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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
28/55

scene:28 屠龍猟兵の日常

 加速力場砲の驚異的な威力を目にしたソウヤたちは、続けて二発目、三発目を発射。その威力を確かめた。

「いいでしょう。次はボソル荷電粒子砲よ」

 教授の指示で、ボソル荷電粒子砲が用意された。船首上部装甲に設置された連装ボソル荷電粒子砲と船尾上部装甲に設置された単装ボソル荷電粒子砲が砲撃標的区画に向けられる。

「まずは単装ボソル荷電粒子砲や。準備でけたでぇ」


 モウやんが手を上げた。

「ねえねえ、僕に撃たせてよ」

「標準モードよ。分かってるわね」

 教授が標準モードでの砲撃を許可する。モウやんは慎重に狙いを付け、地表の大岩に向かって発射。瞬時にして、オレンジ色の閃光が地表に突き刺さった。命中した大岩が砕け散り、地面が高熱で溶け大穴が開く。

「何か、荷電粒子砲は地味だね」

 モウやんの感想である。


「何言ってるの。あの穴の直径を見てみなさいよ」

 アリアーヌがモウやんに反論した。モウやんがモニターに映し出されている穴にタッチして、直径を表示させる。直径二八メルタと表示される。メルタはメートルとほぼ同じである。

「げっ……思ったよりでかい」

 今の一撃がビル一つなら吹き飛ばせる威力だと知ったモウやんは、考え込んだ。その様子を見たソウヤが尋ねる。

「どうしたんや?」

「こんだけ威力が有るのに、クラーケンには通じないんだよね。星害龍……どんだけ頑丈なんだよ」

 今更分かりきったことに感心しているモウやんに、教授とアリアーヌが呆れた顔をする。

「つ、次、特殊モードで砲撃するよ」

 モウやんが照れたような顔をしながら、照準装置を操作する。


 ボソル粒子を添加した特殊モードで発射した。オレンジ色ではなく青白く発光したビームが大岩に命中。標準モードと同じように大岩は爆散、地面に突き刺さったビームが先程の五倍ほどの大穴を開けた。一撃で東京ドームが吹き飛ぶ威力である。

「段違いの威力やな」

 ソウヤの言葉に、他の皆が頷く。

「ねえねえ、荷電粒子じゃなく、ボソル粒子だけを発射するようにできないの?」

 モウやんはボソル粒子だけなら威力が上がるんじゃないかと考えたようだ。だが、電磁場に影響を受けないボソル粒子は電力を使った加速方法が使えない。

 教授が説明すると、モウやんはガッカリした。


 試射を終わらせたソウヤたちは、新しい武器の性能に満足しスペースコロニー『ニューミュークⅢ』へ戻った。

 ユピテル号の修理と武装が完了し、屠龍猟兵の仕事を再開。屠龍猟兵組合に依頼された案件をいくつか引き受け、問題なく達成する。

 引き受けた案件は、輸送船の護衛や星害龍退治だ。十分に武装したユピテル号にとって、簡単な仕事だった。

 ソウヤたちは屠龍猟兵の仕事を続けながら勉強を続け、イチは航宙船操縦士1級、他の者は航宙船操縦士2級の免許取得を目指す。

 ちなみに、教授は航宙船操縦士2級をすでに取得し、ユピテル号の正式操縦者として届け出ている。


 そんな生活が四ヶ月ほど経過した。アリアーヌが休憩しようとリビングベースに戻った時、使っていないはずの部屋に誰かがいる気配に気付いた。

 アリアーヌはドアを開け、中を覗いてみる。

 部屋の中央にソウヤが膝を抱えて座っていた。壁のモニターに惑星ミュークの森林が映し出されていた。以前、惑星ミュークの森林は地球の自然に似ているとモウやんが言っていたのを、アリアーヌは思い出した。

 その森林を見詰めるソウヤの目には涙が溜まっている。

 普段のソウヤは、鋭い目付きをした気の強い少年である。

 故郷を離れて二年が経過している現在、故郷が恋しくなり感傷的な気分になる時もあるのだろう。

 アリアーヌはソウヤに気付かれないように静かに部屋の前から離れる。そして、アリアーヌ自身の故郷であるケビスダール星での思い出が心に溢れてきた。


 ソウヤは日本の森に似たミュークの光景を見ながら、家族のことを思い出していた。ソウヤが甘えると優しく抱きしめてくれた母親、勉強しろとうるさかったが海やキャンプに連れて行ってくれた父親、歳の離れた弟に優しかった姉たち。

 (帰りたい。あの家に帰りたい)

 ソウヤには溢れ出る涙を止められなかった。



 その数日後、ユピテル号のリビングベースにある植物工場では、ソウヤたちがサツマイモと区別がつかない芋の収穫をしようとしていた。

 植物工場で栽培される野菜は、水耕栽培と特殊な土を使うものが存在する。マニュアルによると、サツマイモは特殊な土を使って栽培するとあるので、この区画には購入した特殊な土が五〇センチほどの厚さで入れてあり、その上に緑色のシートが被せられていた。

 このシートは無重力になった場合に、土がバラバラにならないように押さえるためのものである。サツマイモの区画は一アールほど、シートに開けられた穴から伸びた蔓に青々とした葉が茂っている。

「収穫するぞ」

 モウやんの掛け声でシートを切り裂き芋掘りが始まった。軽い土を掘ると赤い芋がゴロゴロと出てくる。

「うまそうな芋やな」

 ソウヤがサツマイモのズッシリとした重さに満足そうな声を上げた。

「やっぱり、焼き芋が美味しいんでしょうか?」

 イチも楽しそうだ。


 アリアーヌは何が楽しいんだか分からないという顔で、芋掘りの風景を眺めている。

「そんなこと、カワズロボにやらせればいいのに」

 モウやんはアリアーヌに顔を向け呼びかける。

「アリアーヌも一緒にやろう。面白いよ」

「汚れるから、嫌よ」

「楽しいのに」

 一アールの植物工場で収穫できた芋の量は、二〇〇キロほど。

「凄い量だな。五人じゃ食べきれないんじゃない」

 イチの発言に、ソウヤが反論する。

「心配あらへん。焼き芋、天ぷら、大学芋……色々あるやないか」

 ソウヤの言葉は正しかった。サツマイモが傷む前に、食べきってしまった。但し、半分以上を教授とアリアーヌ、チェルバたちにより食べられてしまったのだ。


 サツマイモがなくなったのを知ったアリアーヌが、

「ええーっ、もうなくなったの。あなたたち、もう一度お芋を栽培しなさい」

「ちょ、ちょっと待ってよ。芋のことはあんまり関心がなかったじゃないか」

 アリアーヌがプイッと目を背けた。

 イチが笑い声を上げた。

「気に入ったみたいです。また栽培したらいいよ」

「今度は手伝ってもらうからね」

 モウやんがアリアーヌに言った。


 植物工場では、サツマイモの他に何種類かの葉野菜と玉ねぎ、ねぎ、小ねぎ、人参、ジャガイモなどを栽培していた。それらの野菜はソウヤたちの食材として使われている。

 料理はカワズロボが行っていた。アリアーヌと教授は料理に向いていなかったのだ。特にアリアーヌの作った料理は食材の残骸と化し、他の皆から料理禁止を言い渡された。

 ソウヤたち三人の中では、イチに料理の才能があるようだ。


 カワズロボの手料理? を食べた後、チェルバによる屠龍機動アーマーの指導が始まった。

 屠龍機動アーマーの宇宙空間での移動方法は加速力場ジェネレーターだけだ、とソウヤは思っていた。だが、それは違うらしい。

 一流の屠龍機動アーマー使いは、ボソル粒子を使った移動方法を使うらしい。

「ほりゃ、ボソル粒子を手足に纏うのが基本ずら」

 ソウヤはアーマー内に流れ込んでくるボソル粒子を手足に導き留める。そのボソル粒子を飛びたい方向とは反対に撃ち出すことで加速する。


「なあ、これってパーティクル銃の代わりになるんやないか?」

「基本的にはそうずら。けど、パーティクル銃には発射時の反動がないずらが、これには反動があるずらよ」

 知らなかったが、パーティクル銃は反動のキャンセル機能が付いていたらしい。

「それより、まずは移動方法を習得するずら」

 ソウヤはボソル粒子の噴射する反動で移動する訓練に励んだ。最初の頃は、滅茶苦茶だった。反動が制御できず、ジグザグ飛行を繰り返す。

 その移動法を習得するのに一ヶ月が必要だった。



   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ナゼル星系で闇のフィクサーと呼ばれる人物がいた。惑星ミュークのキエア大陸南方の最大都市デトロヤルに拠点を構えるエキゾット・ショウヘア。

 彼はナゼル星系最大の武器製造販売会社ミゼラルの創業者である。

 エキゾットはミゼラル本社ビルの最上階にある部屋から眺める景色が最高だと思っていた。

「衛星軌道上から見る景色もいいが、ここからの方が落ち着く」

 彼の部下であるラガマンが声をかける。

「顧問、ビヤゾラ様からイルツ型砲撃艇五隻の注文が来ております」

 エキゾットは耳をピコッと震わせた。

「にゃんだと……イルツ型砲撃艇は取引中止だと知らせたはずだ」

 イルツ型砲撃艇は、ミゼラル社の人気商品である。第二階梯種族ヤホウェが設計した小型快速砲撃艇であり、最高速度は光速の〇.四パーセントであるパーチ4、主砲はモノポール粒子砲。

 この兵器はN極またはS極の単一磁荷のみを持つ巨大粒子を撃ち出すものだ。戦艦の主砲クラス並みに威力がある兵器である。


 ラガマンが困ったような顔をする。

「それが……どうしてもイルツ型砲撃艇が必要だと言っているのです」

 エキゾットが低い唸り声を上げた。

「前回の取引で散々値引きさせられた。もう少し儲かる相手を探せ」

「ビヤゾラ様は、一隻五五〇億クレビット出すと言っておられます」

「むっ……五隻で二七五〇億か。やっと、あの砲撃艇の価値が分かったか」

 エキゾットは引き受けることにした。だが、イルツ型砲撃艇を建造可能な造船ドックは、跳躍禁止星系として指定されているトルメンタ星系にしかない。


 エキゾットが武器製造業者として成功したのは、トルメンタ星系で特殊な施設を発見したからである。部下たちは、それを造船ドックと呼んでいる。

 その星系の恒星は、木星クラスの惑星が衝突し異常活動を起こしていた。そのせいで強烈な太陽風が星系内を吹き荒れ、盛大な磁気嵐が航宙船の航行を妨害している。


 最上階の部屋で情報を整理していたエキゾットは、トルメンタ星系の状況を確認しラガマンを呼んだ。

「輸送船の手配はどうにゃった?」

 エキゾットがきつい口調で尋ねた。

「当初手配した輸送船の一隻が使えにゃいことが判明しました。トルメンタ星系の状況が悪化しているようにゃのです」


 ラガマンは系列企業が所有する一級輸送船二隻を手配したのだが、その中の一隻が強烈な太陽風に耐えられないと判明した。その宙域を安全に航行するには、バリアを形成する機能がある四層装甲鈑以上のものが必要なほど状況が悪化していたのだ。


「一隻ではダメにゃのか?」

「トルメンタ造船ドックに、運ばねばにゃらにゃい資材の量を勘案しますと、一隻では難しいのです。それに普通の輸送船ではにゃく、武装輸送船が望ましいようです」

「……星害龍が住み着いているのか?」

「はい。雑魚に分類される星害龍が多数住み着いたようなのです」

 トルメンタ星系に住み着いたのは、宇宙クリオネや岩喰いクラゲらしい。岩喰いクラゲは体長一〇メートルほど、口から岩を吐き出して攻撃する星害龍である。


「屠龍猟兵組合に頼めんのか?」

「はあ……跳躍禁止星系とにゃっておりますので、無理かと」

「チッ、奴らの船だけでも借りられれば助かるのだが……待てよ」

 エキゾットのヒゲがピクピクと動く。彼が悪巧みをしている時の癖である。こういう時のエキゾットが碌なことを考えていない、と知っているラガマンは顔をしかめた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ユピテル号を屠龍猟兵組合に登録する時、積載重量を多めに申告した。本当の最大積載重量で申告すると、異層ストレージに入れてある分の荷物が一致しないのだ。

 もちろん、異層ストレージの全容量を加算して申告すると船体の大きさを超えることになるので、ほんの一部の容量だけを加算しただけである。

 それでもナゼル星系を拠点としている屠龍戦闘艦の中で、最大積載量の船となった。


「今回の依頼、楽勝やったな」

 ソウヤがブリッジで機嫌の良い声を上げた。

 依頼はクネル星系で暴れている星害龍退治だ。相手は脅威度4の噴進ヤドカリだった。凄まじい速度で突撃してくるミサイルのような形状の星害龍に、一瞬ひやりとした。だが、ユピテル号に体当りされる前に、アリアーヌの正確な砲撃が仕留めた。

 操縦桿に手をかけているイチが、ソウヤに言い返す。

「一瞬ひやりとしたじゃないか」

「体当りされても大丈夫やろ。この船は五層装甲鈑で覆われているんやから」

「エンジンやスラスターに当たったらどうする。また修理が必要になるんだよ」

「それは嫌やな」


 その時、モウやんが警告の声を上げる。

「前方に航宙船を探知!」

「航宙船が遭難信号を発しています」

 アリアーヌが報告した。

 教授は三次元レーダーをチェックし、進路を変えるように指示した。船舶用制御脳が進路を変更し遭難船へと向かう。


 遭難船の近くにユピテル号を停泊させると、ソウヤとモウやんに遭難船に向かうように指示する。

 ソウヤは屠龍機動アーマーを装着、モウやんは宇宙服に着替えフライングバイクで外に出た。

 遭難船はエンジンが爆発しているようだった。

「あれは事故かな?」

「そうやな。海賊船もいないようやし、事故の可能性が高そうや」

 全長八〇メートルほどの遭難船は、小型輸送船のようだった。船首部分は無事なので、生存者がいる確率が高い。

 ソウヤたちは船首近くのハッチから中に入った。電源が切れておりロックは外れていた。二人は船内を探索しながら生存者を探す。

 ブリッジのドアをノックする。

「助けてくれ」

 ドアが開けられ、中に九人のナゼル星人が生き残っているのを知って、ソウヤたちは喜んだ。


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