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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
29/55

scene:29 荒れ狂う星

 クネル星系の遭難船から九人のナゼル星人を救出。負傷者はいないようだ。ソウヤたちはユピテル号の連絡艇格納庫に遭難者を入れた。

 ユピテル号の居住空間は狭く、九人を入れられるだけのスペースがなかったのだ。

 その格納庫には連絡艇は存在せず、その代りに駆龍艇が固定具で縛り付けられていた。

「ありがとうございます。私がタマレシュ号の船長ミケイラです」

 遭難船の船長らしい男がソウヤたちに礼を言った。


 ナゼル星人は小柄な猫人間である。ソウヤやイチと背丈は変わらず、ぐんぐんと成長しているモウやんより頭一つ小さい。

 人型であるが、縦長の瞳・小さい鼻・長いヒゲ・艷やかな毛皮で覆われた身体を持つ。手は短いがちゃんとした指があり、人間が可能なことは大概できそうである。

 但し、マイペースで気まぐれな性格なので、集団行動は苦手だという。


 ナゼル星人たちは、宇宙服を脱いでホッと一息ついた。

「ねえ、どうして遭難したの?」

 モウやんが遭難船について尋ねた。

 ミケイラ船長の説明によると、遷時空スペースから通常空間に戻った時に小惑星と衝突したらしい。屠龍戦闘艦のような船ならバリアで弾き返すのだが、タマレシュ号にバリアはなかった。


「運が悪かったんやな。それで、どこへ行く途中やったんや?」

 クネル星系は跳躍リングしかない中継点にしかすぎない。星害龍を狩る屠龍猟兵しか用のない星系だった。

「グレブ星系に向かう途中だったのだ」

 跳躍禁止星系であるトルメンタ星系の手前にある星系だった。のどかな農耕惑星が一つだけの寂れた星系である。

 タマレシュ号は食料品の運搬を請け負っていたようだ。


 ソウヤとモウやんは、状況を説明するためにブリッジへミケイラ船長を連れていった。

「教授、遭難船の船長を連れてきたよ」

 モウやんの言葉で、教授・イチ・アリアーヌの三人が振り返った。

「ここに連れてくる前に、身体検査をしたんだろうね?」

 ソウヤは首を傾げた。

「何でや?」

「遭難者の真似をして、船に入り込み乗っ取る海賊がいるの。用心しなさい」


 ソウヤたちは驚いた。

「ええーっ、知らんかった」

「それだったら、今からでも身体検査しよう」

 モウやんがミケイラ船長へ顔を向けた。


「それは困るにゃ」

 ミケイラ船長の冷たい声が響く。

「なんですって!」

 教授が叫ぶ。船長は腰に巻いているベルトから、大きなバックルを取り外した。そのバックルは、船長の手の中で銃へと変形する。


「動くにゃ。こいつは本物の銃だぞ」

 教授がチェルバたちに助けを求めようとした。それに気付いた船長が引き金を引く。銃から細い針が飛び出し、教授の席の背もたれに命中。ボンと爆発した。針は爆発物でもあったようだ。

「きゃあああ!」

 アリアーヌの悲鳴がブリッジに響いた。


 自分たちの落ち度だと分かったソウヤの顔から血の気が引く。

 教授がミケイラ船長を睨んだ。

「何が目的なの?」

 船長が睨み返し、

「倉庫のハッチを開けろ。それからロボットの類に停止命令を出せ」

 教授は溜息を吐き、ユピテル号の制御脳ディアーナとロボットたちに命令する。ディアーナという名前は、最近になって船舶用制御脳にも名前が必要だ、とモウやんが言い出し名付けたものだ。

「ディアーナ、第二倉庫のハッチをオープン」

 メインモニターに倉庫の映像が表示され、ハッチが開く様子を確認。

 その後、端末や無線機の類はすべて取り上げられた。


「よし、これから荷物を搬入する。この船は標準四型コンテナに匹敵する積載量があるらしいにゃ」

 その積載量は屠龍猟兵組合に申告しているものである。実際の積載量は、その三分の一ほどだ。切り札としている武装や実際の出力を隠すため、倉庫の広さを大きく申告していたのだ。

 (まずい。積載量を誤魔化したことがバレそうや)

 ソウヤがちょっと焦った時、教授が涼しい顔で、

「その荷物、真空でも大丈夫なものですか?」

「なぜ、そんなことを訊く?」


「この船の中央倉庫には亀裂が入っており、修理が必要なのです」

 中央倉庫など存在しない。中央倉庫は異層ストレージを指す隠語である。

「何っ……航行に支障があるのではないか?」

「いいえ、倉庫部分だけです。船体構造に問題はありません」


「チッ、その倉庫は真空だと言うのだな。宇宙服での作業は面倒だ。お前たちが中央倉庫に運べ」

 ミケイラ船長は、教授とアリアーヌを人質に取りソウヤたちに命令した。そして、連絡艇格納庫にいる仲間を呼び寄せ、教授とアリアーヌを小さな消耗品倉庫に閉じ込めた。

 九人のナゼル星人は、ブリッジと消耗品倉庫前に分かれ、ユピテル号を占拠した。


「仕方ない。荷物を運びに行こう」

 イチがソウヤとモウやんを促した。

 ソウヤたちは通路に出ると、着ている服を宇宙服にモードチェンジさせた。これはグラトニーワームの革を使って仕立てた高機能宇宙服だ。

 着心地がいいので、毎日のように着ている。洗濯は特別製のクリーニング装置があるので、寝る前に放り込んでおけば新品同様となって、翌日も着られる。


「どうしたら、いいんだろう」

 モウやんが途方に暮れたような顔をしている。

「どうしようもない。教授とアリアーヌを、人質に取られとるからな」

 ソウヤは口をへの字に曲げてから返事をした。


 もちろん、屠龍機動アーマーの使用が許されるはずもないので、フライングバイクに乗って遭難船へ飛ぶ。

 積んであった荷物を運び出し、ユピテル号の倉庫に入れる。一部は密かに異層ストレージに収納した。

 ナゼル星人の一部は遭難船に戻り、武器などの装備を回収してきたようだ。

 ソウヤたちはブリッジに戻った。そこでは、六人のナゼル星人が待っていた。

「運び終わりましたよ」

 イチの報告に、ミケイラ船長が頷いた。


「それじゃあ、船をトルメンタ星系へ向かわせろ」

 その命令にイチが驚く。

「トルメンタ星系だって、跳躍禁止となっている星系じゃないか」

 ミケイラ船長がキッとイチを睨む。

「黙って向かえばいいんだ」


 イチは操縦席に座ると、ユピテル号を発進させた。

 ナゼル星人たちは自分たちで操縦しようとはしなかった。独特の癖のある屠龍戦闘艦を操縦するのは、訓練が必要だからだ。

 ソウヤとモウやんは、ブリッジの片隅で小声で相談を始めた。

「チェルバたちはどこに消えたんや?」

「さあ、あいつら狭い場所が好きだから。どこかに潜り込んで寝てるんじゃない」

 フェレットに似ているファレル星人は、狭い場所が好きだという習性がある。


 ユピテル号は跳躍リングを潜り、遷時空スペースに滑り込んだ。

 数時間後、そろそろ通常空間に戻ろうとする頃、ミケイラ船長が指示を出す。

「遷時空スペースから出たら、気を付けろ。トルメンタ星系は、強烈な太陽風と磁気嵐が吹き荒れているぞ」

 通常空間に戻った船が、高密度の太陽風を受けて流される。


 イチがディアーナにスラスターを噴かし姿勢制御するように指示する。

「さすが屠龍戦闘艦だ。このくらいの太陽風じゃビクともしにゃいようだにゃ」

 船長が感心したように褒める。

「どこへ向かえば?」

 イチが進路について質問した。

「少し待て、迎えの船が来る」


 一時間ほど待っていると、中型武装輸送船が接近してきた。ユピテル号の二倍ほどある輸送船だ。

「あの輸送船の後ろにつけろ。行き先は、あの船が教えてくれる」

 イチは仕方なくユピテル号の航路を、輸送船を追尾するようにセットする。

 トルメンタ星系は、五つの惑星が恒星の周りを公転している。その中心にある恒星が、荒れ狂っていた。

 恒星表面から爆発現象であるフレアが頻発し、無数のプロミネンスが立ち昇る。


 先を飛ぶ武装輸送船は、第一惑星を目指しているようだ。

「おい、第一惑星へ向かうつもりやないやろな?」

 ソウヤは恒星に最も近い公転軌道を周回している第一惑星の状況を見て、声をあげた。その惑星は恒星から噴き出る太陽風と輻射熱により、こんがりと焼かれていたからだ。

「丸焼けの惑星に飛んで、何するつもりや?」


「黙れ。これ以上しゃべれば、殺す」

 ミケイラ船長は、遭難船から運んできたブラスター銃をソウヤに向けた。

 未来的だが、無骨な銃だ。ソウヤの鼓動が速くなり、恐怖が心の底から湧き起こる。

「分かった」

 船長が馬鹿にするように笑った。

「屠龍猟兵は度胸のある奴らだと聞いていたが、そうでもにゃいようだにゃ」

 ナゼル星人が一斉に笑った。ソウヤは悔しそうに唇を噛みしめる。


 第二惑星の公転軌道を過ぎた頃、モウやんが星害龍に気付いた。

「光学探査システムが、星害龍らしきものを発見」

 映像から自然物と人工物・星害龍を判別するシステムが、星害龍を探知したらしい。

「敵は甲殻類星害龍4型、噴進ヤドカリだよ」

 モウやんの声で、星害龍の正体が判明した。

「馬鹿な。この星系にいるのは、軟体星害龍3型と軟体星害龍1型のはず」

 ナゼル星人たちも噴進ヤドカリの存在は予想外だったようだ。ちなみに軟体星害龍1型は宇宙クリオネ、軟体星害龍3型は岩喰いクラゲである。


 ミケイラ船長が頭の上にある三角形の両耳をピコピコとせわしなく動かし始めた。

「おい、迎撃しろ。前方の輸送船を守るんだ」

 現れた噴進ヤドカリは三匹、ユピテル号の戦力からすれば簡単に倒せる数だ。

 イチがソウヤに顔を向け、

「迎撃を頼む」

「おう」

 ソウヤはしっかりした声で返事をし、武装システムを立ち上げた。


 ミケイラ船長たちは、武装システムの中に五六口径荷電粒子砲がないのに気付いた。

「五六口径荷電粒子砲は、どうした?」

 船長の質問に、ソウヤの顔に苦いものが浮かぶ。

「星害龍に破壊されたんや。けど、代わりの武器がある」

「それなら、お手並みを拝見しよう」

 偉そうに言う船長を、キッとした目で見てから照準システムに目を向ける。


 噴進ヤドカリは長距離ミサイルのような感じで飛翔中だ。この星害龍は、最高速度がパーチ4を超える。星害龍の中で最速に属する化け物だ。

 パーチ1が光速の〇.一パーセントなので、その四倍である。

 噴進ヤドカリの戦い方は、獲物を槍のように鋭い殻の先端で貫き、仕留めるのが常套手段のようだ。輸送船の平均的な最高速度がパーチ2ほどなので、輸送船なら確実に破壊されるだろう。


 ソウヤは船尾にある単装ボソル荷電粒子砲を操作し、噴進ヤドカリをロックオンする。静かに発射ボタンが押された。

 ボソル荷電粒子砲が発射された衝撃が船体を走った。その一撃で細長い巻き貝のような殻が破壊され、体液が宇宙に放出される。

 ソウヤは次々に荷電粒子を放ち、噴進ヤドカリを仕留めた。


 ナゼル星人たちは、ユピテル号の戦闘力に感心したようだ。

「よし、第一惑星の赤道付近の島に着陸しろ。この船は惑星離着陸可能な船だろ」

 航宙船のほとんどは、惑星離着陸が不可能である。巨大な動力炉やエンジン・タンクなどを搭載した航宙船ごと惑星に離着陸可能とするには、離着陸用の装備が必要となるからだ。

 だが、ユピテル号には加速力場ジェネレーターがあり、離着陸可能だった。


 メインモニターに、第一惑星の表面が大きく映し出されていた。海水は干上がり、白い塩だけが残った海。大地は赤茶け、緑は残っていない。ミケイラ船長の指示で赤道上の島を拡大する。

 島と言っても、元は島だったというものだ。

 その中央にはドーム型の人工物があった。一見廃墟のように見える建物である。その横には広い空き地があり、そこへ着陸が可能なようだ。


 先行する輸送船から、着陸用の船が発進した。輸送船自体は離着陸ができないらしい。

「さあ、着陸しろ」

 ミケイラ船長に促され、イチは着陸の指示を始めた。

 ユピテル号がゆっくりと惑星へ降下する。惑星の大気の状態は最悪だ。大型台風並みの風が吹き荒れている。

 船体がゆらゆらと揺れる。

 イチは必要以上にゆっくりと降下した。惑星への着陸は初めての経験で慎重になっているのだ。


 ガシンと衝撃が走り、ユピテル号が赤茶けた地面に着地。

「おい、荷物を建物に運び込め」

 運び込めと言われても、人力で運ぶのは時間がかかる。

「輸送トラックを用意している。ロボットを使っていいから積み込め」


 ナゼル星人がドーム型の建物の中から、トラックを運転してきた。動力は電気だったが、普通のトラックだ。

 文明が発達すれば、惑星上も空飛ぶ車だらけなのかと、ソウヤたちは想像していた。だが、エネルギー効率を考えれば、車輪をつけた車の方が効率が良いらしく普通にタイヤで走る車も多い。

 それに強い風が吹き荒れる惑星では、空を飛ぶのは危険だ。

 トラックは何台もあり、輸送船から下ろした荷物も積み込んで建物に運んでいる。


 第一惑星の重力は、地球より弱いようだ。大気の成分は呼吸可能であるが、実際は特別な呼吸マスクが必要だった。大気の温度が高すぎるのだ。

 ソウヤたちが降り立った初めての異星の惑星が、こんな惑星だというのは、残念だった。

「お前ら、ロボットを使って、逆襲しようにゃどと考えるにゃよ。こっちには、人質がいるんだからにゃ」

 ソウヤたちを見張っているナゼル星人の一人が忠告した。

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