表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
31/55

scene:31 万能型製造システム

 集団思考システムが起動した。

 ソウヤの意識がふわりと浮き、未知の領域に投げ出される。そこは濃密な何かで満たされた巨大水槽のような空間だった。

 不意にイチとモウやんの意識と繋がった。二人が驚いているのを感じられる。


『エンジン開発 ヲ 始メマス』

 トートの声らしいものが意識に響く。

 ソウヤの意識の中に宇宙船に使われるエンジンの知識らしいものが流れ込んできた。ソウヤはその流れを止めようと抵抗する。

『抵抗シナイデ』

 またもトートの声。


 ソウヤは抵抗をやめ、知識が流れ込むままにする。これはソウヤ自身の頭脳に知識が流れ込んでいるわけではない。

 集団思考システムが作り上げた集団知能コアに、知識が流れ込んでいるのだ。この集団知能コアは三人の意識と集団思考システムが作り上げたもので、人工的に作り上げられた一個の知性である。


 知識の流入が終わった。エンジンに関係する基礎知識と専門知識を得た集団知能コアは、エンジンの開発に取り掛かる。

 集団思考システムは、シミュレーション・システムでもあった。集団知能コアが出したアイデアを仮想空間で形にして、様々な実験を行う。

 そのシミュレーションで不具合を叩き出し、改良するという作業を繰り返す。


 ソウヤたちは数ヶ月も研究を続けたような気分になった。だが、実際は数時間である。

 疲弊したソウヤたちは、トートの判断で集団思考システムから開放された。

「ううっ、頭が……」

「頭の中で、数式が踊っとる」

「もうやだ。死ぬ」


 きつい経験だった。集団思考システムから解放された直後は、二度とやりたくないと思う。

 トートの説明によると、開発進捗率は一五パーセントほどらしい。六日も続ければ設計完成となるだろう。


 ドームへ行っていた教授とアリアーヌが戻ってきた。二人は万能型製造システムの調査をしていたのだ。

「あのシステムは、二万七〇〇〇年前にモール天神族により放棄されたようなの」

 アリアーヌが報告した。

「なぜ、放棄されたんです?」

 こんな星に放棄されている状況を不思議に思ったイチが追及する。


「二万七〇〇〇年前というと、天神族同士が戦っている時期なのよ。その戦いで何かあったとしか思えないわね」

 天神族の戦いは、想像を絶するものだったようだ。恒星が爆発し惑星が砕け散るなんてことは、日常茶飯事であったらしい。

「怖っ!」

 モウやんが声を上げた。


「でも、凄いよね。こんな装置を作れるのなら、工場なんて要らないじゃん」

 教授が難しい顔をする。

「そうでもないわ。この装置は膨大なエネルギーを必要とするのよ」

「核融合炉じゃダメなん?」

 ソウヤが確認した。


「全然足りない。大型核融合炉二〇基分のエネルギーが必要なの」

「そんなたくさんの動力炉があったっけ?」

 教授の情報に、モウやんが首を傾げる。ドーム内に動力室のようなものはなかったからだ。

「動力炉は、この惑星自体よ。惑星内部の熱エネルギーを電気に変換して使っているらしいわ」

 地球で地熱エネルギーを利用して発電している発電所があるので、そんなものかとソウヤたちは想像した。だが、モール天神族が利用しているのは、地下五〇〇キロ以上の深度にあるマントル層から発生する膨大な熱エネルギーらしい。


「もう一つ報告があるの」

 アリアーヌが少し興奮した顔で告げた。

「なんや?」

 ソウヤが報告を促した。

「ナゼル星人たちが、建造していた砲撃艇の設計データがシステムのメモリーに残っていたの」

「それがどうしたんや?」


 教授がニヤッと笑う。

「鈍いわね。今なら、あいつらが建造した砲撃艇を造れるということよ」

「ああっ、そうか」

 イチが声を出して驚いた。


 エンジンが作れなかった時は、その砲撃艇でトルメンタ星系を脱出すればいいという提案だった。素材はナゼル星人たちが持ち込んだ残りとユピテル号の異層ストレージに収納されているもので足りるらしい。

「だったら、砲撃艇のエンジンをユピテル号に取り付けられないの?」

 イチの提案を皆で検討した。だが、砲撃艇のエンジンは小型すぎるようだ。


 翌日から、イルツ型砲撃艇の建造とエンジン開発に分かれて作業が始まった。チェルバとミョルは、イルツ型砲撃艇に興味を持ったようで、教授たちを手伝うらしい。

「なあ、おらたち用の砲撃艇を造れないずらか?」

 教授がふむと考える。

「造れないこともないけど、体格に合わせて設計を変更しなきゃならないわ」

 イルツ型砲撃艇の操縦システムは、チェルバたちの体格には合わない。


「ここを脱出してから、考えたらいいんじゃないの」

 アリアーヌが意見を口にした。だが、チェルバは納得せず。

「それじゃあ、ダメずら。万能型製造システムを使えないずら」

「確かに万能型製造システムが使えないと、建造に時間がかかるだろうけど、いいじゃない」

「分かってないずら。設計データと製造ノウハウは万能型製造システムから取り出せないと聞いたずら」


 万能型製造システムに蓄えられている設計データと製造ノウハウは、モール天神族が放棄した時に、一度全消去されたらしい。

 現在、システムにある設計データと製造ノウハウは、ナゼル星人のラガマンたちが用意したもので、イルツ型砲撃艇の建造に必要なものだけのようだ。

 ちなみにエンジンの製造ノウハウは、イルツ型砲撃艇の製造に必要なプラズマエンジンのものが入力されているようだ。


「そのようね。だけど、建造した砲撃艇を調査し、別の星で建造すればいい」

「それって、年単位の時間が必要ずら」

 教授が渋い顔をする。

「まあ、それくらいはしょうがないでしょ」


「チェルバ様、あっしにいい考えがあるずら」

 突然、チェルバの家来であるミョルが口を挟んだ。

「お前にいい考えだと……あまり期待できねえずらが、言ってみろ」

「あの万能型製造システムを、ユピテル号の異層ストレージに入れて、脱出するずら」


 教授が呆気に取られたような顔をする。

「そ、それは考えつかなかったわ」

 万能型製造システムは、異層ストレージに入れられる大きさである。

 アリアーヌが問題に気付いた。

「でも、動力はどうするの。万能型製造システムの動力は惑星自体なのよ」


「そんなものは、どうにでもなるずら」

 チェルバが目を輝かせていた。ミョルのアイデアが気に入ったらしい。

 教授が嫌な笑いを浮かべる。

「うふふふ……。そうね、奴らへの仕返しにもなるわね」


 教授たちは話し合い。まずイルツ型砲撃艇を建造することにした。エンジンが完成しなかった時に備えてである。

 その日のうちにイルツ型砲撃艇が完成した。教授は『砲撃艇アンバー』と名付ける。

 これで最悪この惑星から抜け出せないという事態は回避できる。

 教授たちは試運転をしてみた。操縦席に座る教授は、軽々とアンバーを宇宙へ飛ばし惑星を一周した。


「いい船だわ。操縦に対する反応も早く、加速もいい」

 チェルバが火器担当席に立って照準装置を立ち上げた。

「どうするつもり?」

 アリアーヌが声をかけた。

「これは砲撃艇ずら。主砲を試し撃ちしなければ、性能の善し悪しは分からんずら」


 モノポール粒子砲を起動させ、直径一キロほどの小惑星に照準を定める。

「ロックオン、発射ずら」

 紅く輝く光のボールが、凄まじい速度で発射された。紅く丸い力場の内部にはモノポールが詰まっている。

 そのモノポール粒子弾が、小惑星に命中。次の瞬間、小惑星が木っ端微塵となって爆散した。


「みょひょひょ、凄い威力ずら」

 チェルバが変な笑い声を上げ喜んだ。

「砲撃艇としては一級品ね。戻るわよ」

 教授は地上へ降下を開始した。


 教授たちがユピテル号に戻ると、ソウヤたちがリビングベースでぐったりしていた。集団思考システムを使い、へとへとに疲れたらしい。

「トート、エンジン開発の進捗はどうなの?」

 教授がトートを呼んだ。本当のトートではなく、トート専用となっているブルーアイ・ロボットである。


 ソウヤの近くにいたブルーアイが、教授の方へ転がってきた。

「順調デス。後五日ホドデ、設計ハ完了シマス」

「そう。船体の修理はどうなっているの?」

「カワズロボ ガ 六割ホドマデ修理シマシタ」


 明日には船体の修理も終わりそうである。

 その後は壊れたエンジンを分解し、万能型製造システムに素材として提供する作業が始まるだろう。

 時間は瞬く間に過ぎ去り、エンジンの設計が終わった。ソウヤたちの脳みそを使い倒して設計したエンジンは、『ノヴァL型プラズマエンジン』と命名された。

 以前のエンジンより二.五倍ほど高出力となったので、エンジン自体は大型化している。


 ソウヤたちはエンジンの設計データを、万能型製造システムに入力し製造した。

 出来上がったエンジンの取り付けは、カワズロボが行う。

「ねえ、前はエンジンが四つだっただろ。一つで大丈夫?」

 モウやんが不安になったようだ。


「仕方ないんや。一基分の材料しか残ってないんやから」

「サブエンジンなら、後で取り付けられますよ」

 ソウヤとイチの返答を聞いて、モウやんは納得した。


 試運転を行い、エンジンが大丈夫なのを確認する。

 惑星に再着陸したユピテル号の内部で、話し合いが行われた。今後の方針についてである。

「ナゼル星系に戻って、あいつらを訴えるべきじゃない」

 アリアーヌが意見を言った。

「どうだろうね。相手の正体も分からないんだよ」

 教授は訴えるということに乗り気ではないようだ。


「教授は反対なのですか?」

 イチが気になって確認した。

「相手の正体が分かるまで、何年もナゼル星系に縛りつけられるかもしれない。それが嫌なのさ」

 地球に一刻でも早く帰りたいソウヤたちも沈黙した。


「それに、あたしたちが無事だと知った相手は、殺し屋を雇うかもしれないわ」

「だったら、どうするんや?」

「そこで、ミョルが素晴らしいアイデアを思いついた」

 イチがミョルへ視線を向けた。

「どんなアイデアです?」

「万能型製造システムを奪うのよ」


 それから作業は大変だった。

 万能型製造システムと動力部を切り離し、ドームから引き出し異層ストレージに収納する。

 結局、収納が終わったのは一ヶ月後だった。

 惑星を飛び立ったユピテル号は、ナゼル星系へ戻らなかった。敵が何者かも分からないのに、ナゼル星系へ戻るのは危険だと判断したのだ


「負けて逃げ出すみたいで、嫌だな」

 モウやんが愚痴っぽく告げた。

「仕方ないやろ。相手が誰だか分からないんやから」

 ソウヤが答えた。

 手掛かりは、敵数人の名前だけである。だが、その名前はよくある名前らしく敵を特定するのは難しいらしい。それにナゼル星人の顔は、ソウヤたちに判別できない。微妙に違うらしいのだが、全部猫顔である。


「でも、結末がなんかすっきりしない」

 アリアーヌも納得していないようだ。

 ユピテル号はスクリル星系に向かった。教授の故郷である。

 一方、ナゼル星系に戻ったラガマンたちは、依頼者にイルツ型砲撃艇を引き渡し取引を終えた。


 そして、数カ月後に再びトルメンタ星系へ飛んだ時、万能型製造システムがなくなったことを知る。

 イルツ型砲撃艇が建造できなくなったミゼラル社は、新しい砲撃艇を開発しようとした。だが、開発に失敗。その後も不運が続き、数年後には倒産。ミゼラル社のエキゾット・ショウヘアは野良猫───ホームレスとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ