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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
32/55

scene:32 地球の混乱

 日本が宇宙クラゲを発見した直後の地球。


 日本政府は先進諸国の代表を航空宇宙センターに集めた。アメリカから大統領特別補佐官、フランスは外務大臣、中国からは外交部部長助理などが参加していた。

 集まった人数は三〇人ほど、その半分ほどは通訳である。

 センターの会議室に集められた代表は、主催者として参加している文部科学大臣の崎坂へ視線を向ける。


「崎坂大臣、本日は宇宙クラゲについて、追加情報があると伺いましたが……」

 アメリカのアシュリー補佐官が声を上げた。アシュリー補佐官は日本通で日本語も話せる男である

 フランスのジョアキム大臣が薄い笑いを浮かべ。

「まさか、宇宙人が地球を侵略にきたというのでは、ないでしょうな」

 ジョアキム大臣はジョークのように言うが、目が笑っていなかった。


 イギリスの駐日大使が、ジョアキム大臣を睨むように見てから口を開いた。

「ジョークは不要だ。重大な問題が起きたから、日本も我々を呼び寄せたのだろう」

 崎坂大臣は厳しい顔をして話し始めた。

「日本の宇宙航空研究開発機構が発見した宇宙クラゲですが、攻撃的な生物かもしれないという可能性が出てきました」


 中国のチャン部長助理が、ムスッとした表情で、

「攻撃的? 根拠を示してくれ」

 崎坂大臣は火星が写っている写真を配るように秘書に命じた。

「これは?」

 アシュリー補佐官が尋ねた。


「火星表面に土煙が上がっているのが、確認できると思います」

 アシュリー補佐官は眉間にシワを寄せた。

「この土煙は、何です?」

「爆撃による煙です」

 会議室がざわついた。


「爆撃だと……宇宙人の仕業だと言うのかね?」

 ジョアキム大臣の声には、まさかという響きがあった。

「一番上の写真は、画像の一部を拡大したものです。次の写真が元々の画像です」

 そこには火星の上空に宇宙クラゲが浮かんでいた。


「馬鹿な……宇宙クラゲが爆撃したというのか?」

 ジョアキム大臣の信じられないという声が会議室に響く。

 崎坂大臣は別の写真を示し、他の場所でも爆撃があったこと、その上空に宇宙クラゲが漂っていた事実を説明した。

 会議室に広がる重い沈黙。


「ちょっと待て。この宇宙クラゲの一部は、地球へ向かっているのではなかったかね?」

 駐日イギリス大使の言葉で、各国代表がハッとする。

「その確率は、八七.五パーセントです。なので、宇宙技術が進んでいる国々の皆さんを、お呼びしました」

 アシュリー補佐官が、崎坂大臣に顔を向けた。

「判明した直後、同盟国である我々には、先に知らせて欲しかったですね」


 チャン部長助理が、アシュリー補佐官を睨む。

「同盟国……了見の狭いことだ。これは地球規模の問題なのですぞ」

 アシュリー補佐官がムッとする。

 その様子を見ていた駐日イギリス大使が、やれやれと肩をすくませた。


 沈黙していたロシアのグルノフ補佐官が口を開いた。

「崎坂大臣。日本は何か対策を考えておられるのか?」

 少しだけためらった崎坂大臣は、

「我が国では、宇宙空間を探索するシステムを構築しようと考えております」


 チャン部長助理が鋭い視線を向けながら、崎坂大臣に尋ねる。

「探索システムだけなのですか。敵を排除する方法は?」

 崎坂大臣は渋い顔をする。

「我が国の宇宙開発技術は、様々な成果を出してきたと自負しています。ですが、宇宙兵器に関するものは一切研究していません。そこで皆様の技術に期待しています」



 宇宙兵器の開発が検討された後、話は情報を公開するかどうかに移った。各国代表の意見で秘匿することに決まる。

 公開すれば、パニックが発生する可能性が高いと判断したのだ。

 宇宙クラゲについての報告が終わった後、アシュリー補佐官は急いで帰国した。

 ワシントンDCに到着した補佐官は、ポーカー大統領に報告するため、休む間もなくホワイトハウスへ向かう。


 アメリカ・ファーストを標榜するポーカー大統領は、五〇代半ばの白人男性である。

「それで、日本からの情報とは、どういうものだったのだ?」

 アシュリー補佐官は厳しい顔をして、大統領と相対する。

「地球規模の災害についての警告と協力要請でした」


 ポーカー大統領は宇宙クラゲについての情報を聞いた。

「それが本当なら、アメリカにとって重大な危機だ。君は軍と協力して対策チームを作りたまえ」

「承知しました」

 部屋を出ようとするアシュリー補佐官を大統領が呼び止めた。


「日本は、探索システムを打ち上げようとしているのだな」

「そうです。地球観測衛星を改良したものを使うつもりのようです」

「NASAに命じて、我が国も打ち上げろ。情報を日本だけに頼りたくない」

「……しかし、打ち上げ予定は決まっておりますが」

「そんなことを言っている場合か。大統領命令として伝えろ」


 日本は探索衛星の開発を急がせた。普通なら予算や人材などいろいろなバランスを考えながら、プロジェクトを進めていくのだが、今回は例外だった。

 最上の人材と無制限の予算を投入し、探索衛星の開発と打ち上げの準備を進めた。

 そして、探索衛星が完成。


 種子島宇宙センターから打ち上げられた。

 探索衛星が衛星軌道に乗り、高性能光学機器から送られてくる画像データの解析が始まった。

 芹那は解析済みの画像データをチェックする作業を手伝っていた。鮮明化された画像データをモニターに映し出して、一つずつ宇宙クラゲが映っていないか確認する。

 非常に根気のいる作業である。

「少し休みませんか」

 同じ作業をしている青木が声をかけた。


 芹那と倍ほども歳が違う青木は、肩が凝っているのか首をコキコキ鳴らしている。

「簡単には見つからないものですね」

「宇宙は、広いからね」

 こういう作業は気が滅入ってくるものだ。偶に息抜きをしないとやっていられない。


 そういう作業が一ヶ月ほど続いた頃、芹那は宇宙空間に浮かぶ小さな点を見付けた。

 その点を拡大してみる。

「これだ。見付けました」

 発見された宇宙クラゲの位置から、地球に到達するまでの時間が計算された。半年後である。火星と地球の距離が離れる時期だったのが、幸いしたようだ

 その情報は政府に報告され、全世界に公表された。


 秘匿しなかったのは、世界各国の研究者が、宇宙クラゲを探しているからだ。他国で発見されるのは、時間の問題だと分かっていた。

 この公表により、宇宙クラゲは世界規模でブームとなった。

「おい、宇宙クラゲが地球に来るんだとよ」

「望遠鏡を買ったら、見えるかな」

 そんな会話が世界中で繰り返された。


 一方、宇宙クラゲが平和的な存在ではないと知った一部の先進諸国は、迎撃する準備を始めていた。一つは航空機から発射される衛星攻撃ミサイルを改良し、宇宙クラゲを撃墜する能力を持たせることだ。

 他にも地上からミサイルを衛星軌道上にまで打ち上げて、迎撃するという地対天攻撃ミサイルも開発している。

 日本は地対天攻撃ミサイルを開発しようと予算を割り当てた。


 世界の主要国が、なりふり構わず宇宙兵器の開発を始めた。事情を知らない他国は、不審感を募らせた。

 その中でアジアの先進国である韓国が、日本政府や中国政府に探りを入れ始める。

 そして、真実を探り当てた。

 韓国のカン大統領は、宇宙クラゲの秘密を打ち明けられた国々の中に、自国が入っていなかったことに怒りを覚えた。


 その後、カン大統領が行った行動に対して、世界各国の首脳が非難の声を上げることになる。何を意図したのか分からないが、カン大統領は事実を全世界に向け発表したのだ。

 ある日、韓国大統領はマスコミに重大発表があると通知し、各国の記者やテレビクルーの前で秘密を暴いた。

 壇上でスポットライトを浴びた韓国大統領は、憮然とした顔で、

「これは世界に対する裏切りです。先進数ヶ国は全世界の人々の命に関わる重要情報を、意図的に隠したのです。特に日本政府の責任は重大だ」


 世界に恐怖が広がった。

 航空宇宙センターで働く芹那は、韓国の発表を知り顔をしかめた。

「韓国は、何を考えているのでしょう?」

 青木が不機嫌そうにしている。


「これでパニックになったら、どうするつもりなんだ」

 その懸念が的中した。

 まず株式市場が反応した。世界同時株安だ。下がった株価に人々は不安になり、混乱を増大させる。

 これほど重要な情報を秘匿していた日本・アメリカなどに非難が集まった。

 日本政府はパニックになることを恐れ、発表の時期を遅らせただけだと弁明。


 そして、秘密を公表した韓国に注目が集まる。

 韓国大統領は、宇宙クラゲの攻撃から人々を守る技術を必ず開発すると世界に約束した。

 アメリカのポーカー大統領は、韓国の非難に反論した。

「何が裏切りだ。秘密にしたのには、理由があると思わなかったのか。これで宇宙クラゲ対策プロジェクトが遅れたら、どうするつもりなんだ」

 実際、宇宙兵器を開発するプロジェクトは、遅れ始めていた。世界の混乱が影響を与え始めているのだ。


 その日、芹那はチェック作業を早めに打ち切り、航空宇宙センターを出た。

 バス停に向かって歩いている途中、声をかけられた。

「等々力芹那さん、お久しぶりです」

 芹那が振り向くと、見覚えのある顔。


「覚えておられませんか。弟さんが行方不明になった時、お会いした刑事の五十嵐です」

「ああ、あの時の……もしかして、弟の行方が……」

 芹那の顔に喜びが浮かぶ。

 それを聞いた五十嵐警部の顔に、影がよぎる。


「申し訳ありません。弟さんに関する捜査に、進展はありません」

「……そうですか」

 期待した分だけ落胆は大きい。芹那は肩を落とす。

「弟の件でないなら、何の御用でしょう?」


「航空宇宙センターで働かれているようですが、弟さんの件と何か関係があるのか、聞きにきました」

 弟たちが行方不明となった直後、宇宙人がどうのという噂が流れた。そのことを五十嵐警部は、言っているらしい。

「まったく関係ありません。大学での研究と宇宙航空研究開発機構が関係しているだけです」


「そうですか。もしかして、宇宙クラゲの件と関連が?」

「それには、お答えできません」

 喫茶店に入って、捜査状況を詳しく聞いた。本当に進んでいないようだ。

「芹那さん、こう言うのも変なのですが、弟さんはもうすぐ帰ってくるような気がするのです」


 芹那は首を傾げた。先程までの話から、捜査が進んでいないと聞いていたからだ。

「宇宙クラゲ……あれは何かが始まる予兆なんじゃないか、という勘がするのです」

「えっ……宇宙クラゲに、弟が関連していると言うのですか?」

 五十嵐警部が曖昧な笑いを浮かべた。

「すみません。何の根拠もない刑事の勘です。気にしないでください」


 その時、喫茶店の前にある大通りで騒ぎが起きた。

 真っ白な装束を着た男が、大声を上げている。

「悔改めよ。これは神の警告である」

 こういう混乱が世に広まった時、変な宗教屋が現れるらしい。


「この先、ああいう連中が増えるんだろうな」

 五十嵐警部の呟きに、芹那が頷いた。

「刑事さん、弟は本当に戻ってくると思いますか?」

「そういう勘はしています。ですが、刑事としての公式な返事は、『分かりません』です」


 その数ヶ月後、宇宙クラゲが地球の衛星軌道まで近付いた。


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