシワを寄せた。

「あんたらは、搭載型遷時空跳躍装置を手に入れたいのか。それなら武装輸送船でも販売するようにならんと無理だと思うんじゃが」

「武装輸送船……普通の輸送船とはどう違うんだ?」


 モウやんが疑問を口にすると、ガモフがドヤ顔で説明する。武装輸送船は基本構造から違うらしい。軍艦に近い構造で攻撃に対して強い耐性を持つ構造になっているそうだ。

「それに相場が全然違う。通常型輸送船の一〇倍はするんじゃ」

「だったら、武装輸送船の中古を販売すれば儲かるんじゃない」

「そんなこと、同業者なら誰でも知っとる。武装輸送船がサルベージされ運ばれてくれば、取り合いになるくらいじゃ」


 先程言ったガモフの言葉が、ソウヤは気になった。

「けど、武装輸送船を販売するとか言ってたやんか?」

 ガモフが言おうか言うまいか迷うような様子を見せた。

「儂も会社を売るまで、いろいろ立て直しを考えたんじゃ。その一つが武装輸送船の造船事業じゃ」

「へえ、武装輸送船を新しく造ろうと思ったんや。成功は……しなかったんやな」


 ガモフがジロリとソウヤを見た。

「設計段階で、許可が下りんかったんじゃ」

「どんな武装輸送船やったんや?」

 ガモフが設計データを見せてくれた。特徴のない武装輸送船だ。ざっと見た限りでは欠点も見られない。


「良さそうに見えるけど、どこが駄目やったん?」

 ガモフが首を振った。

 宙域同盟の検査官は、どこがダメなのか教えないそうだ。自分たちで欠点を見付けられる技術力がなければ、武装輸送船の建造は認められないということなのだろう。


 通常型輸送船の構造を分析するソフトが存在する。そのソフトを使って、構造計算をさせても欠陥は見付けられなかったそうだ。

「俺たちで調べてみようやないか」

 ソウヤが言い出した。それを聞いて、ガモフが微妙な顔をする。

「お前たちのような子供に、何が分かると言うんじゃ」

 ガモフは技術者でもないソウヤたちを軽く見ているようだ。


 それは当然なのだが、ソウヤには頼りになる仲間がいる。ソウヤはデータをトートへ送り分析させた。

 トートが分析している間に、ソウヤとイチ、モウやんがガヤガヤと話を始めた。

「なあ、ソウヤはどこが問題だと思う?」

 ソウヤがモニターに映し出した設計図を見ながら、船尾を指差した。

「んー、船尾のここやけど、強度が足らんのと違うか?」

 ガモフが船尾部分をジッと見詰め、

「ここは問題ない。ちゃんと構造計算しておる」


「そうかな~。怪しいと思うんやが」

 トートが使用しているブルーアイ、モウやんの命名で『トートアイ』と呼ぶようになった小型ロボットが声を上げ始めた。

「分析ガ終ワリマシタ」

「結果はどうなんや?」

「二箇所、不具合ヲ発見シマシタ」


 トートの説明によると、ソウヤが指摘した船尾の部分とエンジンの接合部分に設計不良があるという。ガモフは否定したが、トートが計算結果を提示すると納得した。

「クッ、こんなガキにも分かるようなミスを気付かんとは……」

 ソウヤがドヤ顔をして、ガモフの肩を叩く。


「死ぬまで勉強だぜ。頑張りや」

 ガモフはガクリと膝を突いた。

 それからソウヤたちはワイワイという感じで、武装輸送船の修正案を検討した。教授とアリアーヌも加わり議論が白熱化する。

 結果が纏まった時、ガモフが設計した武装輸送船の半分ほどに修正が入り、全く別物となっていた。


「じゃあ、これを土台にしてちゃんとした設計データを完成させてね」

 教授がトートに頼んだ。

「了解シマシタ」

 トートが完成させた設計データは、一発で検査官のチェックを通過した。宙域同盟から武装輸送船を試作する許可が下りたのだ。


 これほど簡単に許可が下りたのには、理由がある。トートが完成させた設計データが完璧だったということ。そして、宙域同盟の職員の間で、ガモフという男が信用を得ていたことだ。

 教授の人物評価は的確だったようだ。


 試作の許可が下りた後、ソウヤたちは精力的に働き、武装輸送船用造船ドックを作り上げた。一ヶ月ほどで完成させたのだから、凄まじい技術力である。

 武装輸送船の試作船建造が、ガモフたちの手で始められた。ソウヤたちは建造作業には手を貸していない。造船ドックが完成した時点で、手助け無用だと判断したのだ。


 造船ドックで一番船を造り始めた頃、ボニアント星系で気になる情報が広まった。モルヴェット星系で、戦いが起きたらしい。

 それもバルゾック種族の軍艦と同じ第二階梯であるメルギス種族の探検船がである。

 メルギス種族の探検船は、大破し惑星ドレマークに不時着したというのだ。



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